室内に漂う香りに誘われて岩城の睫が震えた なんだろう・・・甘く穏やかな香りがする 「香藤・・・?」 − 夜来香 − 「ん?気がついた、岩城さん」 「・・・あぁ」 「ごめんね、ちょっとトバシ過ぎちゃった。だいじょぶ?」 「ああ、大丈夫だ。それより・・・」 目を閉じたままの岩城がわずかに顎をあげて 香りを嗅ぐような仕草をする 「いい香りでしょ」 「そうだな、なんとも気持ちが落ち着く香りだな・・・花か?」 「うん、夜来香だよ」 「どうしたんだ?入ってきたときには持って無かっただろ」 「グラビアに使ったのをもらってきたんだけど、帰って来たときには岩城さん眠ってたし。 だからね、バスルームに置いてたんだよね。朝、起きたら見せようと思って」 「朝、起きたら・・・か?」 腕の中でくすくすと笑う岩城に香藤が眉をしかめる 「だって岩城さんってば、おかえりとか言いながらそのまま抱きついてくるんだもん。 我慢できるわけないじゃん」 「・・・自慢するな」 「ええ〜俺の愛はね何よりも深いんだよ、だからどんな時でも応えなくちゃって、わかってる?」 「・・・わかった。それにしても本当にいい香りだな」 「そうだね、確かにいい香りだね。 でも・・・俺には岩城さんのほうがいい匂いがすると思うよ」 「・・・おまえまた、恥ずかしげもなく・・・ 俺は普通の男だぞ。いい匂いなんてするわけないだろう」 「だって・・・俺にはね、岩城さんの匂いが天国の香りなんだよ。 だから他の何処へも行けない・・・行かないんだ。 岩城さんだけなんだよ、俺を助けてくれるのは」 「俺がいつおまえを助けたんだ。何もした覚えはないぞ?」 「いいんだよ、岩城さんは知らなくても。俺がわかってればいいの」 「なんだ?・・・へんな奴だな」 「そういえばさ、この花の香りにまつわる伝説を教えてもらったんだよね」 先を促すように岩城が香藤の胸に寄り添った 遥か昔、中国で戦乱があった時のこと ある軍隊が城を占拠した しかし兵士たちは、馥郁たる夜来香の花の香りに包まれているうちに 戦意を失い、翌日の戦いでは城を追われることになってしまった 「そうか・・・確かに刺激的な香りじゃないな。 むしろ、心が静まる気がする。癒される気がするな」 「しかもこの花は夜に強く香るんだよね。 たとえ殺伐とした場所でもさ、こんなふうに香る花に囲まれてたら 戦って血を流すことが愚かなことに思えてきちゃったんだろうね」 「そうだな・・・でも俺も・・・お前ほどに・・・」 香藤の暖かな鼓動に包まれて、岩城は穏やかな眠りの淵に沈んでゆく。 やがて室内に響くのはふたりの寝息だけとなり やわらかな夜の闇のなかで、花はいっそう深く香りはじめた。 2007・11 ようこ |
静かな、でもどこか艶めいた夜の語らいですねv
香藤くんの胸の中で眠りにつく岩城さんがとても素敵です
そしてそんな宝石を抱いた香藤くん・・・・
おふたりをやわらかな香りが包んでいるのでしょうv
ようこさん、素敵なお話ありがとうございます