「お誕生日おめでとうございまーす!」
スタッフの掛け声と共に花束が渡され拍手が起こった。
それにあわせて俺も手を叩いた。
彼女がこちらに気付いてぺこっと頭を下げる。
それに微笑んで
「おめでとう」と声をかけると嬉しそうに笑って
そしてまた他のスタッフにも頭を下げていた。

今日は共演しているタレントの誕生日らしく
撮影の合間に大きなケーキでお祝いとなった。
若いのにしっかりしている女性で、お祝いは心からのものだけど
今日は本当は他に祝わなくてはならない人がいるのに・・・。
そんなこんなで俺は朝からずっとため息ばかりだ。
「はあ・・・」
何度目だろう・・・小さく出たため息に横にいた金子さんが気付いた。
「香藤さん?」
「あ、ごめん、つい」
「いえ・・・すみません、今日お休みに出来なくて」
本当にすまなそうに言う金子さんに俺は慌てた。
「金子さんのせいじゃないよ、これは前から入っていたし・・・仕事だからね」
「でも・・・」
「それに岩城さんも今日出てるし」
「え?そうなんですか?」
「うん、最初はオフにしていたみたいだけど急に入ったって・・・でも俺よりは早く終わるかも」
「そうですか。・・・今日は夜中にはならないとは思いますが・・・」
と金子さんは言葉を濁しながらスタジオを見渡す。
今の時間から考えて終わりは8時か9時だろう。
いつもの仕事明けから考えればけして遅い時間じゃないけれど、でも今日はやっぱり1時間でも早く帰りたかった。
「うん、いいよ。仕事に出た段階で覚悟は出来てるし・・・勿論自分の分はしっかりやるけどね!」
そう言ってウィンクする。
その言葉に金子さんも「そうですね」と頷いた。
少し離れた人の輪の中では”ありがとうございます!”という言葉と共にローソクが吹き消されていた。
それを眺めながら、それでも早く岩城さんに会いたいなあ・・・と俺は思っていた。
岩城さんもどこかで花束貰ったりしてるのかなあ・・・。




「お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
にっこり笑う清水さんに笑顔で答える。
乗り込んだ車の中でほっと息を吐いた。
「お話、面白かったですよ」
フロントガラス越しに言われ、苦笑してしまう。
「そうですか? あれは聞き手が上手かったんでしょう、やっぱりトークは苦手ですけどね」
仕事の話、趣味の話・・・けしてうまく話せたわけではないが、それでも気持ちよく終わらせることが出来た。
「今回は急なお話だったので・・・申し訳ありませんでした。それも誕生日に・・・」
「いえ、仕事ですから、それは構いませんよ。それに・・・」
と傍らに置いた大きな花束を手に取る。
「お祝いまでして貰って」
芳しい香りに包まれる。
仕事が終わると同時に拍手とお祝いの言葉の中、大きな花束を女性司会者から渡された。
「ええ、急な申し出を受けていただいたからと是非に・・・と言われたので」
「ありがたいですね」
そう言ってもう一度花に顔を近づけた。
「香藤さんは、今日は?」
「ああ、あいつも仕事ですよ。俺よりも遅いじゃないかな」
「まあ、それは残念ですね」
「朝も大騒ぎでしたよ、朝食もお祝いバージョンのメニューにするんだ!とか言って」
その様子を思い出して笑ってしまう。
自分も出るから時間がないのに、あれもこれもと作ろうとする香藤をなだめて大変だった。
明日なら時間があるからと、何とか説得して慌ただしく朝食をふたりしてとったものだ。
「香藤さんらしいですね」
清水さんも笑った。

不思議だ、こうやってあいつの事を語る時、自然と頬が緩む・・・そして心が温かになる。あの明るい笑顔や言葉を思い出すと励まされているような気分になって心が軽くなっていく。
自分の方が早めに帰宅するだろうから、逆に何か作って驚かせてやろうか・・・とも考えてしまう。材料は色々買い込んでいたから何かできるかも知れない。
そんなことを考えていると、携帯が震えた。
”香藤?”
そう思って見れば・・・そこには意外な名前が出ていた。




「はーい、30分休憩です」
その声に、ふーっと息を吐き首を回しながら椅子に座った。
時計を見る・・・7時半か・・・。
やっぱり帰りは9時近くなるかも知れない・・・これからのことを考えながら、やっぱりため息。
明日は多少時間があるとはいえ、休みじゃない。
忙しいのはありがたい事だけど、でもやっぱり誕生日ぐらいは・・・と思ってしまう。

