デート


12月になったある日のこと

久しぶりに帰った我が家の玄関で

俺は2週間ぶりに香藤と顔を合わせた。

「岩城さん!良かった、やっと会えたよ〜〜〜!」

扉を開けた瞬間に抱きついてきた香藤の肩には

大きなバッグがかけられている。

「香藤・・・今からまた仕事なのか?」

「うん、あのさ、岩城さんにお願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「クリスマスの日、岩城さん撮影なかったよね?」

「ああ、今のところは事務所の仕事だけだ」

「そ、良かった。じゃあ、そこの角にある花屋さんの前で

待ち合わせしたいんだ」

「・・・はぁ?」

「俺、その日は半日オフで家にいるから

帰るときメールしてくれる?」

「別にかまわないが・・・」

「じゃあ決まりだね。行ってきます!」

そう言って扉のノブに手をかけた香藤の腕を

俺は思わず掴んでいた。

「あ・・・す・すまん・・・」

離そうとした手を香藤が引き寄せて耳元で囁いた。

「もう・・・岩城さんてば、可愛すぎ」







その日、香藤は近所の花屋の前で

リボンの掛かった箱と花を手に立っていた。

「お帰り、岩城さん」

香藤は手にしていた箱を

助手席の窓から清水さんに差し出した。

「え?私にですか!」

思いがけないプレゼントに感激した清水さんは

少し目を潤ませながら受け取った。


「・・・清水さんにプレゼントを渡したくて

ここで待ち合わせしたのか?」

「ううん、違うよ?」

俺の方を向いた香藤がくすくすと笑い始めた。

「何がおかしいんだ?」

「もしかして、ヤキモチ焼いたの?岩城さん」

「だっ、誰が!」

「・・・ちょっと口元が尖ってる」

「・・・・・・・・・」

そりゃ、てっきり自分へのプレゼントかと思ってたんで

少しがっかりはしたが・・・。

「岩城さんが社長になってから

清水さんにはますます仕事でもプライベートでも

お世話になってるし、もう俺達の家族みたいなものでしょ?」

「そうだな・・・」

「だから直接プレゼントを渡したかったのもあるけどね」





花屋から家までは1キロほどあるだろうか。

俺達は夜道を歩き出した。

「ところで、なんであそこで待ち合わせだったんだ?」

「ん?・・・岩城さん、あれ見て」

香藤が指差した方向には

イルミネーションが輝いていた。

街中に飾られた大掛かりなものとは違い

個人の家に飾られたそれは

暖かさを感じさせる灯りに見えた。

「綺麗でしょ?

この辺、クリスマス飾りをしてある家が多いんだよ」

俺達は普段通らない近所の通りを

二人でゆっくりと歩いた。

出窓に飾られたクリスマスツリーや

陶器で作られた小さな家。

その家には明かりが灯り

煙突の上にはサンタの姿がある。

玄関のクリスマスリースにポインセチア・・・。

「こうやって見ると、結構みんな色々飾ってるもんなんだな」

「そ、街の華やかなイルミネーションもいいけど

こういうのもいいでしょ?」

「そうだな・・・」

やがて俺達の家が見えてくると

なんともいえない安心感が胸の中に広がった。

「さあ、入ろう岩城さん」

「ああ」





香藤特製のターキーや

甘さ控えめのブッシュドノエルを食べて

二人でゆっくりと夜を過ごした俺達は

お互いの温もりを感じながら

久しぶりにぐっすりと眠った。



おわり



H20.12/21 らむママ