想愛(そうあい)

1

夜の新宿。
一目でわかるブランドのスーツを着て、胸を張りさっそと歩く男の姿。
男女問わず彼の姿に引かれ、彼の雰囲気に引かれ見入ってしまうほどの男・・・。
彼の名は香藤洋二。
1ヶ月前に、新宿1のホストクラブ『ナイトキャップ』のホストになり、今では店の1になった男である。

静かに店のドアを開けると、先に居たホストが彼を見て挨拶をする。
笑顔で挨拶を交わしスタッフルームへと消える彼を、憧れと憎しみが入り混じった視線が見送る。
香藤はコートを自分のロッカーへ掛け、備え付けの鏡で身だしなみをチェックしゆっくりと深呼吸をするとスタッフルームを後にした。
これから始まる一時の夢夜の時間に彼はゆっくりと歩き出す。

「「「「「「いらっしゃいませ!!ようこそナイトキャップへ」」」」」」
開店と同時にやってくる客、もちろん目当ては1ホストの洋二である。
開店10分もしないうちに、全てのボックスが埋まりその客の8割が洋二目当ての客で、自分の席に来てもらおうと客達は高額ボトルの入れあいになる。
それが閉店まで続くのだから、1にならない方がおかしいのである。

そんなある日、閉店後の片づけをしてる最中にアルマーニのスーツを着こなし、大柄な男達を連れた男がやって来た。
「いらっしゃいませ。岩城様。」
「お久しぶりです。マネージャー」
「ただ今、社長をお呼びいたします」
「いえ。今日は今噂の1に会いに来ました」
「そうですか。ただ今お連れいたしますので、どうぞこちらへ」
マネージャーに連れられ、奥のVIP席へと消えた男を遠巻きに見ていた男達が慌てて、ロッカールームへと走った。

「おい!!大変だぞ洋二!!」
「あっ、お疲れ様です。吉澄さん。どうしたんですか?そんなに慌てて?」
接客中とは違い、人懐っこい笑顔で挨拶した香藤は、彼の慌てっぷりに首を傾げた。
「岩城さんが、お前を指名してきたんだ!」
その瞬間、ロッカールームに残っていたホスト達がざわめきだした。
「岩城さん??って誰ですか?」
「おっ・・お前知らないのか?!岩城組って知ってるだろう?」
「それくらい知ってます。ここら辺でその組の名前を知らなかったらやっていけませんからね」
「その組の若頭だよ!!その若頭がお前を指名してきたんだ!!」
「えっ?でも、店ってもう閉店してるんじゃぁ・・・」
「そんなの関係ない!なんて言ったって岩城組だぞ!!」
「そっか。でも、なぜ俺なんか指名したんでしょうね?」
「お前それ本気で言ってるのか?」
「えっ?」
「ナイトキャップで1ヶ月で1に上りつめた男なんて、創業以来お前が始めてだから、それを見に来たんだろうよ」
「ああ。そっか」
どこか、抜けている洋二は納得と言う顔で頷き、今まさに外したネクタイを結びなおした。
少し緊張している面持ちのマネージャーが洋二を呼び、岩城が居る席へと案内した。
小さな声で、「失礼のないように!」と、真剣な眼差しで注意され頷き席へ着いた。
「君が噂の1か」
「はい。洋二と言います。以後お見知りおきを」
「ああ。すまないな閉店したのに。俺達が営業中に来ると色々と店に迷惑が掛かると思ってな」
「いえ。何かお飲みになりますか?」
「そうだな。前に入れたボトルがまだあったはずだが・・・」
「今お持ちします」
マネージャーに目で合図をすると、直ぐに用意された。
流れる様な作業で、酒を造るとコースターに静かにグラスを置いた。
ゆっくりと視線をあげ、その時初めて洋二は岩城の顔を見た。
「・・・ぃだ(綺麗だ)」
「ん?何か言ったか?」
「いえ。失礼いたしました」
「いや。そんなに恐縮するな。別にとって食おうって訳じゃないんだから」
「はい」
それが、二人の出逢いである。


それ以来、岩城は香藤と飲む事が増えていった。
閉店後に岩城が尋ねて来たり、メールで呼び出されたり呼び出したりと・・・。
気がつけばいつの間にか、2人は『ホスト』と『ヤクザの若頭』から気の会う友人、飲み仲間になっていた。
しかし、飲む回数が増えれば増えるほど香藤の中には欲が出てきた。
岩城ともっと会いたい。 岩城に触れたい。……岩城を抱きたい・・・。
そんな事を考えながえながらも、その関係が発展する事もなく半年が過ぎた頃、自体は急激に動いた。

