桃の節句
「岩城さん、3月3日は日奈ちゃんの初節句じゃない?お祝いどうする?」 ここは、京都・・・・・「冬の蝉」の撮影の為にホテルに泊り込んでいる。 今日は別々の撮りでホテルに戻って来てから、香藤と食事をと思っていた。 香藤は先に戻ってシャワーを浴びていたのだが、部屋に戻って俺の顔を見るなりそう聞き返していた。 急に言われて俺は自分で携帯の日付を確認した。2月25日と画面に出ている。 「忘れていた・・・・・撮影に気を取られていて・・・・・」 思わず呟くが、こんな事に疎い俺はあせっていた。 「岩城さん、まだ間に合うよ。吉澄さんに買い物できる所、聞いてみようか?」 香藤が服を着ながら言い返してきた。 「明日も、吉澄さんと同じ撮影だからね。俺」 香藤がサングラスをかけると、笑顔で俺を促す。 「そうだな、頼めるか?香藤」 俺は言い返すと、食事の為に再び香藤と共に部屋を出た。 今年の正月、香藤と共に新潟の実家に戻った。 京都からその方が近かったし、日奈が生まれて初めて顔を見るためだった。 親父も兄も本当に日奈を可愛がっているのが解るし、その中に自分が入れている事に少しの戸惑いと 嬉しさを覚えた。 これも、香藤が居てくれたからだと思える・・・・・面と向かっては言えないが・・・・・ (あいつが付け上がるだけだし・・・・・こんな恥ずかしい事いえるか) 日奈は小さい頃の俺と似ているらしいが、俺にとってもかわいい姪っ子に変わりないのだが、季節のイベ ント事に疎い俺はこんな大事な事も忘れているなんて・・・・・軽い自己嫌悪・・・・・ 「ハァ・・・・・」 「岩城さん、解っている?」 「どうしたんだ?香藤」 香藤に声を掛けられて、慌てて返事をするが実は話を聞いていない。 「聞いてないでしょ、まだまだ間に合うんだからそんなに落ち込まないでよね。そんなに溜息疲れると 食事の味も解らないでしょう」 香藤が苦笑したように、俺の手元を示す。ホテルのレストランで夕飯を食べていたのだった。 確かにこれじゃ、せっかくおいしい食事も解らないな・・・・・ 「すまん・・・・・」 「誤らなくって良いよ。ねえ、おいしく食べようよ。じゃないと、体調にわるいよね」 香藤の言葉に頷き返し、後は食事とお喋りを楽しむ事とした。 撮影の合間に、半日の休みをもらえる事となった。 どうやら香藤が画策したらしいが、何を買えば良いのか? 「香藤、何がいいと思う?」 「岩城さんの家、お雛様は勿論あるよね。だったら、服か、もしくは京都って雛菓子何か無いかな。」 四条通りに行く私鉄の中で、香藤が答え帰した。 「楽しそうだな」 「だって、洋介の時に岩城さんと選んだでしょ。日奈ちゃんの事も俺と一緒って、なんだか本当に家族になれているって思えるから、嬉しいんだ」 香藤の言葉に、俺は洋介の初節句を思い起こした。 あの時も、香藤と二人でお祝いを選んだよな‥‥‥確かに嬉しかった、香藤も同じなんだな。 四条通りは京都の町の中心街でデパートとか並んでいるが、一歩裏に入ると小さな店が軒をそろえている所でもある。 観光客用のみやげ物店も多い。今は人が少ないが、秋になると修学旅行生でごった返すところでもある。 その中の一軒の前に足を止める。 染物屋かな?麻、木綿?の生地にお雛様が染めてタペストリーになっている。 「岩城さん、どうしたの?あっこれいいね。壁掛けだから邪魔にならないし・・・・・これ、渋いよね」 香藤が横から覗き込んで、ウィンドウに掛けられている同じものを見ていた。 「良いと思うか?」 香藤に聞き返す。 「うん、俺は良いと思うよ。」 香藤の目が商品から離れず言い返す。 「これにするか?」 再度、確認するように聞き返す。 「じゃ、お店に聞いてみようね。