モミジオヤジ



 九州でのロケが終わって、岩城は東京に戻ってきた。羽田空港から自宅まで、マネージャーの清水に車で送ってもらう。三日ぶりの東京は冷たい雨で肌寒いほど。夕方の時間帯で車窓からは学生服の一群も目に入る。十月に入り、学校も衣替えの季節を迎えたらしい。

「いきなり秋になった感じですね、清水さん」

「はい、本当に。先週まで蒸し暑かったのに、今日は秋雨前線の冷たい雨ですよね。今年は残暑が厳しかったですから、いきなり気温が下がってびっくりしました。ところで、香藤さんは北海道でしたか?」

「ええ。戻りは今日の夜になるそうです」



 ほどなく自宅に到着。三日ぶりの我が家だ。たまっている家事を香藤が戻るまでに済ませられるといいんだが、と思いつつドアを開けると、我が家の匂いが岩城の胸いっぱいに流れ込んできた。香藤の匂いに深呼吸する。久しぶりに戻ると、我が家に香藤の匂いがしみついているのがよくわかる。「岩城さん、お帰り」と迎えられた気がして、笑みがこぼれた。

 そのまま二階に上がり、スーツを普段着に着替える。ロケから持ち帰った洗濯物を持って一階に。ランドリーのカゴには山のような洗濯物。このところ家事もままならなかったからなぁと、お互いの忙しさを振り返る。最低二回は洗濯機を回さなければならないだろう。

 洗濯物のいちばん上に香藤のシャツがあった。洗濯機に投げ込もうとして、ふと両手で握りしめて匂いを嗅いでしまう。途端にからだが熱くなってはっとする。香藤のいない我が家はやっぱりさびしくて、香藤のことが恋しくて…。今夜は帰ってくるんじゃないかと思いながらも、からだの熱さが抑えられない。左手に香藤のシャツを握りしめ、右手は股間に伸びて…。愛撫が思い出され、唇から香藤を呼ぶ声が漏れる。シャツの匂いだけでこんなことをしてしまう自分に顔がほてった。

 十分後、そんな自分に小さな吐息をつきながら、香藤のシャツで指を拭っていると、玄関のほうでガチャッ、バタンという音。ギクリとする

「岩城さ〜ん、ただいま〜。いるんでしょ?」

 突然の香藤の声。予定より早かったのか!? 早く帰ってきてくれてうれしい。でもそれより前に、洗濯前の香藤のシャツの匂いを嗅ぎながら、してしまったことが恥ずかしい。顔から火が出るようだ。

「岩城さ〜ん、どこ?」

 香藤が俺を探している。慌てて、香藤のシャツを他の洗濯物と一緒に洗濯機に投げ込み、始動させる。ちょっと待て、ここ、匂いがこもってないか!?

「か、かとう、お帰り。い、いま、そっちに行くからな」

 ドタドタと廊下を走る音がして、香藤が飛び込んできた。

「岩城さ〜ん、ただいま。さびしかったよぉ」と、抱きしめられる。

「お、おかえり、か、香藤。早かったんだな」

「うん、早い便に乗れたから。岩城さん、どうしたの? 顔が真っ赤だよ」

「は? そ、そうか。ちょっと暑くないか」

 不審げな香藤の表情に、しどろもどろがひどくなる。

「冷たい雨が降って寒いのに〜? 岩城さん、風邪じゃないよね? あれ、ここ、なんか匂う?」

 くんくんする香藤に、岩城は焦って口づけた。香藤が欲しいと思った気持ちやマスターベーションを今更秘密にすることもないとは思うが、知られてしまうのは恥ずかしかった。

 熱い抱擁に夢中になる。唇をはずすと香藤がつぶやいた。

「いいの? 岩城さん。洗濯してたんでしょ? 俺に逢えなくてさびしかったの?」

 目を伏せて頷くと、香藤が顔に両手を添えて、再び深く唇を重ねてきた。



(この部分は“花園”にさせてくださいね byゆみ)



 はぁ、はぁ、はぁ……。後ろから抱きしめられた姿勢から、向かい合わせにからだを回された。両手を深く組み合わせ、万歳の姿勢でキス。深く、そしてついばむように、また深く。キスには際限がなくて…。せつなそうな表情に、また香藤が勃ち上がりかけていることを岩城は確信する。

「岩城さんに煽られちゃった。洗濯しながら俺のこと思い出してたの? 俺の洗濯物の匂い、嗅いだりして?」

 岩城が小さくぎょっとしたのを、香藤は敏感に感じ取る。

「ホントに、岩城さん?」

 うれしそうな香藤。そんな表情を見ると、マスターベーションを知られたくないと慌てた自分がうそみたいに感じる。そうだ、香藤が欲しかったのは俺にとって当たり前の感情だった。

「玄関を開けたらお前の匂いがして。お前に逢いたい気持ちでいっぱいになって…香藤、早く帰ってきてくれてうれしかった…」と、肩に額をのせると、ぎゅーっと抱きしめられた。

 すぐに香藤が顔を上げる。

「これ以上、抱きしめてると、また我慢できなくなるから…洗濯、手伝うよ。あ、そうだ。岩城さんにおみやげがあるんだ」

 香藤に腕を引っ張られて玄関に出てみると、無造作に新聞にくるまれた赤いもみじの枝が立てかけられていた。雨に濡れた鮮やかなもみじに指を伸ばす岩城。香藤はもみじを愛でるその表情にみとれた。

「北海道の紅葉、すごくきれいだったから見せてあげたくて買ってきたんだ。岩城さん、掃除と洗濯、手早く済ませちゃおう。終わったら和室と寝室に生けてよ。夜はもみじの下でしっぽりと…ね? いいでしょ?」

「ふふふ、オヤジみたいなセリフだな」

「え〜。俺がオヤジってことは、年上の岩城さんはもっとオヤジってことだよ?」

「年の話はするな」

 香藤の額にこつんと岩城の優しいゲンコツが落ちた。



2004.10.7 ゆみ



岩城さん・・・・・可愛いv
香藤くんのことを思って・・・・なんて・・・・!(きゃv)
そんな岩城さんにも萌えです!
途中の経過は別の箇所(笑)で掲載しておりますv

ゆみさん、ありがとうございますv