〜   Heart-warming Christmas eve   〜






クリスマス・イヴに、俺は岩城さんとデートの約束をしていた。
その日入っていた岩城さんのドラマの撮影の時間帯を考えて、遅めの待ち合わせ。
だが、そろそろ出かける時間だろうと、テーブルの上の携帯に手をのばした瞬間、
ヴァイブの振動と聴き慣れた岩城さん専用のメール音。
撮影が押していて、帰りがかなり遅くなるという、そんな要件のみの短いメールだった。
撮影の合間の僅かな時間に打ったのだろう。


「ん〜……そっかぁ〜………
やっぱ、店に予約入れてなくて正解だったね。
…岩城さん、疲れてるだろなぁ〜……
…………………………………
……んっ! じゃ、やりますか」


俺は、もしかしたらこんなこともあるかも と、
用意していた食材を急いでキッチン台に取り出すと、手早く準備を始めた。


「へへ♪俺もなかなかの手際の良さじゃん?
いつもダテに主夫してるわけじゃねえよ、って!
岩城さん?安心して仕事してていいからねv
あ…そういや さっきの俺の…
岩城さん、確認する間あったかなぁ…」





『今タクシーに乗った。今から○○に向かう。遅くなってほんとにすまない』


もう、だいぶ遅い時間になってしまったけれど、
再び岩城さんからのメールを受けた俺は、少しだけ時間調整してから家を出た。
疲れている岩城さんを早くゆっくりとさせてあげたいけれど、今日はイブ。
少しだけ、俺の我がままをきいてもらおうと思い、さっきの返信メールに入れた。


自宅から然程離れていない、車で5分くらいの場所にお洒落なカフェ&バーがある。
昨年の今頃に一度だけ、二人で店の前を通りかかった時にここの存在を知った。
その店は、この閑静な住宅街が少しとぎれた場所にあるため、
その明るく綺麗なイルミネーションは、シンデレラタイムの閉店時間まで楽しめる。
たとえ街中のお洒落な店で、美味しい食事や酒を味わうことはできなくても、
俺には、岩城さんがそばにいてくれれば、そこがパラダイス。
でも、今夜くらいはね、やっぱクリスマスイルミネーションくらいは楽しみたいから。
少しでいい、岩城さんとイブの恋人達の気分を味わいたいんだ。
それに、こんな静かな場所だからこそ、俺達にはありがたいと思えた。


時計を気にしつつ、しばらくその店のそばで岩城さんを待っていると、
従業員らしき男性が一人、ドアからひょっこり顔を出した。
そして『本日は閉店しました』の札をドアにかけてしまうと、
そそくさとすぐに中に引っ込んでしまった(その様子に俺は少し笑えた)。
そろそろ閉店準備が始まってしまったようだ。
でも、今いる客達が全て帰ってしまうまで、そう…
明るいイルミネーションが消されるまで、まだ少しだけ時間はあるはず。
岩城さんが到着するまで、出来ることなら消えないでいて欲しい。

店の屋根から壁にかけて、ラインタイプの煌びやかな電飾。
ドアの横には、ちょっとかわった趣の木とガラス細工でできたツリーが置いてある。
気温はかなり下がってきていたが、寒さはあまり気にならない。
暖かな光に心が和む。

お願い……岩城さんが来るまで……



12時5分前。
店から少し離れた場所にタクシーが1台止まるのが見えた。
岩城さんだ! 間に合った!


「香藤っ」


早足に俺の元へとやってきた岩城さん。
愛しいその声に、俺はその体を抱き寄せた。






「お帰り!岩城さん。遅くなったね。お疲れさま」

「ああ…ただいま……すまない 香藤…」

「謝らなくていいから(笑)仕方ないもん。岩城さんのせいじゃないから」

「そう…なんだが……ほんとにすまない。もう、イヴが終わってしまいそうだ」

「いいから。俺はね、こうやってイヴに岩城さんとデートできて嬉しいんだから」

「デートって…もう、どこも開いてない…」






「ああ〜っ、そうやって落ち込まないの。気にしないで?
明日は二人共オフ取れたんだから、今夜はこのまま家に帰ろ?
こんなこともあろうかって、家に軽い食事用意しといたから。
帰ったら、美味しいシャンパン開けよ?」

「香藤…」






「ほら、もうそんな顔しないで…疲れてるのに来てくれてありがとうv
メリークリスマス  愛してるよ 岩城さん 」

「ああ……俺も、愛してる………
こんなに俺のことを思ってくれてるおまえと、今年もこうやってイブを過ごせる。
俺は、ほんとに幸せものだ………ありがとう 香藤。
……メリー クリスマス 」


そう言って、やっと俺に微笑んだ岩城さんの顔は、まるでマリア…

さぁ、帰ろう…俺達の家に……
俺達のクリスマス・イヴは、今始まったばかりv








(おわり)
   


〜クリスマス企画をしてくださった舞さんに心から感謝の気持ちを送ります〜



2008.12 すふらん