岩城さん」 香藤が俺の手を引いて、店の暖簾をくぐる。昔からここに構えているような、木作りの古い店。 奥の畳からお店の人が出てきたが、着物を着ていた。 香藤が話をして、ウィンドウのタペストリーを聴き返す。 「岩城さん、あれはこの店のオリジナルで名前も入れる事で出来るって、でも、その場合は2〜3日かかるけど、どうする?」 香藤の手元には、見本の写真が入った物が握られていた. 「名前って、《日奈》の名をか?」 俺もそれを覗き込んで聞き返すと、お店の人が説明してくれた。 元々、ここは染物をしていた店だが、ここ数年、家の事情とかで大きな物を買い求める人が少なくなったので、壁掛けなど小さい物をオリジナルで作っている。季節に合わせたタペストリーもあるので、今の季節はお雛様だが、4月は桜を5月は端午の節句をと作っているのを見せてもらった。 「これ、お袋が気に入りそうだな」 香藤が12月分を見せてもらって呟く。 一つ一つが手染めとなるが、大まかは同じ型紙を使う。だが、同じ色は無いと言っていい。 「その時に混ぜ合せる顔料の、微妙の差・・・・・それが、同じ色になる事は無いってさ」 香藤が驚いて言い返す。 「同じ役をやる人によって違う個性を出す・・・・・役者もそうだな」 「そうだね。岩城さん。俺は、俺の草加を演じるから、岩城さんは岩城さんの秋月を演じてね」 香藤がそう言ってキスをする。 バコッ!! 「何処だって思ってるんだ?」 思わず殴ってしまった・・・・・店の人は見てない・・・・・よな。 頭を押さえている香藤をよそに、日奈の名を入れてもらって兄の所に送って貰うよう、手配をした。 ついでの香藤の家に、4月の桜と8月の花火のタペストリーを・・・・・お礼の意味を込めて・・・・・ 「岩城さん、俺も払うよ」 「半分な。お前のおかげで日奈の初節句が祝えるからな」 香藤にありがとうの意味を込めて言い返すと、香藤がニッコリ笑い返してくれた。 3月3日 新潟の義姉からお礼の手紙が届いた。 家にあった母のお雛様と、俺が送ったタペストリーと共に日奈を抱いた義姉が笑顔で居た。 兄の取った写真。 「お義兄さん、写ってないよね。照れたのかな?」 香藤が覗き込んで言い返す。 「香藤、その兄さんからだ。お前宛に」 手紙の中に入っていた封筒を手渡すと、香藤は首をかしげながら中を開けて見た。 「ウワ〜〜〜〜!!」 香藤の嬉しそうな声。なんだろうと見るとそこに有ったのは、俺の小さい頃から、高校までの写真が数枚・・・・・ 兄貴なりの譲歩なのだろう。 俺がこんな事に疎い事知っているから・・・・・香藤にお礼のつもりなのだろうが・・・・・ 「これ、貰って良いんだ。俺、お礼の手紙書こう」 香藤の言葉に俺は、反応した。 「香藤、兄貴を怒らせるような事は、書くなよ。良いな」 「解っているって、ついでに京都のお菓子も送ろう。明日、金子さんに頼んで、手配してもらうよ」 俺の念押しに香藤は嬉しそうに言い返す。 香藤、ありがとう・・・・・ お前の家族思いのやさしさ・・・・・見習っていきたい・・・・・ ―――――了――――― 時期が遅れましたが、初節句です。 実は家の姪っ子が初節句だったので、そう言えば・・・・・岩城さんの所もだと書き始めました。 京都は修学旅行で行っただけなので詳しく知りませんので、突っ込まないで下さい。 では、 2004・3 sasa |
★とっても心がほこほこしちゃいましたv
岩城さんと香籐くんに祝われる日奈ちゃんvvv
きっととっても素敵な女の子に育っていくのでしょうね〜
日奈ちゃん、初節句おめでとう!
さりげなく岩城さんをフォローしている香籐くんにも萌えです
sasaさん、春らしい素敵な、そして優しいお話、ありがとうございます・・・v