「願い星」


もみの木の上に輝く光
あの一番上で輝く星が欲しかった
手に入れたら、願いが叶うかも
手に入れたら、勇気が出るかも
手に入れたら‥‥‥
色々考え手を伸ばす。


枝に邪魔され届かない
背が小さくて届かない
焦れて、焦れて


「うわ〜〜〜〜〜ん」
機嫌よく飾りつけをしていた居間から、大きな泣き声がする。
「どうしたの?」
台所に居たが、その声に驚いて急ぎ足で泣き声の所に近寄る。
「あっ、洋子。洋介が急に泣き出したんだよ」
泣き出した理由が解らずに、困惑した顔で答える。
「お兄ちゃん‥‥‥」
その答えに呆れた口調で言い返す。
洋介の側に倒れたツリーがあった。
「本当に、何もしてないって!!ねぇ、岩城さん見ていたでしょう?」
その場に居合わせた岩城に聞き返す。
「まあ‥‥‥そう、みたいだけどな」
岩城も少し困惑した顔だった。
「いわぁきしゃ」
涙声で岩城に手を広げて抱きつく。
「ああ!!洋介」
それを見て、あわてて洋介をはがそうとするが
「香藤」
それを制して、岩城は洋介を膝に抱き上げた。
「クスン、クスン」
鼻をすすりながら岩城の胸に、顔を押し付け唇を少しかんでいる洋介を岩城は背中を優しく撫でたのだった。
岩城のなだめのせいか、そのまま寝入ってしまった洋介をソファの上にそっと降ろすと、後の飾りを続けていた香藤の側に近寄った。
あの後、洋子に『本当に何もしてないの?』と散々聞かれて疲れているようすだったが、
「俺じゃないよ。俺は何もしてないよ〜〜」
香藤は小さな声でブツブツ言って取り敢えずは倒れているツリーを起こした。
「香藤」
洋介を起こさない配慮か、小声で名前を呼んだ。
「何?」
香藤もまた、小声で返事をした。
「洋介君の癇癪の理由、解らないか?」
クスクスと思い出し笑いをしつつ、岩城は聞き返した。
「えっ?岩城さんは解ったの?」
香藤は驚いて、再び始めていた飾りつけの手を止めた。
「なんとなくだけどな‥‥‥」
岩城は答えると、香藤の手伝いをする為に、床に散らばったオーナメントを拾い集めた。
「う〜〜〜ん、思いつかないな」
香藤は考え込むように、ため息を付いた。
「横で見ていたからな。洋介君、背を伸ばして天辺の星を取りたそうにしていたぞ」
岩城は答える。
「へぇ‥‥‥そういえば、俺も小さい頃、あの星を手にしたら何かいい事起きると思ってさ、ツリーを倒して怒られた事あったな」
岩城の言葉に、香藤は思い出したように答える。
「洋子もそうだったわよね。二人で、何時も取り合いになったわね」
不意にその場に居なかった声が聞こえた。
「あ、おふくろ、お帰り。親父、寒くなかったか?」
その声に、香藤は顔を上げる。
「買出しお疲れ様です」
岩城も、ニッコリ笑い、洋一、美江子夫妻から荷物を受け取った。
「そうだったかな?でも、一番天辺の星って、特別な物に見えなかった?」
台所から暖かい飲み物を洋子が持ってきて、遅れて入って来た旦那の森口啓太と父親と母親に渡し、香藤に問うように聞き返した。
「あ〜〜〜そうだよな」
香藤は答え、懐かしそうに星を見つめた。


