想愛(そうあい) 5 |
荷物を抱え、手を繋いで歩いた距離が妙にムズ痒さを生んだ。 恥ずかしい反面、心が熱を帯び始めている自分に苦笑がもれる。 5分程度歩くと、少し洒落ているが決して大きくはない、マンションにたどりついた。 「ここに住んでるのか?」 「そう。って言ってもここは、俺が個人で借りてるマンションなんだけどね…。」 「個人?」 「うん。組とか関係なく俺が自分で稼いだお金と貯金で、借りてるんだ。」 「何故だ?お前なら、もっと大きな所借りれるだろう?」 「まぁ、そうだけどさ。俺一人しか居ないのに、無駄に大きい所って必要ないかなって。 それに、誰にも邪魔されないプライベートな空間が欲しかったんだ」 確かに、香藤の言う通りだ。 たとえ、オフで自分のマンションに居たとしてもいつ組からの連絡が入るかわからない。 連絡が入ってしまえば、行かない訳にはいかない。 「確かにな…。」 「でしょ?だから、この家の番号は誰にも教えてないんだ。借りてる事は知ってるけどね。 まぁ、携帯には掛かってくるけど」 「もちろん、組が俺の為に借りてくれてる部屋もあるんだけど、本当に一人になりたい時とかにこっちに来てるんだ」 「そうか」 オートロックを解除して、ゆっくりとエレベーターが上昇を始める。 なぜか、鼓動までもが早くなって行く。 何かを期待しているのか…。それとも、なにか不安なのか…。 ポケットから出されたキーケース。 昔、誕生日の時に岩城が送った物だった。 それは、少しくたびれていたが大事に使われいたのが見てわかる。 「少し散らかってるけど、どうぞ」 開かれた扉に、一瞬躊躇しそれでもゆっくりと歩みを進める。 『ガチャン』 閉じられた扉が嫌に大きく聞こえた。 さっさと靴を脱いで先に上がった香藤の後ろ姿を追う。 リビングに入るとそこには、綺麗に置かれたセンスの良い家具と香藤の香りが俺の全身を包み込んだ。 「岩城さん。そこら辺に座ってて」 俺の手から、コンビニの袋を受け取りキッチンスペースへと向かった香藤。 少し考えて、テレビの前に置かれたソファーへと腰を下ろした。 香藤はビールとつまみをテーブルに置き岩城の横に腰を下ろした。 プシュっと良い音を立てて開けられたビールを軽く持ち上げ「乾杯」と缶をあわせた。 少しぬるくなったビールは、いつもより少し苦く感じた。 「で、俺の部屋の感想は?」 「感想?そうだな…。」 ゆっくりと部屋全体を見回す。 「お前らしい『部屋』かな」 「俺らしい??どう言う事?」 解らないと言う感じで、俺と同じように部屋全体を見回した香藤はそれでもわからないと首をかしげた。 「そのままの意味だよ」 その動作が可愛く思え、小さく笑いながら答えてやる。 「もう!それじゃわからないよぉ〜〜。岩城さん教えてぇ〜」 「それ以外言いようがないんだから、教えてと言われてもな…。」 『う〜』と小さく唸った香藤だったが、少し考えてわからないのか諦めたように顔を上げた。 しかし、自分でも『香藤らしい部屋』としか言いようがなかった。 一つ一つ自分の足で見て回ったであろう、家具や小物類。 小さな傷などがあるが、それでも大切に使ってきたでであろう事が見て取れた。 その一つ一つが、『香藤らしい…。』それ以外の表現が見つからなかった。 「ねね。岩城さんの部屋はどんな感じなの?」 「俺の部屋か?どんなって、言われてもなぁ…。普通の部屋としか…」 「もう!それじゃぁ、どんな部屋かわからないじゃん」 空になった缶を握り締めて軽く潰すと、「もうっ」と言いながら香藤はキッチンへとビールを取りに行った。 自分も空になった缶を、テーブルの上に置くとそれを見計らったように香藤が冷えたビールを手渡した。 一瞬触れた手にドキリとしたが、悟られぬように『ありがとう』と笑顔を返した。 気が付けば、膨大の量の空き缶がテーブルに並べられていた。 この鼓動を隠すように、ハイペースで飲んだ為かいつの間にか、瞼が重くてそのままほろ酔い気分のまま瞼を閉じた。 「…きさん。岩城さん」 遠くから香藤が俺の名を呼び、身体をかすかにゆすられている感覚があるがそれさえも心地よくそのまま、意識を手放した。 「岩城さん…って、もう完璧に寝ちゃったか」 しばらく岩城の寝顔を堪能した後、起こさない様にと慎重に身体を抱き上げ、ベットに寝かせた。 「部屋まで来てくれたって事は、俺…期待してもいいのかな?岩城さん」 答えは返ってこないと解ってはいても、そう問わずにはいられなかった。 そっと触れるだけのキスをすると、そのまま香藤は部屋を出て行った。 |
kreuz
kreuzさんの連載作品、5回目となります。
”香藤らしい部屋”っていうのがすごく印象的でしたv
で、期待してもいいよって、代わりに私が答えるわ、香藤くん(笑)。
kreuzさん、素敵な作品ありがとうございますv