「タマネギみたいな・・・」


“岩城さんのカレーが食べたい!!”

今年の香藤の誕生日は休みが取れたので、
「どこか出掛けるか?何か欲しい物はないか?食べたいものは?」
と聞いてみた。
香藤のように内緒でサプライズできるほど器用ではないし、店もさほど知らない。
お祝いは花くらいしか思い付かない俺だから聞いてみたのに、返ってきた答えはコレ。
「俺が落ち込んでた時に作ってくれたカレー。あれが食べたい!」
「あのシャバシャバのか」
「んん?ああ。また煮込み待ちしてもいいけど…」
フフンと笑った香藤を見るのが恥ずかしくなって「わかった」と短く答えてリビングを出る。
「あっ岩城さん。ちょっと。待ってよ」


そして当日。
手伝うと言ってキッチンへやってきた香藤に包みを渡す。
俺なりのサプライズだ。
「ほらっプレゼントだ。開けてみろ」
「えっ何?うそ。プレゼント??」
包みから出てきたのは2枚の色違いのエプロン。
腰からのものでシンプルなデニム生地。
色は赤みがかった茶色と緑がかった青いもの。
「最近は男の料理が流行ってるせいかそんな売り場があってな」
清水さんが教えてくれた店で選んだのだが、かなり時間がかかってしまった。
「どっちか好きな方を選べ」
「ありがとう!岩城さん。でもどんな顔して買ったの?これ。2枚買うのテレたんじゃない?」
「いや。まぁそんなもんしか思い浮かばなくてな。許してくれ」
「えっすごくうれしいよ。本当だよ。でもどっちにしよっかな?悩むな〜」
「まぁ2人のって事でいつでも好きな方を使えばいいんじゃないのか?」
「2人の・・・」(しばし感動中)
「それでどっちにするんだ」
「あっごめん。そうだね。ありがと。岩城さん。じゃあ、とりあえずこっちの青の方を」

そんな調子でカレーの下準備が始まった。。
やはりタマネギが目にしみて涙目の俺を見て香藤が手を出してきた。
「そんな岩城さんもカワイイんだけど…夜まで我慢できなくなっちゃうから。ほら。かわって」
「すまん。頼む」
「泣かせるのは俺の役目だからね。夜はヒラヒラエプロンの岩城さんだったりして」
「バカッ」
ガツンッとやられて俺より涙目の香藤。
今日はやらないつもりだったのに…ついつい出てしまった。

「俺さ。タマネギみたな役者になりたいんだよね」
「タマネギみたいな役者?」

うん。どんなものにも合う。辛かったり甘かったり。
だけど、それでいてちゃんと主張するじゃない。存在をさ。
これがないと困るみたいなね。
そんな役者ってどうかなって思って。
「中身がないって言われないように頑張るんだな」
「もちろん!そのつもりだよ」
俺がそんなこと言わなくたってこいつは間違いなく光輝く。
すべてを食い尽くす程に。俺も負けられないな。

こんな会話ができた事をうれしく思いながら、おいしいカレーが出来上がる。
お気に召したらしいエプロンをそのままに食卓につく。
「これは取ったほうがいいんじゃないのか?」
「せっかくの贈り物だから。今日だけね」
「なんか変な感じだが…お誕生日おめでとう。香藤」
「ありがとう。岩城さん」
「でも・・・」
「でもってなんだ?」
「シャバシャバじゃなかったのがちょっと残念」
「バカッ」

今日はじっくりベットで煮込み待ち?


H19.6.8(本当にすみません)
千尋



※岩城さんのエプロン姿〜!!!と悶えてしまいます(笑)
格好いいでしょうねえv
大好きな人が作ってくれるだけで、最高の味付けですよね!
良かったね、香藤くんv
千尋さん、素敵な作品ありがとうございます