忙しい二人が此処に居るのは、『別荘で、クリスマスしませんか?』と香藤の両親に誘われ、
今年はドラマなどに重点を置いていたせいか、比較的に楽に休みの整理が付いた為だった。
二人で時間を作り、約束の前の日に泊りがけで行くように連絡を入れた時、ツリーの準備を忘れていたと言われた。
その話を聞いた香藤がどおせならと、途中のホームセンターで電飾にオーナメント類、本物のもみの木に似た木を買い込んで、岩城を呆れさせたのだった。
別荘に行くまでの車の中でも、途中の家々で飾られているイルミネーションなどに目を奪われる事もしばしばだった。
「個人の家も年々、気合は言っているな〜〜」
香藤が運転の最中に目をやって、感心して呟く。
「綺麗だな‥‥‥見ていても飽きない」
岩城もその呟きに答える。
イルミネーションも各家さまざまだった。
青と白のライトだけのツリーもあれば、赤緑黄色と賑やかなイルミネーションもある。
キャラクターを模ったもにや、定番のサンタや雪形もあった。
道から離れた位置に、家全体が電飾で解る様な所もあった。
「楽しいよね‥‥‥あんなの」
香藤がニコニコと言い返すと
「香藤、まさか自宅でしてみようと思ってないよな。そんな事したら、俺は家に戻らないからな」
香藤の顔を見て、岩城が釘を刺すと
「ええっ!!少しぐらいなら‥‥‥」
其処まで言って、岩城の顔を見て言葉を言いよどむ。
少しの沈黙、お互いに相手をチラチラ見て視線がかち合った。
「プッ!」
始めに岩城が噴出した。
「ああ、岩城さ〜〜〜ん」
香藤もつられて笑い出す。
車の中で、目的地に付くまで、二人は笑って取り留めない話をしていた。
次の日の朝に洋子夫婦が来て、洋子も下の子が居るからと、岩城と香藤は洋介を預かりがてら部屋でツリーを飾り居残り、啓太と香藤洋一、美江子の3人で買出しに出ていた間の事だった。


大人達が楽しそうに話しているのを、目を覚ました洋介はソファから起き上がり、ぼんやりと見つめていた。
「洋介、目を覚ました?何か飲む?」
洋子がそれを認め、声をかける。
「ママ‥‥‥」
洋介は両腕伸ばし抱っこをせがむ。
「少し甘えん坊になったな。洋介」
香藤がからかう様に答える。
「下の子が生まれたからな‥‥‥洋二もそうだったぞ」
洋一が笑いながら答える。
「親父!!」
香藤が照れくさそうに止める。
洋子の腕の中で、洋介はツリーの上を見る。
「洋介?どうしたのかな?」
啓太がそんな様子の洋介に聞き返した。
「ほし」
指を挿して洋介が言い返す。
「ああ、欲しいんだ。でもあれはサンタさんへの目印だから、取れないんだよ」
啓太は洋介の目線に降りて、頭をポンポンとしながら答える。
「サンタさん?」
洋介の目がパッと輝くと、洋子の腕の中から飛び出してはしゃぎだした。
「何か、懐かしいな。洋子」
そんな様子を見て、香藤が思い出したように言うと、
「そうね。私達もああ言われたわよね。お父さんに」
洋子も答える。
クリスマスにも脈々と香藤家の形が受け継がれているようだった。
「岩城さんの所はどうでした?」
不意に話が岩城に向くと、
「兄が大きかったからな‥‥‥喧嘩にはならなかったなと思う。ああ、日奈が今年はツリーを飾りつけたって、冬実さんからメール来ていたよ」
岩城は答える。
「へぇ。日奈ちゃんが‥‥‥」
二人が話している最中に、元気になった洋介がツリーの飾りつけを再開していた。
その様子を見て、女性陣は台所に入っていく。
岩城と香藤も視線を交わし、部屋の中をパーティ様式飾りつけ始めた。
窓の外は薄暗くなり始める。

部屋を薄暗くしてツリーに電気を付ける。
点いたり消えたりする電飾、それに反射するオーナメントなどが、さらに部屋を幻想的に見せる。
洋介はそれに目を奪われ、ぼんやりツリーの上にある星を見ていた。

『今年は無理だったね。でも、来年は背が伸びるから届くかもしれないね』
不意に聞こえた言葉に当たりをキョロキョロ見渡した。
その先で皆の顔と会い、笑顔が向けられた。
「サンタさん、何を持ってきてくれるかな?」
香藤が洋介に聞き返す。
「えっとね‥‥‥えっと‥‥‥」
洋介は嬉しそうに考えて答えを出そうとする。
「じゃあ、始めようか」
洋一の言葉に台所より料理を運んでくるとテーブルに所狭しと並べられた。
夜は始まったばかり‥‥‥
新しく飾り直った居間のツリーは優しくそれを見守っていた。


