想愛(そうあい) 6 |
かすかにに漂ういい香りに誘われるように、岩城は目を覚ました。 あれ?俺あのまま寝てしまったのか…。 って、香藤のベット? 俺どうやって…。 身体を起こし、ベットから抜け出しだ。 リビングへ出ると、鼻歌を歌いながら香藤がキッチンに立っていた。 音に気がついたのか振り向いた香藤は、手に皿を持ってテーブルに並べた。 「おはよう。岩城さん。朝食作ったから一緒に食べよう」 「おはよう。これ全部お前が作ったのか?」 「そうだよ。口に合うといいんだけどね。冷めないうちに食べよう」 「ああ。いただきます」 「どおぞ」 一つ口にして驚いた。 簡単な料理だったが、本当に美味いと感じた。 「どう?」 心配そうに顔を覗き込んでくる香藤に小さく頷き、『美味い』と小さく答えた。 その答えに、安心したように香藤も食べ出した。 綺麗に平らげ食後のコーヒーを飲みながら、ゆっくりと流れる時間が安心感と満足感を与えてくれた。 その時間は、まるで夢の様だった。 それは、長年一緒に居た親友のような…。 まるで、長年一緒に居た恋人のような…。 どんな言葉にも当てはまり、どんな言葉でも言い露せられない、そんな時間…。 この時間がいつまでも続いて欲しいと、思わずにはいられない自分に、苦笑を漏らさずはにいられなかった。 自分の気持ちに気づいたからこそ、言葉には出せない。 嘘の言葉なら幾らでも口から出るが、本当の事になるとそれを正直に出す事はとても難しい…。 自分のこの気持ちを口に出せば、確かに楽になるだろう。 しかし、その事によって自分達だけではなく、周りまでにも迷惑や困惑が広がるだろう。 そんな事わかりきっている。 だからこそ、この時間が至福に感じ苦痛にも感じる。 苦笑を漏らさずにいられない。 「どうかしたの?岩城さん」 「ん?なにがだ?」 「だって岩城さん、今凄く辛そうな顔してる」 「いや、俺達がこんな形じゃなくて、普通に出会えてたらって思ってな」 少し冷めた、コーヒーがいつも以上に苦く感じた。 「形なんて関係ないんじゃないかな。だって、俺にとっては今のままの岩城さんを好きになったんだし」 「そうか」 「うん。それにね、俺きっと見つけ出して好きになってたと思うし」 「犬や猫って…」 「例えばの話しね。…でも俺は何処にいても、どんな姿だったとしてもきっと岩城さんを見つけて好きになったと思う」 はにかんだように笑った香藤がとても愛しく感じた。 ここまで、自分の気持ちをストレートに伝えてくる香藤に対して自分は素直になれない。 伝えたくても伝えられない。 言葉に乗せる前に、色々な事が頭をよぎってしまう。 組の事だったり、自分達が男同士だと言う事…。周りの眼が自分自身を縛っていると言う事。 「俺もお前の様に素直になれたらいいのにな…」 つい出てしまった言葉は、小さすぎて香藤の耳に届かなかった。 「えっ?なに?」 「いや。なんでもないさ」 すっかり冷めたコーヒーを飲みながら、今はこの時間に浸る事にした。 |
kreuz
kreuzさんの連載作品、6回目となります。
自分が一番安らげる相手、空間・・・それを岩城さんは見つけたのかも知れませんね。
でもいろんな立場でそれを素直に受け入れられない・・・・切ないです。
次はとうとう最終回です。
kreuzさん、素敵な作品ありがとうございますv