元旦

 静かに空から舞い散る粉雪は一晩のうちに降り積もり、灰色だった町の景色は銀世界へとその姿を変えていた。
 白く、深く深く。
 純白な世界は汚れた都会の空気と心を洗礼してくれたかのように、新しい歳月へと導く第一歩の足跡を刻み付け、静寂な年明けを迎えていた。
 色濃く俺たちが愛し合っているうちに──。

「岩城さーん!」
 香藤の呼ぶ声で目が覚めてしまった。
 昨夜、除夜の鐘と共に108回も突かれて、俺の腰も体力も消耗しきっていたのに…。
 何であいつはあんなに元気なんだろう…。全く香藤はタフな奴だ。
「岩城さん!外、すごく綺麗だよー!」
 カーテンを開いた窓から朝日に照らされてキラキラと光を放つ雪の結晶が眩しいくらいに輝いて、雲一つない真っ青な空に憎いくらいの演出を飾っていた。
「……!」
 眠い目をこすりながら、香藤に促されるままに覗いた外の世界はあまりに美しい輝きを放ち、言葉にならずに感嘆だけが口から零れる。
「ねっ、すごい綺麗っ!」
 嬉しそうな香藤の弾んだ声も届かない位、俺はその景色に魅了されていた。
 吸い込まれるように手を自然に伸ばす。
 不思議の世界に引き込まれるように…。
「岩城さん…?」
 そんな俺を少し心配になったのか、不思議そうに見つめる香藤…。
「…ぉ…ぃ…た」
「えっ?」
「お腹が空いた…」
 急に空腹を覚えたのと、あまりの景色に気が抜けたのか、俺の新春第一声は、そんな間抜けな台詞だった。
「ぷっ…」
 緊張の糸を解かれ思わず吹き出す香藤。
 なんだか恥ずかしくて顔を伏せてしまう。そんな俺を見て、香藤は急に真顔になった。
「もう少し黙ってたら…」
「…ん?」
「逝っちゃったかと思った(笑)」
「えっ?」
 笑いながらだったが、思わず目を見張る台詞に香藤を見返す。
「うそ…唇奪ってた」
 香藤は優しく微笑むと、俺の頬にそっと触れ、かすめるようなキスをした。

 いつの間にか、再び白い粉雪が舞い降りて、その細やかな粒子が光を浴びて綺麗な光彩を放っていたが、二人の瞳にはお互いの姿以外なにも映ってはいなかった。
「これからも、ずっと一緒だから…」
「あぁ…」
 そして俺たちは甘い甘い接吻けを交わした。
 元旦の朝は静かに幕を開けた。



〜fin〜



2003・12・28 秋月祐七




元旦ネタですが・・・ 
年越しで岩城さん・・・も突かれたって、突かれたって・・・(/▽\)・・・・・v
読んだ方は、煩悩の嵐ですわ〜(爆)。

秋月さんありがとうございます〜vvv