ある晩、いつもの様に岩城からのメールで行きつけになっているバーに呼び出された日。
すっかり顔なじみになっているマスターと軽い挨拶を交わし、指定席になっている奥のBOX席へ行くと先に来ていた岩城が小さな寝息を立てていた。
(寝てる…。疲れてるのかな…)
その寝顔があまりにも、可愛くて妖艶な唇に自分の唇を重ねていた。
唇が触れた瞬間、岩城はハッっと目を覚まし香藤を突き飛ばした。
「なにをしている!!」
「あっ…。ごめんなさい。つい…」
「俺を女とでも見間違えたのか?」
怒りを露にした瞳が香藤を睨みつけていた。
「いや。そうじゃない!俺…俺、岩城さんの事好きになっちゃったんだ」
「俺もお前が好きだぞ。気の会う良い飲み仲間だ」
「違うよ!俺の好きは、恋愛対象で好きって意味!」
「はっ?お前には俺が女に見えるのか?」
「違う!岩城さんが女に見えるワケないじゃん!どっからどう見ても男だよ!」
「じゃぁ、何かのゲームか?」
「違うって言ってるじゃん!何で俺の言葉聞いてなかったの?俺岩城さんの事本当に好きなんだよ!」
「お前、そっちの気があるのか?」
「違う!俺はこれまで女の子以外好きになった事ないよ!だけど、岩城さんに会えば会うほど惹かれていくんだよ!」
言い切った香藤の目には嘘など見られなかった。
がしかし、男に好きだと言われ眠っている時にキスをされて俺には屈辱以外の何者でもなかった。
「じゃぁ、これっきりだ。もうお前とは会わない」
冷たい目線だけ香藤に投げかけ、立ち上がりさっさと岩城は店を出てしまった。
『会わない』その言葉にショックを受け、香藤は一瞬岩城の後を追うのが遅かった。
慌てて出て行った先には、岩城は既に姿を消していた。
そのまま俯き、トボトボと路地へと着いた。
本当はこんなはずじゃなかった…。
キチンと岩城と2人の時に自分の気持ちを伝えるはずだった…。
しかし、悔やんでもあの瞬間が消える訳もなくただ後悔のみが香藤を包みこんだ。

「っくしょう!」
岩城は柄にもなく、迎の車で大きな声をあげドアを叩いた。
ビクビクと震えながらもハンドルを握る舎弟を目にして、岩城は大きくため息をついた。
こんなはずではなかった。
香藤とはいい仲間だった。
飲んでる時に一度尋ねた事があった。
『香藤。お前はヤクザの俺と一緒に飲んで怖くはないのか?』っとすると香藤は驚きながらも『なんで?』と逆に聞き返してきた。
その返答に俺自身が驚いてしまった。
『だって、岩城さんは岩城さんじゃん』
あっさりと返された言葉は本当に嬉しかった。
俺の事を、『ヤクザ』だからと怖がる訳でもなく俺自身をちゃんと見てくれた。
そんな香藤がまさか、自分に恋愛感情を抱いて…しかもキスされるなんて…。
しかも、そのキスに対して自分はそんなに嫌悪感を抱いた訳でもなく、本当は少し嬉かった事自分が許せなかった。
しかし、その日を境に2人が一緒に飲みに行くことが無くなった。

そして、それから数ヵ月後…。
香藤は突然『ナイトキャップ』を辞めた。
そしてそれを聞きつけた岩城が、店にやってきて色々とマネージャーに尋ねたが
理由も判らず、聞き出した住所を尋ねたが既にもぬけの殻だった。慌てた岩城が、香藤のアドレスへメールを送ったが、宛先不明で返って来たメールを見て全てが終わったと悟った。

 



ごめんなさい。orz
久々に書いた物がいきなり続き物になってしまいました^^;
頑張って、続きを書かせていただきますので、気長に待ってやってくださいorz

 kreuz
    




kreuzさんの連載作品ですv
若頭の岩城さん、ホストの香藤くん・・・出会い、そして・・・
これからどんな風に展開していくのかワクワクですv
kreuzさん、無理なく進めてくださいませ・・・v