「抗(あらがい)」
この小さな部屋に閉じ込められてもう幾日…いや、幾月経ったのだろう。 瞳にするものになんの変化もないこの小部屋。 草加の屋敷の離れだなのとここに来た日に告げられた。 今朝はイトというご婦人が朝食を運んできてくれた。 ……草加に抱かれた翌朝にはその負担からか、草加が出掛ける前の時間に起きられない俺のためにこの女性が現れるのが決まりのようになっていた。 それは草加以外の他人(この女性)に「その事実」が解られているようで居たたまれなくなる。 弱っている躰は勿論のこと、目覚めることが出来ないほどの快楽に蝕まれていたということを知られているのだという事実に。 初めて草加をこの身に受け容れた時には、痛みと苦痛しか無かった。 川辺での、もしかしたら最後かも知れないと思ったあの逢瀬。 それまで衆道というものを聞いたことはあったが、まさか自分がと思っていた。 ただ…倫敦に旅立つという草加の言葉を聞いたときに、もう自分が抑えられなくなっていたのだ。 草加の告白を聞いた為でもあった。 それまでは俺だけが草加を恋情で求めているのだと思っていたから。 草加も俺を求めてくれているのだと思ったとき、もうなにもかもが俺を留めなくなっていた。 そのまま誰が来るとも知れないところで抱かれることに一瞬の躊躇はあったが、すぐにそれは消え去った。 草加を…草加の熱をこの身に残して欲しいと願ったから。 痛み。 苦しみ。 圧倒的な苦痛に見舞われたが、それが望ましかった。 忘れられないほどの苦痛が欲しかった。 草加と離れて過ごす間、躰の火照りが冷めないほどの。 離れている間、忘れられないほどの苦痛を。草加の熱を。 それを俺の躰に、この身に刻みつけて欲しかったから。 「ん…ぅ…。やめろ…くさ…か…。」 この離れに囲われてから幾度となく草加に抱かれてきた。 初めは苦痛しかなかったその行為に快楽を感じ始めたとき、俺はこれまで以上の羞恥と絶望を感じざるを得なかった。 こんな…仲間のことを考えると許されない俺の境遇。 守られて、愛される。 それを拒否することで、幾許かの心の均衡を保っていようとしたのに。 「あ…。…な…に?」 初めて苦痛以外の感覚を覚え、当惑を示した俺に草加はあの眩しい笑顔を向け 「秋月さん、やっと感じてくれるようになったんだね。」 と嬉しそうに言った。 そのまま自分のモノを扱かれて、我を忘れて草加に縋り付いてしまった。 『感じる』? そんなことがあってはならない。 俺はこの境遇を。 恵まれすぎた境遇を拒否しなければ。 草加の想いを拒まなければ。 生きることを…拒まなければ… いけない…はず…なのに。 「あっ…ぁ…はぁ…っ!ぁあ…っ!」 苦痛だけでよかったのだ。 苦痛だけでなければならなかったのだ。 草加に抱かれて悦ぶ躰など、あってはならないのだ。 草加に愛されて…悦ぶ自分など…。 「あ…くさ……もっ…」 恥知らずな躰が草加の侵蝕を更に受け容れようと拓かれ、口が許されない言葉を零しそうになる。 慌てて自分の口を塞ぐ手を優しい仕種で離された。 草加。 その微笑みが俺を苦しめているのだと、お前は知っているのか? 俺はその微笑みでいつもこの身が殺されそうな心持ちになっているのだ。 いや…それを…お前に殺されることを…望んでいるんだぞ? 知っているか? ああ…。 もうどうしようもない。 もっと…もっと躰の奥にお前が欲しいんだ。 もっと強く、もっと激しく。 ああ…。 もうどうしようもなく、俺の躰はお前を求めている。 これは… この… どうしようもない 抗いと… お前を求める心と躰。 本当に 俺は壊れてしまいそうだ。 たまごっつ |
どんなに抵抗しても、求める心と身体・・・
本当にこの頃の秋月さんはどんなにか辛かったことでしょう
そしてそれを見つめていた草加さんも・・・壮絶な思いが伝わってきます・・・
たまごっつさん、素敵な作品ありがとうございます