            ―――――了―――――


                    2007・12    sasa



この話は、本誌で洋子さんのお腹の大きさから、この頃には生まれているだろう
と思い、森口夫妻に二人目が居る設定で書かせていただいています。




「香藤のツリー(願望)」


「ジングルベル、ジングルベル」
香藤が歌いながら、自宅の居間にツリーを飾りだした。
手馴れてる様子で、飾り付けを終える香藤に岩城は少し呆れつつも、その様子を見つめていた。
「クリスマスはもうすぐだね」
香藤がニコニコしながら答える。
「何が楽しいんだ?」
岩城はそっけなく答える。
「ええ、岩城さんワクワクしない?なんとなく」
香藤の言葉にクスリと岩城は笑った。
「そんな子供な年じゃないだろう?」
軽く香藤の頭を小突きながら、岩城は散らかっていた、飾りを手に取った。
「そうだけどさ‥‥‥」
香藤は口を尖らせる。
「まあ、懐かしいと思うな。田舎を出てからは自分の家にはなかったし」
岩城はそう言い返し、香藤の首に手に取ったモールを巻きつけた。
「あっ、何してるの。岩城さん!!」
香藤も思わず自分の持っている飾りを岩城の頭に載せると、笑顔になった。
「何か、懐かしいよね。昔もさ‥‥‥」
香藤が何かを思い出したように言い出したが、急に言葉を濁した。
「香藤?どうした」
その顔に不安を感じた岩城が聞き返す。
「あっ‥‥‥うん。この話って、AV時代の話だったんだ‥‥‥岩城さんと一緒になって久しく思い出したことも無かったのにな」
頭をポリポリ書きながら香藤が答える。
「ああ‥‥‥そういわれると、そうだな」
岩城も香藤の言葉に視線を逸らし、そのまま香藤の横の床に座った。
「でも、10年も前の事だ」
しばらくして、岩城が言い返す。
「だからこそ思い出に出てきたんだろう」
香藤の頭を自分の胸に引き寄せ、岩城は答える。
レンタルビデオに寄っても、最近は自分達のAVを見つける方が難しくなっていた。
時代の移り変わりの中に、その時代確かに自分達はその仕事をしていた。
人に自慢できる事ではないが、その証は年々無くなっている事実だった。
「そうかもしれないね‥‥‥」
香藤も岩城の胸に頭を寄せたまま、ため息をついた。
このまま、この事は埋もれた方がいいのだろう‥‥‥
「しかし、お前の口からその話が出てくるとはな‥‥‥年か?」
岩城がからかう様に言い返すと、
「そんな事は無いよ!!何なら岩城さん試してみる?」
反射的に挑戦を岩城に言い返した。
お互いの顔を見合わせて、二人に笑顔が戻ったのだった。



「所で言いかけた話、なんだったんだ?」
岩城が不意に思い出して香藤に聞き返す。
「あ〜〜〜あれ、聞いていい話じゃないよ」
香藤は苦笑気味で言い返した。
「?まあ、出所が出所だから想像はつくけどな」
岩城は言い返した。
「でも、岩城さんにして見たい気もするな‥‥‥岩城さんの肌白いし」
香藤は岩城を見つめ、不意に言葉を漏らした。
「香藤?」
嫌な予感を感じ岩城が声をかける。
「いいな‥‥‥そんなクリスマスツリーだったら、飾りがいもあるしな‥‥‥」
香藤の頭の中は、岩城をツリーの木にたとえ、飾り付けをしつつ悪戯をし始める妄想に入りつつあった。
昔AVで取った話、そのままに‥‥‥
「か・と・う!!」
ゲシッ!!
岩城の鉄拳が香藤の頭に入った。
「痛〜〜〜〜;;岩城さん、なにすんの?!」
現実に戻った香藤が反論するが、
「反論するなら、口の涎を拭いてからにしろ!!」
岩城は言い残すと、さっさと部屋を出て行った。
「あ〜〜〜待ってよ〜〜〜〜何処行くの〜〜〜」
そんな岩城の後ろを香藤の声が追いかけてくる。


その晩
「岩城さん、逃がさないよ‥‥‥」
寝室に戻った岩城を羽交い絞めにした、香藤はそのまま岩城をベットに押し込んだ。
「香藤‥‥‥」
岩城が香藤の顔を見上げる。
「愛してる‥‥‥」
夕飯に出した、アルコールのせいか、薄桃色に染まっている首筋に香藤は唇を落とした。
「あっ‥‥‥」
二人のクリスマスは始まったばかりだった

              ――――了―――――

                2007・12            sasa



飾り付けたいな〜私!って思ったんですが(笑)
岩城さんに怒られてこなくっちゃ!(嬉しげ)
ツリー・・・飾らなくなってずいぶん経ちますがやはり憧れというか夢がありますよねv
洋介くんの扱いの上手い岩城さんってツボですv

sasaさん、素敵なお話ありがとうございます