「よし、できた。印刷っと。」
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                ご  案  内  状


 岩城京介様

 来る1月27日、貴方様に最高のお誕生日をお過ごし頂くべく
 私、香藤洋二がスペシャルプランを御用意させて頂きます。
 つきましてはご要望がございましたら同封のオーダー用紙に
 て2週間前までにお申し付けくださいませ。
 お申し出の無い場合は全てお任せ頂いたものとしてプランニ
 ングさせて頂きます。
              
           貴方様の専属コンシェルジュ 香藤洋二

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「偶にはこういうお遊びもいいよね。」
別にこんな物渡さなくなって最高の誕生日にするに決まってるんだけど。
岩城さんは未だに超ハードスケジュールでなかなかまともに顔見れない。
当然殆ど話もできなくて希望を訊くのも無理そうだからこんなことしてみたって訳。
どうせ岩城さんのことだからお任せになるんだろうけど。
『お前と過ごせればそれでいい。』とか言ってさ、もう可愛いすぎだよね。


っと、にやけてる場合じゃない、プランを考えなきゃ。
残念だけど岩城さん半オフしか取れなかったんだよね。
それも清水さんがかなり骨折ってくれてやっと。
あのハードスケジュールの中もう殆ど奇跡に近い。清水さんには本当に感謝だよね。
岩城さん相当疲れが溜まってるだろうからゆっくり過ごしてもらえるようにして、夕食は俺、渾身のディナー。
スタミナ満点、かつ栄養バランスのいいメニューを考えなきゃ。と思ってたのに、数日後岩城さんからオーダーが入ったんだ。





―――ピンポーン
岩城さんの誕生日当日、リビングにインターフォンの音が響く。
「はい。」
「岩城京介様にお届け物です。」
受話器を取って応対すれば爽やかな声。
「はい、今開けます。」
俺は受話器を置いてため息をついた。



受け取った荷物をダイニングテーブルに置き椅子に座ってまたため息をつく。
「なんでこれなのかなー。」
中身は高級ディナーセット。
少し手を加えるだけで本格的な高級レストランの料理が味わえるってヤツらしい。
俺が腕を揮いたかったのに。こんなことになるならあんなの渡さなきゃよかった。



岩城さんからのオーダーは二つ。
仕事終わりの迎えと夕食をこの料理にすること。
料理は注文済みって書いてあった。
勝手に断ろうかと思っても注文した店の名前は書いてなかったんだ。
作らせて欲しいって言おうにも顔も見れない日が続いて。
一度だけメールで言ってみたけど『却下』って凄くつれない返事が返ってきた。


ため息ばかりついてても仕方ない、オーダーしてくれって言ったのは俺なんだし。
箱を開けてみてちょっと驚いた。
デザートまであってちゃんとしたコース料理になってる。
消費期限も3日ほど。これって保存料とか使ってないってことだよね。
説明書には一流ホテルの名前があった。
俺が作れないのは残念だけどこれならいいか。




予定より1時間遅れの2時過ぎに岩城さんから電話が入って迎えに行った。
「岩城さんお疲れ様。待った?」
「いや。悪かったな迎えに来てもらったりして。」
「全然、返って嬉しいよ。」
「そうか。」



車に乗ってから岩城さんはずっとこっちを見てる。
「何?」
「ん?」
「いや・・・ずっとこっち見てるからさ。」
「別になんでもない。」
「そ?」
「ああ。」


なんでもないと言いながらも岩城さんはそれからも俺から視線を外さない。
俺はだんだんドキドキしてきた。
「岩城さん・・そんなに見つめられると俺の理性もたないんだけど。」
「・・・それは困るな。」
岩城さんはふっと笑って車窓に目を向けた。



今度は岩城さんは車窓ばかり見ている。
少し寂しくなってチラチラ様子を窺ってたら突然くすくす笑い出した。
「お前、俺がどこ見てても結局集中できないんじゃないか。」
本当に集中できなくなって車を路肩に止めた。
「だって今度は全然こっち見てくんないんだもん。でも何で俺が見てるって分かったの?」
岩城さんは一度俺の方を見てまたすぐに窓に目を向けた。
「見てたからだ。」
「え?」
「俺が見てたのは窓に映ってるお前だ。」
言われて見た窓に映る岩城さんと目が合い頬がかっと熱くなる。
岩城さんはまたくすくす笑いながら振り向いた。
「お前どうしたんだ?今日は随分とウブな反応するじゃないか。」
「だって・・・岩城さんが・・・・・・・・」
・・・・・甘く絡みつくような目をしてたから。
「そんなに気になるなら目を瞑ってようか?」
「え?いいよ。その・・・普通にしててくれれば。」
「普通に・・か?分かった。」
俺は頬をパンと叩いて気を引き締め車をスタートさせた。



