リース 〜永遠の輪〜 |
「すまん、香藤。24日からロケで26日まで出掛かることになった。」 クリスマスをあと1週間に控えた日。 夕食のあとのソファで岩城はすまなさそうに切り出した。 「・・・そう、なの?俺は20日から24日の夜まで帰れないから・・・じゃあ、クリスマスはすれ違いになるんだね・・。」 「・・すまん。」 「え、いいよっ、岩城さんのせいじゃないんだから、謝んないで。」 項垂れる岩城に香藤はあわてて言葉を返した。 「でも、お前、楽しみにしてただろう?」 「いいって。仕事なんだからしょうがないよ。ホント、気にしないで。―――ああ、それで岩城さん、今日なんか変だったのか。」 帰宅した時から何か話したそうにしていたが、なかなか口を開かない岩城の態度がようやく香藤にも理解できた。 「たまたま24日の夜が二人とも空いてたから、クリスマスパーティしようかなと思っただけで、そんなにクリスマスにこだわってるわけじゃないんだからさ。」 「・・そうか?でもお前、こういうイベント事好きだろう?」 「んー、それほどでもないんだけどな。俺も岩城さんと暮らすようになってからだよ、こんなにいろいろイベント事し始めたのって。クリスマスもさ、なんか雑誌とかテレビに乗せられてるようでヤだったんだけどね。岩城さんと暮らすようになってからすっかりまめになっちゃった。」 上目使いにへへっと笑う香藤が可愛くて、くすぐったい。 「そうなのか?でもお前、一緒に暮らし始めて初めてのクリスマスの時、どうしてもクリスマスしたいってごねたじゃないか。俺はてっきり、こいつまだサンタクロースを信じてるんだと思ったぞ。」 ふふん、と岩城は悪戯な視線を投げかける。 「も〜、俺をいくつだと思ってんの?んな訳ないでしょ?!」 むぅと尖らせた口をクスクスと笑って岩城の指がつつく。 少しすねた様子だった香藤の機嫌は、それだけで直ってしまう。 柔らかい髪の毛を岩城の首筋にこすり付ける。 「ツリーを飾りたいって言ったのに岩城さん、どうしても許してくれなかったんだよね。」 「当たり前だろう。いい年をした男の家にツリーなんか飾ってどうする。それに、さして大きくもないリビングにはお前の荷物が溢れてたのに、あれ以上物を増やされたらたまらないと思ったからな。」 ふんわりとした香藤の髪の感触に、くすぐったそうに岩城は首をすくめる。 「そうだねー。でもリースだけはどうしても飾りたいって俺、がんばったよね。」 「ああ、しばらくは、だめだ!お願い!の繰り返しだったからな。」 「そうそう。最後は岩城さんが根負けして許してくれたんだよね。」 今となっては、楽しい思い出を二人で懐かしみ、微笑みあう。 「でも、どうしても玄関には飾らせてくれなくて、リビングのドアに飾ったんだよね。」 「当たり前だろ。俺の部屋だってマンションの住人には知られてたのに、そんな恥ずかしい事出来るわけないだろう。」 「え〜、なんで恥ずかしいのさ!クリスマスなんてどこのうちでもやってるじゃん。」 「そういう問題じゃない。今までやったこともないような事をしたら、周りから何言われるか分かったもんじゃない。」 「あーなるほどね。あそこは今年はお嫁さんが来たから飾ってあるのねー♪なんて言われるんじゃないかと思った訳か。」 岩城は香藤に凭れて笑う。 「そういう事だ。あの時の粘りはイベント嫌いの人間の態度じゃないだろう。」 「まあね。もともと嫌いじゃないからさ。でも、リースはどうしても飾りたかったんだ。」 「どうして?」 凭れたまま、香藤を振り返る。 密着すると岩城の動きにそって、岩城の甘い香りが鼻腔をくすぐる。 「リースってさ、永遠を表すって、何かで読んだんだ。あのころはまだ、ラブラブとは程遠かったし・・・。岩城さんとの間になにかそういう約束みたいなもんが欲しかったんだよね、俺。」 香藤は体勢を変え、岩城を足の間にぎゅっと抱きこんだ。 「・・・それであんなにこだわったのか・・?」 「・・・うん、今となってはホント、いい思い出だけどさ。あの時がんばったおかげって訳でもないだろうけど、今は岩城さんとこうしていられるからね。リースのご利益あったかもね。」 「―――そうだな・・。」 にっこりと笑う香藤に、愛おし気な視線を投げかけて、岩城は白い首を反らせて香藤の頬にチュっとキスを落とした。 一気に香藤の心臓が、跳ね上がる。 『もう・・・岩城さん、そういうの反則だって・・・』 「・・・ねえ、岩城さん。明日は昼からの仕事だったよね・・?クリスマス、一緒にいれないからさ。クリスマスプレゼントの先渡ししてもらっても、いい?」 香藤の目の中に先ほどまでとは違う雄の色が見え隠れする。 「・・・いつもと変わらないものでよければな。」 その意味を十分に理解して、岩城は照れ隠しに少しぶっきらぼうに答えた。 「今まで、変わらなかった事なんてないけどね。いつだって初めてみたいに新鮮だよ。」 見つめ合い、どちらからともなく唇が重なる。 そして、世間より少し早いクリスマスを堪能した二人だった。 24日夜、香藤は一人、車で自宅に戻ってきた。 世間はクリスマス一色。 にぎやかな事は大好きだが、愛しい人が傍にいなければこんなにも寂しい・・・ 友人や仕事関係者にパーティに誘われたが、行く気にもならずこうしてまっすぐに自宅 に戻ってきてしまった。 『岩城さん、今頃なにしてるかな・・?まだロケ中かな・・・声、聞きたいけど邪魔になるとマズイしな・・・』 門から玄関までの階段をゆっくりと上りながら考えていた香藤は、玄関のドアにあるものに気がつき、その場に足を止めた。 香藤の視線の先には・・・ 岩城によって玄関に飾られた、綺麗なクリスマスリースがあった。 岩城の好みらしいシンプルで清清しいリース 「―――岩城さん・・・」 香藤がかつてどうしても得たいと望んだ永遠を、今、岩城も強く望んでいるのだとリースは告げている。 香藤の顔に笑顔が広がる。 さっきまでの寂しさがウソのように消え、愛しさが離れている距離を一気に近づけていく。 そして、満面の笑みでリースを抱きしめる香藤の写メが岩城の携帯に届けられた。 仕事中の岩城がそれを目にして幸せな笑顔になるのはもう少しあと。 そんなクリスマス。 MERRY CHRISTMAS♪ いつもいつもヘタレですみません・・・ 幸せな二人が書きたかっただけなんですが、 反省しきり・・・ ちょびち |
甘く幸せなおふたりの様子が幸せな想いを届けてくれます・・・
リースには永遠という意味があったんですね・・・・v
これからきっと毎年、願い込めたリースが飾られることでしょう
ちょびちさん、素敵なお話ありがとうございます