クリスマスツリー





12月初旬のある日、香藤と岩城は揃って香藤の実家を訪ねていた。
香藤に呼ばれて洋子と洋介親子もやってきていた。
洋介は相変わらず岩城にべったりで二人は今、リビングの隅でクリスマスツリーの飾りつけをしていた。
そのツリーは岩城と香藤から洋介へのクリスマスプレゼントだった。
「クリスマスプレゼントがまさかクリスマスツリーとはね。まあお兄ちゃんらしいって言えばお兄ちゃんらしいけど。」
「いいだろ。オモチャはお前や親父たちが買うだろうからそれ以外でって考えたんだよ。」
香藤と洋子は並んでソファーに座り岩城たちを見ていた。
最初は香藤も一緒にやっていたのだが洋介に追い払われてしまったのだ。
「それにしても大きなツリーね。もう少し小さいのにしてくれれば私のうちに置けたのに。」
「わざとだよ。ここに置いとけば頻繁に洋介が来るから親父たちも喜ぶだろ。その分お前や啓太くんは大変だろうけど。」
「ふーん、そこまで考えてたんだ。お兄ちゃんのことだから目いっぱい大きいのって選んだのかと思ってた。」
ツリーの飾りつけは最終段階にきていた。
岩城に抱き上げられて上の方にオーナメントをつけていた洋介が一番上に星を乗せた。
「よし、洋介くん上手にできたな。」
大好きな岩城に抱きしめて褒められ洋介はご満悦だ。
「昔、あの星をどっちがつけるかでお兄ちゃんと私ケンカしたわね。」
「そう言えばそんなこともあったな。大抵、俺が譲らされたけど・・・・・・・なあ、洋子。」
「ん、何?」
「洋介にあんまり『お兄ちゃんなんだから』って言うなよ。それ言われるとどうしようもなくて結構キツイからさ。」
「お兄ちゃん・・・・・うん、分かった。」
「さて、ツリーもできたことだし、そろそろ洋介を岩城さんから剥がすか。」
香藤は立ち上がり、岩城と洋介の傍に向かった。



「香藤いいところへ来てくれた。すまんがライトのスイッチ入れてくれないか。」
「いいよ。」
言いたいことをひとまず置いて香藤がスイッチを入れると色とりどりのライトが明滅し始めツリーは賑やかさを増す。
「綺麗ね。」
洋子もやってきて4人で暫しツリーを見ていたが、やがて香藤が口を開いた。
「おい洋介、お前いい加減に降りろ。岩城さんが疲れるだろ。」
「イヤッ。」
洋介は岩城の首にしっかりとしがみ付く。
「香藤、俺なら大丈夫だから。」
「ダーメ。岩城さん洋介に甘すぎだよ。」
そう言うと香藤は強引に洋介を岩城から引き剥がした。
「ヤーッ!」
香藤にがっちり抱え込まれた洋介は小さな手足をばたつかせて精一杯の抵抗をする。
岩城と洋子はそんな二人の様子を微笑ましそうに見ていた。





12月24日、岩城は昼過ぎに仕事を終え帰宅した。
「岩城さん、お帰り!」
待ちかねたように出迎えた香藤の横には大きな箱があった。
「ただいま。・・・香藤その大きな箱はなんなんだ?」
「クリスマスツリーだよ。」
「クリスマスツリー?それにしては大きくないか?」
「うん、家に置ける一番大きなのを買ったからね。」
「買ったのか?何で?」
岩城の声に少し呆れが含まれているのを感じ香藤は唇を尖らせて俯いた。
「だって・・・・・」
「だって、なんだ?」
「俺も岩城さんとクリスマスツリーの飾り付けしたかったんだもん。」
「はぁっ?」
「だって、こないだ俺は追い払われたのに岩城さん全然こっち見てくれなくて。洋介と凄く楽しそうで・・・・」
「なんだお前、洋介くんに本気でやきもちやいてたのか?」
岩城にくすっと笑われ香藤の顔が赤く染まる。
そんな香藤を岩城はそっと抱き寄せた。
「・・・洋介相手にマジにやきもちなんて呆れた?」
「それだけ俺に独占欲を抱いてるってことだろ。嬉しいよ。」
「うん。」
二人は見つめ合い深く唇を合わせた。
「・・・・っ・・かと・・・」
角度を変えるため唇が離れた刹那、岩城が呼びかける。
「ん?」
それでも香藤はキスを止めずに岩城の舌を絡め取る。
「・・・・・ツリー・・・ッン・・・・飾る・・・」
「うん、後でね。」
香藤は息の上がった岩城を抱き上げリビングのソファーへ運んだ。





