「久しぶりに、ゆっくり出来るね〜」 岩城の左腕を抱えて、香藤がしみじみと呟いた。 2人揃ってのオフの前日。 といっても、もう少しで日付が変わる時間に、2人はリビングにいた。 ソファーにゆったりと足を組んで岩城が座り、左隣に香藤がいた。 「ああ、そうだな」 岩城もテレビに目を向けながら応える。 その肩には香藤の頭が乗せられ、左腕は香藤の腕の中だ。 岩城はそれを振り払うでもなく好きにさせていた。 突然。 香藤が大きな溜め息を吐いて呻いた。 「岩城さん、どうしよう……。」 「ん?」 「胸が苦しいんだ。スゴく…」 「なんだって? 大丈夫か?」 岩城はぎょっとして香藤の方へ向き直った。 見れば、香藤は胸のあたりを押さえて俯いたまま。 表情を伺うことさえ出来ない。 「香藤!? 大丈夫なのか? おい!」 香藤の肩を掴んで揺さぶってみる。 すると、漸くゆっくりと香藤が顔をあげた。 その顔は眉が寄せられ、本当に苦しそうである。 心配そうな岩城の前で、もう一度溜め息を吐いて香藤が訴えた。 「どうしよう、助けて。岩城さん好き過ぎて、胸が、苦しい」 「……………は?」 「なんか、もう。岩城さんの事考えると胸の奥がギューッてするんだ」 「………」 「んで。岩城さん好き岩城さん好きって気持ちが溢れて止まんなくなって」 「………………」 「頭ん中まで岩城さん岩城さん岩城さんだし。ホント、どうしよう」 ねえねえと、今度は香藤が岩城の肩を揺さぶる。 一瞬最悪の事態まで考えが及んでいた岩城は、思いっ切り脱力してしまった。 「こんなに俺を好きにさせて、どうすんの? 岩城さんのせいだよ」 馬鹿みたいな心配をさせた香藤に怒りが湧いてくる。 「責任取って一生…ふぎゅ!」 岩城は、真面目な顔で何やら言い募る香藤の鼻を摘んだ。 「何言ってるんだ、この馬鹿」 「痛っ。痛いって!」 岩城の手を振り払い、自分の鼻を押さえる。 「もうっ! そんなされたらイイ男台無しじゃん」 香藤が涙目で訴えるが、岩城はにべもない。 「別に? お前の顔に惚れた訳じゃないからな。どうもしないさ」 「岩城さんたら〜、そんな可愛い事言って〜v」 「は? 何がだ」 「そゆこと、さらっと言っちゃうから、俺メロメロになるんだってば」 「だから、何が…」 〜〜〜♪ 話を遮るように、ローテーブルの上に置いた香藤の携帯が鳴り始めた。 「あ」 香藤は携帯を取ると、画面を確認する。 「もう27日だ!」 どうやら日付が変わったらしい。 それから携帯を置き、姿勢を正して岩城の左手を取った。 「岩城さん。誕生日おめでとう」 今までじゃれあっていたのが嘘のように真剣な顔をしていた。 そして岩城の見つめる前でその左手を口元まで持ち上げる。 そのまま岩城の目線を絡めながら、言葉を紡いだ。 一言言う度に、岩城の左手の結婚指輪にキスを落としながら。 「生まれて来てくれてありがとう」 「無事に健康でいてくれてありがとう」 「俺に出会ってくれてありがとう」 「俺の気持ちに応えてくれてありがとう」 「いつも俺の事考えてくれてありがとう」 「いつも甘えさせてくれてありがとう」 ××× 「俺の事愛してくれてありがとう」 「俺に愛されてくれてありがとう」 「俺の…、」 「わかった、わかったから」 始めは唖然として聞いた岩城だった。 だが、次第に頬を染め、耳まで赤くなり、遂には香藤の言葉を止めた。 香藤がキスする毎にそこに熱が生まれ、今では火傷しそうな程に熱い。 その熱が既に全身にまで及んでいる。 「もういいだろ? 香藤」 「ま〜だ。全然、これっぽっちも言えてないよ」 「まだあるのか?」 「もちろん!!」 得意げに胸を張る香藤に、呆れたように右の眉があがる。 最近ずいぶんと大人の男としての落ち着きを見せるようになったのに。 子供っぽい感情表現とストレートな愛情表現は相変わらずだ。 そんな香藤だから、不器用な自分との仲が続いているのだし。 何より自分がそんな香藤を望み、愛してるのだから仕方がない。 そう考え、岩城は自嘲してしまう。 「まったく。普通は次第に冷めるものなのに…、年々暑苦しくなるな」 聞きようによってはあまりな事を岩城が口にする。 案の定、誤解した香藤が文句を言おうと口を開きかけた。 だがその前に、岩城は香藤の首に両手を回し引き寄せる。 「ありがとう、香藤。その続きはベッドで聞かせてくれ」 そしてペロリと香藤の唇を舐めた。 香藤は一瞬驚いたが、くすりと笑って宣言した。 「ん。岩城さんの全身に聞かせてあげる。俺がどれだけ岩城さんを愛してるか」 「ああ。楽しみだな」 夜が明けて。 浴室の鏡に映った自分を見て、岩城は愕然とした。 全身のいたるところに、満遍なく付けられた赤いキスマーク。 香藤に『よし』は禁句だと、改めて心に刻んだ岩城だった。 END 2007.1.27. 玖美 |
岩城さんは天然の惚気爆弾を落としまくりますから
香藤くんは本当に大変v でも幸せなんですよね、それが(^o^)
つけられたキスマークはきっと艶めかしく岩城さんを彩っていたいたことでしょうv
玖美さん、素敵なお話ありがとうございますv