ある日の出来事 「竹の子、竹の子・・・・・ただいま!!」 家に戻ってきたが返事は無し。 「俺のほうが早かったかな。でも、明日の岩城さんはオフだもんね(ニヘラ)」 清水から連絡が入った。 急に明日の仕事が延期になったので、オフになるって聞いて俺、香藤洋二の気持ちは上昇した。 おかげで、今日出演したクイズ番組でトップを取ってしまい、景品に竹の子をもらってしまった。 それも、生だから下ごしらえが必要となる。 親に連絡入れたら、持ってきてくれれば、下ごしらえから料理までしてあげようと言ってくれた。 「お袋、ありがとう。今日は竹の子尽くしだ」 思わず千葉の方に向かって礼を言っていた。 外に車の音がする。岩城が戻って来たようだ。 『じゃあ、竹の子と岩城さんを連れて、千葉にレッツゴー!!だな。』 「岩城さん、お帰りなさい。清水さん、ご苦労様でした。これ、少しですがおすそ分けです。食べてくださいね」 袋に入れた竹の子を持って玄関の外に、岩城さんを迎えに走り出る。 「香藤さん、すいません。岩城さん、じゃあ、明後日の11時にお迎えに上がります」 「ええ、清水さん。じゃあ、お疲れ様でした。香藤、どうしたんだ?」 清水に挨拶をして岩城は香藤に向き直った。 「実家に行こうと思ってね。岩城さん明日休みならゆっくりできるでしょう」 「はぁ?」 「竹の子もらったんだ。で、どうしたらいいか解らなくて、家に電話したら持って来たら竹の子料理してくれるって言われてね。 清水さんに岩城さんのスケジュール尋ねたんだ(って、その前に岩城さんのオフは解っていたもんね)」 香藤が嬉しそうに言い返し、岩城の手を引っ張って自分の車の助手席に押し込めた。 「香藤、着替えぐらいはさせろ」 岩城は苦笑しながら言い返すと、一度車の外に出て自室に戻るとラフな服装に着替えると香藤の待つ車まで戻って来た。 「じゃあ、行くね。岩城さん」 助手席に座った岩城を確認して、車を発進して一路千葉に向かったのだった。 「こんにちは。お邪魔します」 「ただいま。お袋、持ってきたぞ」 香藤家のドアをあけて香藤が大きな声で中に居る母親に声をかけた。 「お兄ちゃん、お帰り。岩城さんいらっしゃい」 中から声を掛けたのは、香藤の妹の洋子だった。 「洋子?どうしてここに居るんだ?」 「私が呼んだの。洋二の話だと竹の子多い感じがしたからね」 母親の美江子が後から顔を出して言い返した。 そのさらに後ろの低い所からもう一つ頭が見える。 「あっ、洋ちゃんと京ちゃんだ。洋ちゃ〜〜〜ん、ねぇねぇ遊ぼ。京ちゃん、抱っこ!!」 「洋介、元気だな」 岩城の顔がほころんで、洋介をひょいと抱き上げる。 「洋介!!岩城さんは俺の指定なの。お前でもダメ!!」 そんな様子を見て、香藤が騒ぎ出すが岩城は無視をして洋介を抱き上げたままで室内に上がっていく。 「お兄ちゃん、無駄無駄。それより竹の子見せて。家の旦那もここに呼んでいるの。今日は親子水入らずで夕飯食べようよね」 洋子が嬉しそうに言い返し、香藤の持っている竹の子の入った袋を受け取ると洋介と岩城の後を追い母が居る台所に運んでいこうとするが、 「洋子、それ重いから俺が運ぶよ。じゃあ、お酒有るのか?」 香藤が靴を脱いだ後で洋子から袋を受け取ると台所に歩き出した。 「立派な孟宗ね」 「ヘッ?妄想?」 「香藤、字が違う・・・・・」 「お兄ちゃん・・・・・バカ・・・・・」 台所で竹の子を出した時に出た言葉である。香藤以外の3人が呆れているのを見て、香藤があわてて洋介の所に行った。 そのまま、洋介の子守りと称して遊びだした。 「洋介は洋二に任せて、料理しましょう」 「あっ、手伝います」 岩城がシャツの腕をまくりながら言い返す。 