プレゼント


 毎年、この時期になると、それは小さな悩みとなって、香藤の元へとやってくる。
 今年は一体どうしようかな…クリスマスプレゼント。
 そう、それは愛しき人へと渡すための大事なもの。



 街はもうとっくに、その色をクリスマスに染め上げている。
 そして、時間が少しでもあれば、そんなクリスマスの街色に紛れ込むようにして、
プレゼントを探してはいるのだが…。
「これだ!っていうものが無いんだよなあ…実際」
 普通に思いつく範囲のものならば、いくらでもあるし、それでいいのならばこんなに悩みはしない。
 いや、例えどんなプレゼントであろうときっと、岩城の事だから、笑って受け取ってくれるに違いない
とは分かっていても。
 だからこそ、悩んでしまうのはやっぱり贅沢なのであろうか。
「ああもう…本当にどうしようかな」
 ソファの上に置かれたクッションに顔を押し付けるようにして突っ伏しつつ、この日もそれが決まらなかった
故の溜息混じりの愚痴と共に、ぽつりと香藤は呟いた。
「一体何をそんなに悩んでるんだ、お前は」
「だから、岩城さんへのクリスマスプレゼントがさ、決まらなくて…」
 耳に届いた問いかける声に、思わず返事をしてしまった瞬間に。
 あれ…?と、その疑問は、香藤の元へと降って来た。
 今、自分は自宅にいる訳で…少なくともさっきまでは一人でいたはずなのに。
 ならば、今の問いかけの主は…?
 伏せていた顔をゆっくりと上げれば、そこにいたのは紛れもなく…というか、当たり前なのだが。
「うわあああ!岩城さん帰ってたの!?」
 普段なら、当然玄関からの音やらそういうものでも気が付きそうなものなのだが、今日は全く気が付かなかった。
「ああ、玄関でも呼んだんだが出てこないから、もう休んでいるかと思ったぞ」
「ごめん…全然気が付かなくて。お帰り、岩城さん。それより…さっきの聞こえちゃった…よね」
 さっきの…とは、勿論問いかけに対しての返答の事である。
「何かこのところ、ずっと何かを悩んでいるようで、お前の様子がおかしかったからな、だけど…そんな事で悩んでいたとは思わなかったぞ」
 自宅に入った時に脱いだのであろうコートを、その腕に掛けたまま、岩城は香藤と並ぶようにソファへと腰を下ろす。
「そんな事って言ったってさ…俺にとっては結構重大な事なんだよこれって」
 プレゼントを贈りたい本人に言われた言葉に、ちょっとだけ香藤の口調が拗ねたものになってしまう。
「…確か、数年前に、言っていた言葉だったかな…?」
 そんな香藤の頭を、ぽんぽんと宥める様に叩き撫でつつ、岩城が何かを思い出すようにそう呟いた。
「ん…?何が?」
「いや、俺も詳しくはしらないんだけどな…」
 岩城がそう言いながら語ったのは、数年前にこの時期に共演した者から聞いたという言葉。
 それは、このクリスマスの主役である神のお膝元である、一番実質トップの者が言っていたという、この時期の本当の精神。
 簡単に言うのならば、いわゆる商業主義ともいえるこの時期を嘆いたものであるらしい。その上で大事なのは内面的な喜びだという事を示したのだという。
「尤も、俺もその時一度だけしか聞いていないから、詳しくは分からないのだがな、その時に俺は思ったんだ。こうして、お前と一緒に過ごせる時間が、一番の喜びなんだろうなって。だから、それが充分プレゼントなんだよ」
「そっか…そう…だよな、俺も岩城さんとこうしていられるのが一番楽しいし、幸せだと思う。そういうのってもしかしたら、一緒にいられて喜びを感じられる相手の事が、一番のプレゼントなのかも知れないね」
 岩城が語った言葉に、同意するように言った香藤の言葉に、岩城も同意を示す頷きを返すのであった。

「あ、でもちゃんと、岩城さんにプレゼントは買うからね。それは商業主義がどうのこうのじゃなくて、俺がしたいんだからするんだから」
 ピッと伸ばした人差し指で岩城を指し示すようにすると、元気の出た不敵な表情で、そう言ってきた香藤に、一瞬驚いた表情を浮かべた岩城も顔を綻ばせて笑いを零していた。

 もう何年、この日を一緒に…とはいっても、実際にはクリスマスの当日に一緒にいられる確率の事の方が少ないのであるが、そこは言葉の例えというもので…とにかく、何度クリスマスという日を過ごしたのだろうか。
 それは、凄く長い月日のように感じても、未だ共に過ごす前の月日と比べれば短いもの。
 だからこそ、少しずつその時間を積み重ねていきたい。 その時間が長くなれば長くなる程、それは自分達の中で、喜びが増えるという事にほかならないのだから。


H20.12   真剣麗奈・作