貴方が生まれた日



なだらかにうねった波が足元に押し寄せ、絶え間ない潮騒が耳に残る。
黄金色をほんのりと乗せながら、海は悠然と目の前にあった。
風もなく凪いだ海面には、小さな木製の船がいくつも浮かび、思い出したように潮風が頬を
過ぎていく。
海の中の幾多の生命を何食わぬ顔で包みながら、海は波を足元によこし、引いていった。

貴方が生まれた日の朝も、こんな海が広がっていたのだろうか。
この国が海に囲まれていて、車を飛ばせば大抵は海にたどり着く地形なら、その日もこんな
浜があったかもしれない。
人が起き出すにはまだ早い、自然だけが支配するこの時間、俺はまるで異物のように浜に立
っている。

いつから、こんな景色を貴方と見たいと思い始めただろう。
美しい景色があれば、傍に貴方にいて欲しい。
嬉しいニュースがあれば、貴方に一番に伝えたい。
俺の感動を分け合って欲しいのは、貴方だけ。
俺が行きたい場所、好きなものを考えるとき、俺の頭の中には、当たり前のように貴方が傍
にいる。

人は誰でも別々の人生を生きていて、一心同体なんて不可能だって分かってるけど、貴方は
俺の心に食らい付いて離れない。
まるで小さくて綺麗な石が心臓にはまり込んだみたいで、俺はそれを大事に抱えながら生き
ていくんだ。貴方になら、俺の生を全部あげてもいい。
俺の明日がなくなっても、貴方のためならいい。
こんなことを言われて、貴方が喜ぶとは思えないから、決して口には出さないけれど。
この気持ちは確かに、俺の心の奥にしっくりと横たわっている。

愛してるよ、岩城さん。
貴方に出会えただけでもラッキーだった俺が、貴方と結婚して、貴方がいつも傍にいてくれ
る幸せを、どれほど感謝したらいいだろう。
貴方が生まれてきてくれた日は、まるで世界がいっせいに芽吹くように、俺を喜びで満たし
てくれる。
その喜びのなかで、俺は貴方の命の尊さを噛み締める。

かつて海で波と戯れ、その深い懐に抱かれるなかで、「もしも俺が海で死ぬことがあるなら、
それでもいい」と思った。
だけど今は、貴方と離れることなんて考えられない。
貴方から離れて死ぬなんて、あり得ない。
俺が還る場所は、いつだって貴方の隣だけ。
海から這い出て、空気を肺いっぱいに吸い込み、初めて陸を踏み締める生き物のように。
俺はまるで生まれ変わるように、貴方の愛で脱皮した。


工藤ハナ



もう香藤くんのあふれるほどの岩城さんへの愛が・・・
それに溺れそうですv
どれだけ岩城さんを大切に思っているかが分かりますよね!
工藤さん、素敵な作品をありがとうございますv