「お兄ちゃん、竹の子ご飯好きだよね。あと若竹煮は外せないわ」 洋子が鍋に水を張りながら言い返す。 「岩城さん、じゃあ、竹の子のここをこうして切ってもらえます」 「解りました」 「お母さん、米ぬかあるの?鷹の爪は?」 台所より母娘と息子嫁(?)の声がするのを、洋介の相手をしながらほのぼのと香藤は聞いていた。 いつの間にか居間の方が静かになる。下ごしらえに一段落して見てみると、香藤と洋介が疲れたのか眠っていた。 「もう、まるで年の離れた兄弟みたい・・・・・」 洋子がクスクス笑って薄手の掛け布団を持ってきて、二人にかけた。 「本当ね。ここでお茶にしない?」 美江子が急須とお茶菓子を持って言い返す。 香藤家に着いたのが3時頃、今の時間は4時過ぎ もう少しすると、義父親の香藤洋一と義弟になる森口啓太がここに集う。 「なんだか緊張しますね」 岩城がボソリと言い返した。 「でも、私、岩城さんと話したかったの。ねぇ、お兄ちゃんのアルバム見る?」 「そうね。洋二に知れたら、かっこいいところだけしか見せないかも知れないから、鬼の居ぬ間にね」 洋子の言葉に楽しそうに美江子がアルバムを持ってきた。 一枚、一枚・・・・・香藤の成長の記録を見ていてそれが何処と無く嬉しいと感じる。 「ワンパクでしょう。夏休みも水泳、虫取りってじっとして無くって、怪我ばっかりだったのよ」 懐かしそうに江美子は写真を見ながら岩城に話をしている。 「これは?」 岩城が一枚の写真に止まり、首をかしげて聞き返すと、 「これは、新潟に旅行に行った時の写真ね。洋二、夜祭があってその時に迷子になったの」 「あっ、お神輿に夢中になって付いて行ったって話?」 洋子が江美子の話に口を出す。 「そうそう、で、この隣の子はその時、お世話になった子なの。洋二より年は上だったわね。落ち着いた子だったわ」 江美子はその写真を見ながら説明をする。 「お義兄さん?どうかしたの」 このお喋りの中で洋子は岩城の事をいつの間にか「お義兄さん」と呼んでいるのだった。 「いえ、家の近くの風景だったので・・・・・懐かしいって思って」 岩城はその写真を感慨深く見つめていた。 そうこうするうちに竹の子ご飯の炊き上がる匂いが家の中に立ち込め始める。 その匂いにつられて香藤がもぞもぞと動き出す。 「あら、こんな時間。そろそろお父さんが戻ってくるわね」 「本当、じゃあ、夕飯の準備しないといけないわね。天麩羅も上げるんでしょ。お母さん」 洋子が天麩羅の準備を始める。 「後、何を作ります」 岩城も立ち上がると2人後に続く。 「これ、洋二が好きなの覚えて帰ってね。岩城さん」 江美子が楽しそうに岩城に料理を教える。 いい匂いが家の中に充満し始めると香藤と洋介の目が完全に覚めた。 「いい匂い、ママ、ご飯?」 洋介が匂いに誘われて洋子に近づこうとするが、香藤に止められる。 「油使っているから、危ない。出来るまでここで待っていような。洋介」 「は〜〜〜い」 そんな姿に更に笑みがこぼれる面々だった。 時間が来て洋一と啓太が香藤家に集まると、竹の子尽くしの料理と、おいしい日本酒での夕飯が始まった。 それぞれに最近の報告と、何気ない会話でその晩は遅い時間まで楽しい時間がすぎていった。 「洋介、沈没しちゃったわ」 洋子が和室に洋介を寝かしつけて戻って来た。 「そろそろ、お開きにしましょうか・・・・・お父さん、明日も仕事でしょう」 江美子がほろ酔い気分の洋一に声をかけて立ち上がらせる。 「私達も、ここに泊まる?明日のスーツは持ってきているけど・・・・・」 洋子が啓太に聞き返す 「ああ、遅いし、寝てしまった洋介も動かさない方がいいだろう」 啓太の答えに和室を洋子達一家が泊まる事となる。 