二人がツリーの飾り付けを始めたのは夕方になってからだった。
「本当にデカイな。」
組み上がったツリーを見て岩城は驚いた。
それは当然でツリーは天井近くまでもあった。
「うん、ちゃんと高さ測って行ったからね。」
香藤は自分の買い物に至極満足そうだった。
飾りつけはまずライトを巻きつけることから始まった。
色合いやバランスを相談しながらオーナメントを付けていく。
ツリーが大きいだけあってオーナメントの数も多く、かなり時間が掛かったが二人は終始楽しんだ。
そして残すところは天辺の星とベルだけになった。
「随分大きなベルだな。」
セットで箱に入っていたオーナメントと違い、その大きなベルだけは別に売られていた物のようだった。
「小さい頃、ツリーの天辺の星をどっちがつけるかで洋子とケンカしたんだ。結局俺が譲ったんだけど。」
「小さい頃から優しかったんだな、お前。」
「ま『お兄ちゃんだから』ってのもあったけどね。」
褒められて香藤は照れ隠しに頬を掻いた。
「でね、ある年オヤジがここまでは大きくないけどベルを買ってきてくれて、それからは星を洋子、ベルを俺がつけることになったんだ。」
「そうか、お義父さん香藤の気持ちをちゃんと分かってくれてたんだな。」
「うん。」
「これ上の方につけるんだよな。さすがに背伸びしても無理だからちょっと抱き上げてくれるか?」
「うん。」
香藤はベルを手にした岩城の脚をしっかり抱え軽々と抱き上げる。
「よし、いいぞ。」
ベルをつけて下ろされた岩城は星を手にした。
「香藤、ほら。」
その星を差し出され香藤は反射的に受け取ってしまった。
「俺はお前みたいに余裕ないからな。パッと付けてくれよ。」
「え?」
そう言った時にはもう香藤の脚は岩城にしっかりと抱え込まれていた。
「いいいか?行くぞ。」
それに返事をする間もなく抱き上げられた香藤は素早く星を取り付ける。
「いいよ。」
香藤を下ろした岩城はどさりと床に寝転んだ。
「はぁ〜っ。いくら俺の方がちょっと軽いとは言えお前よくあんな余裕あるな。」
「そりゃ俺は鍛えてるもん。って岩城さん大丈夫?何でこんな無理したの?」
心配そうな香藤に岩城はなんとも言えない優しい笑顔を向けた。
「お前に星をつけさせてやりたかったんだ。俺の方が『お兄ちゃん』だからな。」
「岩城さん・・・・・ありがと。」
「それに・・・」
「それに?」
「お前、洋介くんにやきもちやいてこのツリーを買ってきただろ。だから洋介くんと同じように抱き上げてやりたかったんだ。」
図星を突かれて香藤の顔が赤く染まった。
香藤は岩城に抱き上げられる洋介を羨ましく思っていたのだった。
でもそれは無理なことと諦めていたのに岩城は気づいてほんの数秒でも叶えてくれた。
香藤の胸に愛しさがこみ上げてくる。
「岩城さん、ありがとう。」
岩城を抱き起こしてしっかり胸に抱きしめる。
二人は見詰め合って、唇を重ねる。
さらに深いキスをしようとした香藤の唇を岩城が手で塞いだ。
「岩城さん?」
「香藤、折角飾り付けたんだからツリーを見よう。ライトのスイッチ入れてくれ。」
「そだね。」
香藤はライトのスイッチを入れると照明を落とした。
いつものように香藤が岩城を後ろから抱きしめツリーを見上げる。
瞬くツリーの光に心が洗われるような気がした・・・・・・
が、香藤のお腹が盛大に鳴った。
それを聞いて岩城が大きく噴出す。
「プッ、お前ムードぶち壊しだ。アハハハハハ。」
しかし香藤はそれどころではなかった。
「えっ、もうこんな時間。どうしよう、ディナー作ろうと思って準備してたのに。」
「ツリー飾る前に予定外の時間があったからな。」
「・・・・・ゴメン。」
「別に謝ることじゃないだろ。」
項垂れた香藤の髪を岩城がクシャリと混ぜる。
「その材料使うの明日じゃダメなのか?」
「大丈夫だけど。」
「ならディナーは明日にしよう。クリスマスは明日が本番だしな。今夜は何か取ろう。」
「ホントにゴメンネ。」
「いいさ。二人で食べるなら何でもご馳走だろ。」
「うん。」



出前のピザと香藤が作ったサラダでディナーが始まる。
ソファーにピッタリと寄り添って座りお互いに食べさせあう。
香藤がピザの最後の一切れを食べ、それを運んだ岩城の指についたソースを舐めた。
「ご馳走様。岩城さんの言うとおり凄く美味しかったよ。」
「俺もだ。」
「でも最後に岩城さんを食べさせてね。」
「デザートが必要か?」
「まさか、岩城さんがデザートのわけないじゃん。最高のメインディッシュだよ。」
香藤はワインを口に含むと岩城に口移しで飲ませる。
クリスマスツリーの光の中、二人は再びソファーに身体を沈めていった。






'07.12.19  グレペン





香藤くん・・・・たくさん運動したんだね(にっこり)
艶のある場面とお腹が鳴ってしまう場面・・・
その対比がなんかとっても幸せで嬉しくなってしまいましたv
そしてまた運動をする気満々な香藤くんに乾杯です!

グレペンさん、素敵なお話ありがとうございます