冷えた空気を感じて目が覚めた。
起きだしてカーテンを開けると辺りは白い世界になっていた。
そして空からは大きな綿雪が次々と舞い降りてくる。
暫くそれを眺めていたが寒さに耐えかねた身体ががブルッと震えた。
階下に下り、リビングのエアコンを入れてからシャワーを浴びる。
トーストと野菜ジュースで朝食を済ませ、コーヒーを片手にソファーに腰を下ろした。
こんな朝食じゃ香藤に知られたら怒られるんだろうな。
そんな事を考えながらテレビのスイッチを入れる。
殆どのチャンネルがこの雪のニュースをやっていた。
積雪は三センチ程度のようだか東京ではこれでも立派に大雪だ。
都内各地の様子が次々と映し出される。
続いての交通情報の中で空港が映し出された。
空港は都内以上に積雪があり、降雪も激しそうだった。
滑走路の除雪と航空機に積もった雪を落とすのに手間取り、発着に影響が出ているとのことだった。
特に到着は便によっては他の空港に回る可能性もあるらしい。
香藤は今日午前着の便で海外ロケから帰ってくる予定になっていた。
到着予定の時間を三十分過ぎても香藤からの連絡はなかった。
窓に歩み寄って外を見ると小降りになったものの雪が降り続いていて積もった量も増えたようだった。
雪が積もっていつもより静かなせいか、白い世界にひとり残されたような気持ちになる。
新潟に比べれば遙に少ないのにこんな気持ちになるのは今日という日のせいだろうか。
一月二十七日、俺の誕生日。
誕生日が嬉しい年でもないのにこの日を特別に思えるのは香藤がいてくれるからだ。
『岩城さん誕生日おめでとう!』
香藤の祝いの言葉にまた一年、一緒に年を重ねられた幸せを噛み締める日になった。
今年はまだその言葉を聞けていないから寂しく感じているのかもしれない。
そんな事を考えていると電話が鳴った。
「はい」
「岩城さん、俺。飛行機、成田がダメで中部空港に降りたんだ。できるだけ早い新幹線で帰るから。」
「そうか、分かった。気をつけて帰って来いよ。」
「うん。岩城さん・・・」
「なんだ?」
「いいや、帰って顔見てから言う。」
「そうか、じゃ待ってるから。」
「うん、じゃね。」
ほんの短い会話だったのにさっきまでの寂しさは消えていた。
その声だけでいとも簡単に俺を幸せにしてくれる。
そんな相手に巡り会い、愛し合えたことを心から幸せに思う。
寒い中を帰って来る香藤のためにも昼食は何か温かい物でも作ろうとキッチンに向かう。
何かと言っても俺に作れるのはカレーかシチューくらいだ。
カレーを作ることにして材料を切っているとインターフォンが鳴り、宅配便が届いた。
香藤が今夜のディナーを作るために食材を注文していたらしい。
箱を開けると拘って選んだだろう食材がいろいろ入っていた。
俺のために選んでくれたのだと思うと幸せがこみ上げてくる。
香藤のように器用にはできないが俺も香藤への思いを込めてカレーを作る。
ルーを割り入れいい匂いがしてくると、以前カレーを作った時のことを思い出した。
あの時は結局カレーを焦がしてしまって、二人で苦笑いしながら食べた。
あれからいろいろあったが、またここで香藤のためにカレーを作れる。
そのことにまた幸せな気持ちになった。
東京駅に着いたと言う香藤からの連絡を受けた俺はその五分後には窓辺に立って道路を見下ろしていた。
自分の息で曇る窓を何度も拭きながら香藤を待つ。
家の前に車が止まり待ち侘びた姿が見えた瞬間、玄関に向かっていた。
靴を履くのももどかしく、勢いよくドアを開ける。
階段を駆け上がってきた香藤は一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑みを浮かべた。
その胸には薔薇の花束を抱いていた。
「岩城さんただいま。誕生日おめでとう。」
「お帰り香藤。ありがとう。」
またこの言葉が聞けて、俺の心は幸せに満たされた。
終
'08.1.25 グレペン
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