「岩城さん、2階に泊まる?」 香藤はほろ酔い気分で言い返す。 「ああ、こんなに飲んでいると帰れないだろう」 岩城も香藤の言葉に乗って、2階の香藤の部屋に行った。 居間には静けさが戻った・・・・・ 2階・・・・・元香藤の部屋 「このベッド・・・・・懐かしいな」 昔、岩城の部屋に持ち込んだベッドは、今は香藤のもとの部屋に戻っていた。 「新居の時に新しいベッドにしたからね。でも、これは捨てられなかったんだ」 香藤が懐かしそうにベッドの淵に座って言い返す。 何だかんだ言っても、このベッドには思い出がありすぎるので香藤も捨てるのを躊躇ったのだった。 「そうか・・・・・」 岩城は懐かしそうにして、香藤の横に座った。 「ねぇ、岩城さん、昼間は洋子達と話が弾んでいたね」 横に座った岩城の肩を抱き寄せて、香藤が耳元で囁く様に聞き返すと、岩城の顔が赤くなった。 「起きていたのか?」 岩城が睨むような顔で聞き返すと、香藤はニコニコして頷き返す。 「まったく・・・・・お前、人が悪い」 「でも、俺の昔のアルバムに何があったの?」 香藤が聞き返すが岩城は顔を少しそむけた。 「秘密だ・・・・・お休み、香藤」 岩城はそう言い残すと、香藤を無視してベッドに頭から蒲団をかぶって横になる。 ベッドは乾し立ての蒲団がちゃんと準備してある。電話をもらった江美子が用意しておいたのだろう。 「岩城さん、ケチ。ねぇ、教えてよ」 香藤が背中から岩城を抱きしめ、しつこく聞いているがそのうち静かになった。 「香藤・・・・・?」 岩城がようやく顔を蒲団から出すと、飲んでいた香藤は睡魔に負けて眠りに落ちていた。 『あの、写真・・・・・驚いた。まさか、あんな小さい時にお前と会っていたなんて・・・・・香藤、お前が知ったら喜ぶから俺だけの秘密にしておく・・・・・お前が気付くまで』 岩城は心の中でそう呟くと、香藤の腕の中に潜り込んで眠りに入った。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 『どうしたの?何、泣いているの?』 岩城が目じりに涙を溜めている、男の子に声をかける。 『遊びに来て、親とはぐれただけだ』 その子は強気に答えるが、不安そうな瞳に揺れていた。 『お兄ちゃんが、連れて行ってあげる。おいで』 岩城がその子に手を差し伸べると、その子はおずおずと手を出して、岩城の手を握り返した。 『ありがとう・・・・・』 その子はそう言って、岩城の後を付いてきた。岩城は、家まで連れてきて、母親と久子に話した。 後は2人が警察に連絡をしてくれた。 迎えが来るまで、2人遊んでいつの間にか眠っていた。 その間に子供を捜していた親が向かえ来て、2人の寝顔を写真に収めたのだった。 次の日、わざわざお礼に来て、また2人並んで家の外で写真を取った。 それっきり岩城の心の底でも、いつの間にか忘れていた思い出だった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「香・・・・とう」 香藤の胸の中で、岩城が最愛の人を呼ぶ。 「岩・・・・・城・・・・・さん・・・・・」 答えるように香藤も最愛の人の名を呼ぶ。 静かに夜はふけてゆく・・・・・・優しい月明かりを残して・・・・・ ―――― 了―――― 2004/04/19 sasa |
★きゃん・・・なんかとっても心が温かくなるお話ですvvv
sasaさんありがとうございます〜(^o^)
子供の頃に何処かで会っていたかも・・・
なんて想像するととっても幸せな気分になりますね〜v
にしても・・・洋介君可愛い!可愛すぎ!!
「妄想」と「孟宗」・・・香藤君好きだ(爆)
sasaさん、素敵なお話ご馳走様でした〜v