ちょうど一年前の今日だったな・・・香藤からこれが届いたのは・・・ 仕事の合間をみつけては、丁寧に剪定をし手入れをしてきたのだが・・・ なかなか蕾がつかなくて、駄目にしてしまったかと思っていたが・・・ まだうす蒼いひかりを受けたベランダのそれは、おっとりと優しい色合いを見せていた うつむきかげんの白い花が控えめにほころんでいる ・・・香藤の「おめでとう」の声が聞こえてくるようで、寒さも忘れて俺は花びらに手を伸ばした・・・ ***** 車が走り去る音に気づいて、台本から目を上げると・・・ バタバタと靴を脱ぎ捨てる音に続いて勢い良くリビングの扉が開き、香藤が入ってきた 「ごめん、岩城さん・・・俺、今年の岩城さんの誕生日は・・・」 帰ってくるなり、ただいまも言わずに思いつめた表情でなおも言葉を重ねようとする香藤の唇にそっと指をのせる 「おかえり、香藤」 見つめたまま首を振ると、香藤の瞳が揺らぐ 「ごめん・・・ただいま、岩城さん」 言いながら俺の足元に座り込んで、香藤が抱きついてくる 「どうした?・・・さっきからごめんばかりだな」 「だって・・・岩城さんの誕生日には、この腕に岩城さんを抱きしめて、誰よりも早く、一番最初におめでとうを言うんだって毎年欠かさずそうするんだって決めてたんだよ。 それなのに・・・」 「・・・そうか・・・でも、いいんじゃないか・・・銀婚式も金婚式もラブラブで一位通過なんだろ? 毎年来る誕生日に一度くらいそういう時があったって」 「やだよ、そんなの・・・俺はやだ」 「まるで駄々っ子だな、甘えモード全開か?・・・ん?」 腰のあたりに抱きついたまま、なおもぎゅうぎゅうと顔をおしつけてくる香藤の頭をぽんぽんとしてやると 「もっと・・・もっと甘やかしてよ・・・」と小さな声が聞こえてきた 「わかった、どうして欲しい? 言ってみろ」 「・・・」 「困ったやつだな・・・ほら、顔、顔上げろ、そんなにひっついてたら苦しいだろ」 今日の香藤は最近にしては珍しく聞き分けのない子供のようになっている 冬の蝉が公開されて本格的に芸能活動に復帰をはじめたものの、ままならないことも多いのだろう 持ち前の明るさで踏ん張っているけれど、そんなこいつにだって辛いときはある まるきりの無傷というわけにはいかない しばらく抱きしめていたが、いっこうに香藤が離れる気配は無い・・・ さて、どうしたものか・・・何かプレゼントでもねだってみるか?・・・ 「香藤・・・誕生日に一緒に居られないのならリクエストがある。 俺のために探して欲しいものがあるんだが、駄目か?」 耳元で囁くと、途端に香藤がガバッと顔を上げる 妙に嬉しそうに目を輝かせている・・・ なんだかお気に入りのおもちゃを目の前にした仔犬のように見えるんだが・・・ 「なに? なになに? リクエストってなに?」 「あ、ああ・・・冬に咲くクレマチスがあるんだ、それが欲しい」 「クレマチス・・・って、花の名前だよね。 あれって・・・えっと・・・夏の花じゃないの?」 「冬咲き、というのがあるんだ」 「ふゆざき?」 「ああ、そうだ。 早いものは10月頃から咲き始めて2月くらいまで咲くそうだ、種類によって違うらしいがな」 「へえ〜。 岩城さんもまだ見たことがないの?」 「写真でなら知ってるが、実際には見たことが無い」 「それが欲しいの?」 「ああ。 探してくれるか?」 「うん! 必ずみつけてくるよ、楽しみにしててね」 そして、俺の誕生日。 事務所あてにそれは届いた。 ひと目で花とわかる大きな箱。 照れくさくもあったが、香藤のことを心配してくれている清水さんにも見てもらいたくて そのまま事務所で箱を開いた。 慎重に取り出してテーブルにのせると、ラベルを見た清水さんが驚いている。 「まぁ・・・クレマチス・・・ですか? これ」 「ええ、冬咲きなんです。 俺も初めてなんですよ、実際に見るのは」 鉢に差し込まれたトピアリータワーに蔓が巻きつき、深緑色の葉と乳白色の花とのコントラストが美しい。 「香藤にリクエストしたんです。誕生日に一緒にいられないのが淋しいって駄々こねるもんで」 「ふふ・・・幸せですね、岩城さん」 「え?・・・あ・・・そうですね」 『岩城さんへ』と香藤の文字が躍るカードは、家に戻ってひとりになってから開いた。 『 誕生日 おめでとう 岩城さん 今年もおめでとうを贈れる幸せをかみしめてるよ 明日になったら思う存分抱きしめるから、待っててね ねえ、知ってた? クレマチスの花言葉 高潔 美しい心 そして 甘い束縛 だって! 香藤XXX 』 ***** あれから一年がまた過ぎたんだな・・・ 「・・・岩城さん、そんなにしてると風邪引くよ」 いつの間にか香藤が後ろに立ち、ブランケットを俺にかけようとしてくれていた 「ああ、すまないな・・・でも俺はそれよりおまえのほうがいい」 香藤の顔に笑みがひろがる ブランケット越しではなく、直接俺を背中から抱きしめると自分もいっしょにブランケットにくるまった 「今年も咲いたんだね。良かったね、岩城さん」 「ああ・・・駄目かと思って・・・心配だった」 「ウインターベルって言うんだったよね、こいつ 岩城さんの誕生日に相応しいね・・・おめでとうの鐘を鳴らしてくれたね」 「・・・香藤・・・」 頬に香藤のくちびるが触れる・・・ 途端にぐいっと抱き上げられて、ブランケットが滑り落ちる 「まったく・・・こいつに夢中になってたね、身体が随分冷えてるよ 花はゆっくりまた後で見よう?今はまだ俺が岩城さんを愛でる時間なんだからさ」 相変わらずの香藤の言葉にくすぐったさを感じながらも、昨夜のことを思い出し、自然と頬が熱くなる ・・・俺はゆっくり瞼を閉じた くちびるをあわせながら香藤が囁く・・・ 「誕生日、おめでとう・・・すぐに温かくしてあげる・・・」 ベランダに残された花もまた 夜明けとともに、その花びらを淡いオレンジ色に染めていった ★★★ 2007・1 ようこ |
本当に花言葉が岩城さんにお似合いですねv
特に甘い束縛・・・互いに相手に囚われている・・・おふたりに当てはまって萌えます
どうぞ香藤くんに温められてくださいねvvv
ようこさん、素敵なお話ありがとうございます