イルミネーション


小さい頃から、夜景を綺麗だと思ったことがない。
くしくも海辺の町に住んでいた俺は、高台からの夜景なんて
飽きるほど見たし、女の子を誘って夜景を見にドライブ、
なんてことも数え切れないくらいやった。
それでも夜景をわざわざ見に行くのは、女の子が
「キレイ!」と喜ぶのを見るのが楽しみだっただけで、
俺自身は夜景を見ながら、「ふーん」って冷めていた。
イルミネーションも同じ。
華やかなクリスマスのイルミネーションは、そりゃ
「キレイだな」とは思うけど、別に心には残らない。
自分でも、なんでだろうって思うんだ。
お祭り好きな俺が、派手で華やかな明かりにウキウキしないなんて。
でもね、ある日気が付いたんだ。
仕事が遅く終わって帰ってきた日、もう深夜を回っていて、
泥みたいに疲れた身体を引き摺って車を降りた。
外は寒くて、肩をちぢこませ、息を吐いて家を見上げたら、
寝室の明かりがついてたんだ。
もちろんカーテンが閉まっていて、岩城さんの姿は見えなかったけど、
俺は一瞬動けなかった。
だってそれは、俺たちの家に岩城さんがいて、俺を待っていてくれる証。
俺たちの生活が、そこに存在する証。

どうやって鍵を開けて、靴を脱いだのか、全然覚えてない。
扉を閉めた記憶もない。
寝室に向かってダッシュして、ベッドで本を読んでいた
岩城さんめがけてジャンプして、もつれ合うみたいに
キスをして、熱い熱い肌を味わったよね。
岩城さんの身体に、どろどろに溶けて入り込んで、
ずっと繋がっていたくて、頭の芯が溶けてしまいそうだった。
明かりも消さずに何度も岩城さんを抱きながら、
この家の明かりに包まれていることが、途方もなく幸せだった。

夜景の明かりの一つ一つは、誰かが愛しい人を待っていて、
その人との生活がある証。
そういうものが一つ一つ集まったものが、夜景なんだよね。
そう思ったら、無機質な光の集まりが、なんか愛しくなっちゃった。
イルミネーションは、ちっちゃい夢の集まり。
クリスマスを楽しみに待つ人たちの、小さな心の欠片。
それがひとつひとつ繋がって、綺麗な模様を描いている。
メリークリスマス、岩城さん。
俺たちの家は、無数の夜景のなかの一つの小さな明かり。
優しい光に包まれて、思う存分キスをしよう。

工藤ハナ