ふっと小さな音に目を覚ました。
まだ窓の外は暗い。
ぼんやりとした頭で音の正体を見極めようと耳を澄ました。
ぽっ・・・ぽっ・・・ぽっ・・・
規則的に聞こえるそれが雨どいから落ちる雨のしずくの音だと気づくのに大した時間はかからなかった。
・・・・そういえばかすかにざーっと雨音も聞こえている。
――今日の雨は少し寂しく聞こえる。まるで心の中にまで降っているようで・・・

ドライに設定されたエアコンのおかげで室内に不快な湿気はなく快適と言ってもいいほどなのに―――
決して雨が嫌いな訳ではない。
原因は分かっている。
隣に眠る愛しい人の気配がないせい。
ロケに行き帰りは明日の予定。
いい年をして一人の家が寂しいという訳でもあるまいに・・・自嘲気味にふっと笑いがもれた。

6月生まれなのにお前には雨が似合わない。
梅雨の晴れ間の太陽のようだ。
そう感じて不思議と気持ちが晴れた。
俺の心にも晴れ間を覗かしてくれ・・・香藤・・・

太陽のような香藤の顔を思い浮かべ、再び安らかな眠りの淵に落ちていった。



「はい、岩城さん。プレゼント」
ロケから3日ぶりに帰宅した香藤は帰るなり岩城に鉢植えを差し出した。
「プレゼントってどうしたんだコレ?紫陽花か?」
「そう!ロケで紫陽花で有名なお寺に行ったんだよ。これ、白いままで色が変わらないんだって。まだちょっと早いけどね、可愛いでしょ?」
鉢植えの紫陽花は真っ白な可憐な花をつけている。いつも見かける紫陽花とは違う八重咲きの花は確かに可愛らしい。
「本当だな。こういう紫陽花も趣きがあっていいな。」
にっこりと微笑む岩城に、香藤の顔にも笑顔が広がる。
「へへ、気に入ってもらえて良かった。撮影のために人工的に雨を降らせたんだけどさ、その雨に濡れてる姿がなんとなく岩城さんと重なっちゃってさ。我慢できずに買ってきちゃったんだ♪」
「俺?」
「うん!雨に濡れて佇んでる姿がね。岩城さんにはバラも似合うけど、こういう清楚な花が似合うからさvv」
意味ありげにウインクする香藤が言わんとしているのが、結婚記念日の時の事と分かり岩城の頬が一気に染まった。
「・・っ、いちいち思い出さなくていい!早く着替えて来いっ」
「は〜〜〜い♪」
恥ずかしさからぶっきらぼうに言い放つ岩城に、クスクスと笑いながらも香藤は素直に従い荷物を片付け始めた。


久しぶりに二人で食卓を囲み、食後のまったりとした時間を香藤は岩城の膝枕で過ごしていた。
髪を撫でる繊細な指先は時折その髪の毛を指に巻きつけ弄っている。
「ん〜やっぱ最高・・・幸せ感じる〜vvv」
「ふっ、お前の幸せは安上がりだな。」
「あっ今、なんかまた鼻で笑ったでしょ?!あの岩城京介に膝枕してもらえるなんて俺だけの特権なんだよっ。岩城さんの膝枕独占なんてこれほどの贅沢他にないじゃん!」
「そうか?もうすでにお前だけのものだろう?お前が望めばいくらだってしてやるんだからこれほどお手軽な幸せはないぞ。」
ぷっとふくれた香藤の頬を面白そうに突付き岩城は平然と言い放った。
「!――んもうっ最近、岩城さん俺を言葉責めして楽しんでるでしょ?」
「照れるお前は可愛いからな。さっきのお返しだ。」
「ちぇえ〜」
拗ねたようにそう言いながらも香藤の頬は嬉しさで緩みっぱなしだ。
「ね、そういえば紫陽花どうしたの?」
先ほどの紫陽花が室内に見当たらない事にようやく香藤は気が付いた。
「ああ、紫陽花は乾燥に弱いから庭に出したんだ。明日にでも日陰に植え替えてやるよ。」
「そうだね、明日は久しぶりに揃ってオフだもんね。」

そう、明日は6月9日。
明日の香藤の誕生日に二人の事務所が揃ってスケジュールを空けてくれたのだ。
ゆっくり英気を養えと・・・
香藤にとって最高の誕生プレゼントが何か充分に分かっているようだ。

「ああ、みんなの計らいでな。しかしお前の誕生日に俺がプレゼントを貰うっていうのも変な話だな。」
「いいじゃん。岩城さんが喜んでくれると俺も嬉しいからさ。俺へのプレゼントは岩城さんだからねv でも天候が不安定だけど明日植え替えできるかな。」
先ほどからまた降り出した雨が窓を叩いている。

「・・・俺さ」
「ん?」
窓の外を見ていた香藤がぽつりと口を開いた。
「前は雨って嫌いだったんだよね。もともとアウトドア派だから家にこもってるの性に合わないし、『なんで俺が梅雨生まれ?』て思ってたんだけどさ・・」
「ああ・・」
先を促すように髪を撫でる岩城の顔を膝枕の上から真っ直ぐに見上げた。
「今は結構好き・・・こうして岩城さんと過ごせるなら雨も全然悪くないよね。それにこの時期に雨が降るから作物も育つんだし、そう思ったらすごく必要な時に俺って生まれたんだなぁって。」
「――そうだな。確かにお前は太陽のイメージだが、この時期にふさわしいのかもな。梅雨が必要な雨をもたらすように俺にもたくさんの潤いを与えてくれる。お前が雨を降らせてくれなかったら俺は干からびていたかも知れないな。お前が居てくれるから俺は花を咲かせる事が出来る・・・」
「っ!・・また・・・ホントに最近、言葉責めブームでしょ――今日はゆっくり寝ようなんて思わないでよ!」
真っ赤になってガバッと起き上がると香藤は岩城をソファに岩城を押し倒した。
岩城の頬にも朱が上る。
「・・ああ、たっぷり潤いを与えてくれ・・・でも」
身体がふわりと浮いたかと思うと岩城の後ろに天井が見えた。
「え??」
気が付いた時にはあっという間に体を入れ替えられていた。
昔取った杵柄―――
「え?え?あ、あの岩城さん・・?」
「俺もお前に潤いを与えたい・・・プレゼントは俺でいいんだろ?色んな俺をたっぷりとお前にやるよ・・・」
ほんのりと頬を染めながらも艶然と微笑む岩城に香藤は心の中で白旗を振った。

――― 完敗・・・岩城さんには全く敵わないね ―――

嬉しい敗北に香藤もにっこりと微笑んだ。
「・・・うん、最高のプレゼントだね。たっぷり味あわせていただきます!」


雨の日のお楽しみはいろいろ―――
香藤が最高の誕生日を迎えることが出来たのは間違いない。

HAPPY BIRSTDAY 香藤


おわり


2007・6 ちょびち




※きゃああ、”俺をたっぷりおまえにやるよ”・・・・なんて男前な発言!
格好いい〜ぃ岩城さん!(ハアハア)←落ち着こうね;;
全くもって嬉しい敗北ですね!GJ!(笑)
岩城さんの膝枕&岩城さんに・・・なんて香藤くんなんて嬉しいプレゼントでしょうか
ちょびちさん、素敵な作品ありがとうございます