ポインセチア




 サンタクロースの存在を、信じていたのは一体幾つまでだったかな…?
 ふと、そんな事を考えてしまったのは、多分街の景色が、それらしい模様になってきたからだろうか。
 ベッドの中でごろごろと横になったまま、香藤はそんな事を考えていた。
 
 小さい頃は、まだサンタクロースというものの存在を、本気で信じていた時期があった…と思う。
 一体サンタがいつ来るのだろうかと、クリスマスイブの晩になると、布団の中に潜って部屋の様子をずっと伺っていたのだが、そのうちまだ子供ゆえに、睡魔の方が勝ってしまって、目が覚めたらすっかり夜も明けて、そして枕元にはサンタクロースから贈られたとおぼしきクリスマスプレゼントが置かれていたのを覚えている。
 それが変わってきたのは、一体いつの頃だったのか…?
 それすらも思い出せない遠い記憶。
 
 今では当然、サンタクロースが本当にいるのかどうかなどと議論する事すらないのだけど。
 それでも、そんな事を考えてしまうのは、やはりあの花を多く見る事が増えたからだろうか。
 クリスマスの時期になると、花屋だけに限らずに色々な所に並ぶ、あの鉢植え。
 緑と赤で彩られた、クリスマスカラーという言葉がぴったりとあう、ポインセチア。
 
 そして、そんなポインセチアの鉢植えは…この自分たちの家にもまたあるものだった。
 
 あれは数年前の、やはりこの時期だっただろう。
 買い物に行った先で偶然配布していたそれを貰ったのは。
 そしてその時に、この花について色々と教えてくれたのは岩城だった。
 それまでは、単に葉っぱが赤く色付くんじゃないかと思っていたこの花が、しっかりとした花であったという事も、そして鉢植えで育ってはいるが、実は樹木の一種で更に、クリスマスという時期とは正反対で寒さに弱いという事も。
 そして…その花言葉も。
 一方の花言葉は、確かにクリスマスの花にふさわしいと思いながら、感心してしまったけど、その時に、もう一つの花言葉『私の心は燃えている』に引っ掛けるようにして。
「俺の心もいつも燃えているけどね、岩城さんの事が好きすぎて」
 と言ったら、軽く額を小突かれてしまった。
 でも、その時の岩城の表情が、それこそポインセチアの様な赤さを示していたのがまた可愛いなあとか思ったりしたのは、当然本人には言っていないけど。
 
 人間というのは、成長するたびに色々なものを覚えて、そしてまた、色々なものをなくしていくものなんだなあと、こういう時にはついそんな事を考えてしまう。
 サンタを信じていた時期の事は忘れてしまったけど。
 でも、こうやって増えていく新しい思い出は一杯あって。
 そうして時間というものは、記憶を積み重ねていくんだろうと思った。
 
 ふと、時計の針を見れば、もうじき針が重なろうかという刻を告げている。
 遅くなるけど帰宅するから、先に寝ていてくれても構わない…と、岩城から電話があったのは、夕刻の事だった。
 もうこんな時間なんだな…と思いつつ、布団の中に潜って僅かに息を潜める。
 こうしていると…少しだけ、子供の頃の記憶が甦ってくるようだ。
 そう、サンタクロースを待っていた時の、あの気分はきっと、こんな気分だったのかもしれない。
 
 そんな事を思っていた時。
 ドアのノブが回る音、そして僅かな音と共に寝室の扉が開き。
 「おかえり、岩城さん」
  ベッドの布団の中から頭だけひょいと出して、帰宅した岩城にそう言った香藤は、まるで大事なものを見つけた子供のような表情だった。
 子供の頃、ずっと待っていたサンタの姿は確認できなかったけど、今はこうして一番大事な人が、待っていれば自分の処に来てくれる。
 それは、とても喜ばしくて幸せな事だから。
 そして、そんな香藤の様子に僅かに笑いながら、岩城もただいま…と、帰宅の言葉を告げたのであった。
 
 時はもうじきクリスマス。
 幸せな人たちが幸せな時を過ごすのに彩られる花、ポインセチアのもう一つの花言葉は。
 『祝福』である。
 
H19.12  こげ、拝






いつまでもふたりの元に「祝福」が訪れるように・・・・と願ってしまいます
甘いクリスマスが始まるのですねv
これからの時間を思い浮かべ、頬がゆるみます

こげさん、素敵なお話ありがとうございます