彩---sai--- 巷では夏休みだ、盆休みだ、と言う話題があふれかえっている。 だがしかし、岩城も香藤もそんな話題とは無縁の環境の中にいた。 『ありがたいことに』――― と言えばよいのだろうか、 売れっ子俳優の二人 にとってこの時期は秋の番組改編期に合わせて連ドラの打ち合わせ などで多忙な日々を送ることを余儀なくされていた。 エアコンが効いた車中とスタジオとの往復、家に帰ることも侭なら ない。ましてや愛しい者とゆっくり過ごす、なんてことは夢のまた 夢であった。季節さえも体で感じられない・・・そんなことが当た り前になりつつあった。 収録先のスタジオに岩城は昨日からカンヅメになっていた。 望んでなった俳優の仕事だ。どんなに仕事が詰まっていてもそれが ストレスになることはない。だが、香藤と会えないのは・・・正直 言ってかなりのストレスになる。そんなことは表に出さないように 気をつけているが。 「今日は思ったよりも早く上がれたな・・・」 スタジオに入りっ放しなのが幸いしてか今日は早く上がることが出 来た。重い体を何とか動かし玄関の鍵を開ける。 (香藤は・・・?) 玄関に靴がないのだからまだ帰宅していないことは分かっているも ののそれでも無意識に香藤の姿を、声を期待してしまう。 そして次にすること・・・留守電の確認だ。 香藤は自分と違ってこまめに連絡を入れてくれる。 『今日はいつもより早く帰れそうだ』とか『仕事が押している』と か『これから帰る』とか・・・。 自分がそうしてもらって嬉しいのだから同じようにしてやりたいと は思うのだが、つい照れてしまってなかなか出来ない。 留守電には1件もメッセージが入っていなかった。そんなことで何 だかさっきより疲れが増したような気がする。 (そういえば・・・) 携帯のメッセージを確認してみた。 だが、小さなメッセンジャーは香藤の声を届けてはくれなかった・・・。 履歴は一件、昼過ぎに打たれたものだった。 『急にロケ先が変更になっちゃった!今日も戻れそうにないよ(ToT)』 時間がなかったのだろうか、取り急いだ感じの文章だった。それでも かろうじて入れた顔文字が香藤の心内を感じさせた。 今日も会えない・・・。そう思うとドッと今までの疲れが体にのしか かってくるような気がした。 そんな気分を少しでも払拭しようと手早くシャワーを浴びて冷蔵庫か らビールを取り出した。軽く飲んでそして寝てしまおう。 プルトップに手をかけたその時 ―――携帯が鳴った。 今度は香藤の声を運んでくる。 『岩城さん!? 今、どこ? 家?』 心なしか香藤の声が弾んで聞こえる。そしてやけに周りが騒がしい、 スタッフなのだろうか? 「今・・・家だ・・・。」 電話の向こう側が賑わっていると自分のいるところがとても寂しい ところに感じるものだ。 だが、そんな岩城の心情を知ってか知らずか香藤は言葉を続ける。 『じゃあさ、このまま携帯持ってベランダに出て?』 香藤の意図が分からない。それでも『いいから、いいから』と香藤 に言われるままにベランダに出て・・・ そしてまた言われるままに携帯の画面を見る――――――――― そこに映し出されたのは『花火』だった。どこかの花火大会のもの なのだろう、大輪の牡丹が小さな携帯の画面いっぱいに広がっていた。 『見えた?』 「あ、ああ。」 『良かった。急遽ロケ先が変更になったんだけど丁度そこの近くが 花火大会らしくて・・・さっき始まったんだ。今スタッフは撤収作 業だから岩城さんにも 見せたいと思って・・・。これから直帰すれば今日中に帰れそうだよ。』 手元の花火・・・弾む香藤の声・・・ それは何よりも自分の暗くなった心を明るく彩るものだった。 End ******************** |
◆ちづる様作◆
★ちづる様よりいただいた管理人の誕生日プレゼントです。
わーい!嬉しいです〜vvv
本当にありがとうございます。
香籐の優しさが岩城さんを満たしていく様子が素敵です・・・・。
いいなあ〜ラブらぶで・・・・・v
今年はちゃんとした花火が見られなかったなあ・・・・それが心残りです・・・。