それからは他愛ない話をしながら無事家に着いた。
岩城さんが着替えてる間にコーヒーを淹れる。
降りてきた岩城さんはくんと匂いをかいだ。
「いい匂いだな。」
「もうすぐはいるから座って待ってて。」
「ああ。」


「お待たせ。」
カップをテーブルに置き、岩城さんの隣に座る。
「ありがとう。」
「あ、そうだ。あの料理届いたよ。」
「そうか。」
自分でオーダーしたものなのに岩城さんはあまり気がなさそうだった。
コーヒーを飲み干すと俺に凭れかかってきた。
「岩城さん?」
「少しだけ寝たいから膝貸してくれるか?」
「勿論いいけど。疲れてるならベッドで寝た方がよくない?」
「お前の膝で寝たいんだ。」
そう言うと岩城さんはすっと横になり俺の腰に腕を回して抱きついてきた。
「えっ、ちょっ・・岩城さん?」
この体勢だと膝枕ってより・・・・・・・。ヤバイ、俺の正直な息子が反応しちゃうよ。
「いっ岩城さん、やっぱ上に行こうよ。俺も一緒に寝るからさ。」
「ん・・・分かった。」


ベッドに入ると岩城さんはピッタリ身体を寄せてきた。鼻腔を甘い香りがくすぐる。
理性を総動員して欲望を抑えてたらすぐに岩城さんの寝息が聞こえてきた。
こんなに寝つきがいいなんてかなり疲れてるんだよね。
でもどうしたんだろ。今日の岩城さんなんだかいつもと違う。



岩城さんは1時間ほどで目を覚ました。
リビングに降りて岩城さんを後ろから抱きしめてDVDを見た。
チョイスしたのはアニメ映画。肩の力抜いて見られるのがいいと思ったから。
なのに予想外にドキドキハラハラしちゃった。
主人公がピンチの場面では思わず岩城さんと手を握り合ったりして。
ハッピーエンドにほっと身体の力が抜ける。
「自分で選んどいてなんだけど思った以上に面白かったね。」
「ああ、アニメでこんなに楽しめるなんて思ってもみなかった。」
時刻は7時前になっていた。
「そろそろ食事にしようか?」
「そうだな。」



二人で夕食の準備を始める。
休んでてって言ったけど岩城さんが一緒にやりたいって。
テーブルセッティングは迎えに出る前にほぼ済ませていた。
後は届いた料理を温めたり皿に盛り付けたりするだけだったからすぐできた。


「岩城さん誕生日おめでとう。」
「ありがとう。」
ワインで乾杯してディナーが始まる。
さすが一流ホテルの名が入っているだけあってどの料理も美味しかった。
「美味しいね岩城さん。俺こんなちゃんとしたコース料理だって思わなかったから箱開けてびっくりしたよ。」
「確かに美味いな。でも俺にはお前の料理の方が美味く感じるけどな。」
「え・・・・・じゃ、何でこれにしたの?俺作りたかったんだよ。なのに岩城さん却下って。」
すると岩城さんは恥ずかしそうに頬を染めた。
「・・・・嫌だったんだ。」
「え?」
「たとえ俺のための料理でもお前が俺以外に目を向けるのが嫌だったんだ。」
「・・・・・・・」
「もう随分まともに話もできなくてお前に飢えてた。だから折角一緒に過ごせる時間に少しでも多く傍に居て欲しかったんだ。」
ああ、もう岩城さんは何でこんなに可愛いんだろ。
迎えのオーダーも車の中で俺をずっと見つめてたのもそういうことだったんだ。
「岩城さん、そんな可愛いこと言われたら俺今夜歯止めが効かなくなりそうだよ。あ、でも明日早いんだよね?」
「早く寝室に上がればいいだろ。」
「いいの?」
「言っただろお前に飢えてるって。お前が遠慮するなら襲ってやろうと思ってた。」
「今すぐ寝室に上がりたいけど折角のご馳走全部味わわなきゃね。」
言っては見たものの俺はその後の完全に上の空で料理を口にしてた。デザートの味なんて全然覚えてない。





「・・・んっ・・・・・あ・・香藤・・・・」
耳に響く甘い声。
唇を落とせばどこもかしこも甘い身体。
そしてその上気して桜色に染まった身体から立ち昇る甘い香り。
全てが俺にとっての至上の甘美。
「・・・・・香藤・・・愛してる。」
「俺も愛してる。岩城さん。」
誰よりも何よりも大切で愛しくて堪らない。


岩城さん、生まれてきてくれてありがとう。




END

'07.1.22 グレペン



きゃん、独占欲がかいま見える岩城さんって素敵です!
ほんの少しの時間も自分を見ていて欲しい・・・・
という岩城さんの気持ち・・・・もう香藤くんにはたまらない媚薬ですね!
グレペンさん、素敵な作品ありがとうございますv