イタズラの代償 ある日の昼過ぎ、香藤は弾むような気持ちで玄関のドアを開けた。 (やっと岩城さんに会える!) 香藤と岩城はここのところ、ロケや泊り込みの撮影続きで、もう二週間も顔合わせていなかった。 今日も三日間の泊り込みの撮影から解放されたところだった。 「今日は岩城さんも早く帰ってくる予定になってるし、材料も買ってきたし、張り切って晩御飯作っちゃおうっとvv」 そんな独り言を言いながら香藤は浮き立つような足取りででキッチンへと向かった。 夕食の下ごしらえを終えた香藤は、今日のもう一つのお楽しみを味わうべく寝室へと駆け上がった。 香藤は三日前、家を出る時に寝室に隠しカメラを仕掛けていた。 自分が居ない夜に岩城がどう過ごしているのか見てみたかったのと (十日以上も会ってないから上手くいけば岩城さんの一人Hが見られるかもv) などと思い悪戯半分で仕掛けたのだった。 ワクワクしながらビデオの再生ボタンを押した香藤は、間もなく激しい後悔に襲 われる事になるなど思いもしなかった。 画面にはセットされたタイマーにより真っ暗な夜の寝室が映し出されていた。やがてドアの開く音とともに灯りが点けられ、明るくなった部屋に岩城が現れた 。 疲れた様子でベッドに腰掛けた岩城は少し寂しげな顔をして香藤のベッドを見つめ溜息を吐いた。 (岩城さんてば可愛いっvv俺が居ないのがそんなに寂しいんだねv) などと思いながら見ていると岩城がふと何かに気付いたようにカメラの方を見た 。 (あれっ、気付かれた?でもカメラそのままになってたけど。もしかしてわざと? ひえ〜っ!岩城さん帰ってきたら俺怒られちゃうの〜(T_T)) 怒りのオーラを纏った岩城の姿を想像し、青くなっていた香藤は次の瞬間そんな恐れなど吹き飛ぶ衝撃 的な光景を目にした。 ビデオの中の岩城は訝しげな表情をしながら近づいて来てカメラに気付いただろう途端、怯えたよう な表情を浮かべた。 そしてそのままの表情で後ずさると、脱いだばかりの上着とバッグを掴み部屋を飛び出して行った。その後ビデオにはいつまでたっても主の居なくなった真っ暗な部屋が映し出されているだけだった。 真っ暗な画面を呆然と見ながら香藤は激しい後悔に襲われていた。 (俺はなんて馬鹿な事をしたんだろう!軽い悪戯心で、岩城さんがカメラに気付くなんて思いもせずに。そしてその時に岩城さんがどんな気持ちになるか考えもせずに。あの空き巣騒ぎの時あんなに不安そうにしてたのに。隠しカメラなんて見つけたらまた誰かに侵入されたんじゃないかって怖くなるのは当り前じゃないか!それなのに俺は…。チクショウ!俺の大馬鹿野郎!!) PiPiPiPiPiPiPi…… 香藤が猛烈な自己嫌悪に陥っていると携帯が鳴った。 飛びつくようにして手に取ると画面には『岩城』の文字。 「もしもし!岩城さん?!」 「香藤、お前今どこに居るんだ?もう家に帰ってるのか?」 聞こえてきたのは少し不安げな声。岩城にそんな声を出させているのが自分だと思うと香藤はたまらなく切なくなった。 「うん、昼過ぎに戻ったんだ。」 「そうか。じゃあ俺ももうすぐ帰るから。久しぶりに会えるな。」 岩城のほっとしたような声に良心が痛む。 「うん、そうだね。待ってるから早く帰って来てね。」 「ああ、すぐ帰るから。」 そう告げて電話は切れた。 (ちゃんと正直に話して謝ろう!かなり怖いけど、でも岩城さんの不安を解消してあげなきゃ!!) 香藤は携帯を握りしめ決意をした。 ピッ。 携帯を切った岩城はゆっくりと車をスタートさせた。 (くすっ、香藤のヤツ少し声に元気がなかったな。どうやらビデオを見たらしいな 。) ハンドルを握るその顔には満足げな微笑が浮かんでいた。 実は岩城はもっと早くにカメラに気付いていた。 三日前、香藤が家を出た1時間後、共演者の都合で急に空き時間の出来た岩城は家に戻っていた。 控え室で仮眠をとってもよかったのだが、長く会っていない香藤を少しでも感じたかったから。家に入るとほんの少し前まで居たはずの香藤の気配が残っている気がした。寝室へと向かい、香藤のベッドに疲れた体を投げ出す。 「香藤…。」 そう呟いてゆっくりと息を吸い込む。ベッドに残る香藤の香りに包まれると、心も体も癒されていくようだった。 ふとベランダの方へと目を向けた岩城は何か違和感を感じた。 不思議に思いながら近づいてみると、カーテンの上に隠すようにカメラがセットされていた。 (隠し撮り?