写真





椅子に凭れながら、ぼんやりと庭に咲いた桔梗の花を眺めていた。

「やっぱりここにいたのね、千鶴」

「お母さん」

「そろそろお寺へ行く時間だから、用意をしておいてちょうだい」

「あ・・・もうそんな時間?」

一体どのくらいこうしていたんだろう。

困った子ねえと呆れながら、母が客間の方へ戻っていった。

今日は亡くなった祖母の法要が営まれる。




立ち上がり、客間へ向かおうと廊下へ出た私は

ふと後ろを振り返った。

部屋の真ん中に置かれた祖母のお気に入りだった椅子。

私は、祖母が話してくれる昔話が大好きで

いつもこの椅子の横に座って祖母の話を聞いていた。

「そういえば・・・」

ふとあることを思い出して、部屋の奥の棚に置かれたアルバムを手に取り

最後のページに貼られたひときわ古い写真を見た。

色褪せて少しぼんやりとしているけれど

写真の中の彼はとても生き生きとしているような気がする。

「久し振り・・・ですね、草加さん」




「伊坂先生!」

私の名前を呼んで彼が振り返りました。

ロケ場所の洋館の一室に佇む香藤さん。

初めて彼のスーツ姿を見た私は、しばらく声を出すことができませんでした。

あの写真の中の草加さんそっくりだったんですから。

「先生?どうかなさったんですか」

黙り込んだ私の顔を、香藤さんが心配そうに覗き込んでいました。

「・・・いいえ、何でもありません。

それより香藤さん、スーツがよくお似合いですね」

「あ・・・そうですか?ありがとうございます。

普段スーツって着ないんで、どうも落ち着かなくて」

彼の言葉に、まわりにいたスタッフの方達がどっと笑い出しました。

「香藤さん、さっきからずっとこんなこと言ってるんですよ」

「そして二言目には『スーツが似合うのは岩城さんだよっ!』って」

「まあ・・・それはご馳走様でした」

もう一度大きな笑い声が辺りに広がりました。





先程までの和やかな雰囲気はすっかり消え

現場には張り詰めた空気が流れています。

あの日、祖母の話を思い出しながら草加さんの写真を見ていた私は

それまで「物語の中の人」だった彼の心を知りたいと思うようになりました。

その思いはやがて小説という形になり、映画化されることに・・・。

香藤さんが演じる草加さんは私のイメージ通り、いえそれ以上のようです。

もしかしたら、草加さんは私の「初恋の人」・・・なのかもしれません。

恋した時からもう失恋していますけれど。

私は胸元に忍ばせてきたあの写真を出して、写真の中の草加さんに語りかけました。

あなたが望んだ自由な時代を生きる人々は

あなた達の生き様をどう感じるのでしょうか。

映画が公開される日が楽しみですね。







らむママ




伊坂先生の想いが心にじ〜んと来ますv
快活な香藤くんの撮影様子が伝わってきてそちらには微笑ましくなりました
先生・・・良い映画が出来ましたねv

らむママさん、素敵な作品ありがとうございます