岩城さん・・・もう帰っているかなあ・・・電話してみようかなあ・・・と携帯を取り出す。
声だけでも聞いておきたい。
と、その時着信が入った。
「岩城さんだ!」
慌てて俺は携帯を開いた。
「もしもし」
『あ、香藤か。今、大丈夫か?』
「うん、ちょうど休憩中!俺も今かけようと思って!以心伝心だね」
『愛だって言いたいんだろう?』
「勿論!」
くすくすと笑われる。
顔が浮かぶ。
『まだかかるのか?』
「もうすぐだと思う。9時には戻れると思うよ」
『そうか。実はな今・・・あ、ちょっと』
「え?何??どうしたの?」
ゴソゴソと向こうから音がする。
あははは・・・と笑い声・・・。
”だ、誰かいる!?”
携帯を持ち直す。
「岩城さん?ちょっと、ねえ、どうしたの?」
声をかけるが、それには応答が無く、何人かの声が混ざる。
『あーもしもし?』
少し間をおいて岩城さん以外の声が出てきた。
「な、何?」
『香藤?お仕事頑張ってる?』
・・・こ、こいつは!!
「小野塚・・・」
『ピンポーン!』
「ちょっと何でそこにいるんだよ!!」
『え?何でって、お祝いに決まってんじゃん』
そうそう!!と後から声も聞こえる。
「その声は・・・宮坂もいるのか!」
『はーい、いますよ。ふたりでお祝いに来たの』
「ちょっと、お前ら〜!!」
『俺達、お前がいると思ったんだよ、ホントに』
「どーだか」
『岩城さんらぶらぶのお前がさ、仕事入れてるって思わなくって、岩城さんに電話を入れてみたらお前遅いって言うから、先にお邪魔したんだよ』
お邪魔してまーーーす!と、また後から声がする。
「小野塚・・・お前、俺が留守って知っていただろう!」
『えーー?知らないよ、信用無いなあ』
「信用なんかあるか!」
『まあまあ、もう色々大丈夫でしょ?』
そして少しだけ声を落とす。
『俺もいるしさ、あいつも分かってるって、そんなことはお前が一番承知してると思うけど』
「・・・・・まあな」
そんなことは分かっているけど・・・って、後の楽しそうな笑い声が耳に付く。
岩城さんも楽しそうだよ〜;;
『ま、早く仕事を終わらせて帰ってきて? 奥さん? いや、旦那?』
「・・・小野塚・・・」
『俺達もさ少し買ってきたけど、香藤特製の酒のつまみ作って欲しいなー。 じゃーねえ!』
「なに勝手なこと言ってるんだよ、あ、ちょっと!岩城さんに・・・って、おい!」
プツッと切られた。
岩城さんとほとんど話をしてない・・・。
「あいつ・・・!よくも俺の留守の間に!!!」
携帯を握りしめる。

・・・あいつらいつまで居る気なんだ?・・・せっかくの誕生日に!
帰りは少し遅くなるけど、あれもこれも・・・と思っていた予定のことが音を立てて崩れ始める。
最悪、明け方までってありそうだ・・・。
血の気が引く。
冗談じゃない、ふたりの大切な時間を邪魔させてたまるかぁ!
「・・・ったく、あいつら覚えてろよ!」
「香藤さん?」
急に立ち上がった俺に、コーヒーを持ってきた金子さんが驚いて声をかける。
「金子さん、仕事、仕事!早く終わらせて帰らないと!」
「え?でも今休憩中・・・」
「一分一秒でも早く帰らないと!」
「え?ちょっと香藤さん?!待ってください、香藤さん!」
ズンズンと歩き出した俺に事情の分からない金子さんの声が背中にかかる。
 
いくら色んな事が片づいた後とはいえ、俺抜きで岩城さんと盛り上がるのだけは勘弁して欲しい。
酒の入った色気爆発の岩城さんを無防備に晒すのだけは何としても避けたい!
”ああ、もうあいつら〜!!”
ざまーみろというような悪友ふたりの顔が浮かんで、俺は頭をかきむしった。
「岩城さん、待っててね!!」
そう叫ぶ俺にスタッフがみな振り返った。

・・・今夜は決戦だ!



2007・1
日生 舞
(私も色んな意味で間違っていると思います・・・・ 笑)



・・・趣味丸出しで住みません(^_^;)
悪友絡み、マネージャー絡みが大好きなんです、はいv
この後の香藤くんというのもなかなか興味深い物があるような(笑)