いったい誰が?!) 最初は誰かが侵入したのかと思ったが、よく見るとそれは香藤のカメラだという事が分かった。そして香藤がどういう目的でそんな事をしたのかもおおよそ見当がついた。 一瞬ベッドの上に放り出しておいてやろうかとも思ったのだが、考え直してそのままにしておいた。 (カメラを放り出しておけば帰ってきた香藤が俺に気づかれた事を知り、青くなる だろう。そして俺が怒鳴ると、情けない声で謝るだろう事は目に見えている。しかしそれではいつもと同じだ。たまにはお灸をすえてやらないと。) そう思った岩城は敢えてそのままにしておき、夜、香藤が見たままの事をカメラの前で演じて見せた。 そう、香藤が見たのはすべて岩城の演技だったのだ。 怒鳴りつけるよりも自分が傷ついた姿を見せるほうが香藤には堪える。それが分かっていて岩城はわざとその姿を見せたのだ。 (ちょっと可哀想な事をしたかな。) 香藤の待つ家へと向かいながら岩城は少々罪悪感を感じ始めていた。 (香藤の俺を思ってくれる気持ちを利用するなんて…。でもアイツが悪いんだ。あんなくだらない悪戯をするから。それに一瞬とはいえ誰かに侵入されたんじゃないかと不安になったのも本当なんだから。たまにはしっかり反省すればいいんだ。) 色々思うところはあるが、もうすぐ二週間ぶりに香藤に会える。 そう思うと岩城の心は浮き立ち、知らずにアクセルを踏み込む足にも力が入っていた。 その頃香藤は…岩城に騙されたなど露とも思わずに、どっぷりと自己嫌悪の海に浸っていた。 愛しい岩城の帰宅を単純に喜べない状況を招いてしまった自分の浅はかさを呪いながら。 ガチャ。ドアの開く音に香藤はリビングを飛び出した。 そして帰ってきた岩城を強く抱きしめ叫んだ。 「ごめんなさいっ!!」 「どうしたんだ、香藤?」 「あの寝室の隠しカメラ、俺が仕掛けたんだ。俺の居ない時岩城さんがどうしてるのか見てみたくて。ちょっとした悪戯のつもりだったんだ。岩城さんを怖がらせるつもりなんかなかったんだ。本当にごめんなさいっ!!」 抱きしめる腕にさらに力が入った。 「香藤、痛い!」 「あっ、ゴメンなさい。」 岩城の抗議に慌てて体を離す。 しょんぼりした香藤の頭をぽんぽんと軽く叩き岩城が優しく微笑む。 「しっかり反省したみたいだな?」 「えっ?」 「ちょっと薬が効きすぎたか?」 「えっ?えっ?どういう事?」 分けが分からない香藤に今度は悠然と微笑む。 「カメラ、気付いてたよ。あの日の午前中家に戻ってて、その時に見つけたんだ 。」 「ウッソ〜、マジ!?でもじゃあ、あのビデオに写ってたのは?」 「なかなかの名演技だっただろ?」 「え〜っ!あれって全部演技だったの!?そんな〜。ヒドイよ岩城さ〜〜ん!」 思いもかけない言葉に香藤の全身から力が抜ける。 「何言ってる。元はといえばお前があんな悪戯するのが悪いんだろう!」 「うっ。はい、おっしゃるとおりです。ゴメンなさい。」 「これに懲りたらもうくだらない悪戯なんかするんじゃないぞ。いいな?」 すっかりうなだれてしまった香藤の頭をもう一度優しく叩く。 「はい。岩城さん、ホントにゴメンね。」 「もういいよ。俺もちょっとやりすぎた。悪かったな、香藤。」 「うん。岩城さん。」 香藤が抱きしめようとするのを岩城が制する。 そして戸惑う香藤に艶やかな微笑を見せた。 「ただいま、香藤。会いたかったよ。」 恋人である自分にだけ見せてくれるその笑顔と、滅多に聞かせてくれない言葉に香藤は力一杯抱きしめずにはいられなかった。 「お帰り、岩城さん。俺もスッゴク会いたかったよ。」 「香藤。」 二週間ぶりに感じるお互いの温もりに、二人はしばらくそのままでいた。 久しぶりの香藤の手料理を二人でゆっくりと味わう。 見つめ合い、言葉を交わし、一緒に居られる幸せを改めて実感する。 やがて絡まる視線の温度が上がり、二人は会えなかった時間を埋めるかのように熱い夜をすごした。 |
◆グレペン様作◆
★某所(笑)で盛り上がった話題を元にグレペン様が
こんな素敵なお話を作ってくださいましたvvv
見事なお花ですわ、グレペン様〜♪(笑)
:*.;".*・;・^;・:\(*^▽^*)/:・;^・;・*.";.*:
悪戯をしてしまう香籐が可愛くって可愛くって(*^_^*)。
で、それを諫める岩城さんの優しさvv
もうらぶらぶです〜〜。
読んでいると、情景が目の前に浮かんできそうで。
グレペン様ご馳走様でしたv
ありがとうございます。