変化





「香藤さんってー受けなんですかあ?」


「えっ、え〜〜っ!?」
全く躊躇うことなく向けられた突飛な質問に香藤は渡されたばかりのコーヒーを取り落としそうになった。
質問の主は共演者で人気上昇中の16歳のアイドル女優だった。
「私の友達が香藤さんと岩城さんの同人誌作りたいって言っててー。共演するよって言ったら色々訊いてきてって言われちゃってー。私もBL好きだから興味あったんですよー。男の人も胸って感じるんですかあ?」
遠慮も羞恥も欠片も感じられない口調に香藤が呆気にとられていると彼女のマネージャーが飛んできた。
「こっ、こらっ!何失礼なこと訊いてるんだ。こっちに来なさい。香藤さん、すみません。二度とこんな失礼のないようよく言って聞かせますから。」
マネージャーはペコペコと何度も頭を下げると不満げな少女を引っ張って行った。



「はぁ〜っ、なんか凄いですね。ビックリするよりも唖然としちゃいましたよ。今時の女子高生って皆あんな感じなんでしょうか?」
「まさか、それはないんじゃない。まあ、あの子だけが特別とも思わないけどさ。」
「あのマネージャーさん、大変だろうな。言って聞かせるって言ってましたけど、素直に聞くと思えませんしね。」
「・・・・・・・」
金子が反応のない香藤を見るとなにやら考えているようだった。
「香藤さん、どうかされましたか?」
「え?あ、いや何でもないよ。」
そう答えた香藤だったが心の中ではあることが引っかかっていた。



数日後、香藤は朝からCMの撮影の仕事だった。
シリーズ物のCMの5本目ということで出演者もスタッフも気心が知れている。
その油断もあってか香藤は大きなあくびをした。
「どうしたの香藤くん、寝不足?もしかして岩城くんが寝かせてくれなかったとか。」
それを見咎めたディレクターの高橋がからかうように声をかけてくる。
「違いますよ。」
「じゃ、よっぽど激しかったのかな?」
「違いますって。明け方までドラマの撮影があって寝不足なんです。」
なおもからかってくる高橋に香藤は少し憤慨してみせる。
「分かってるよ、冗談じゃないか。そんなに怒らなくてもいいだろ。」
高橋も香藤が本気で怒っていないと分かっていながら軽く肩を竦めた。
「・・・・・・でも、何で俺の方が抱かれること前提なんです?俺たちってそんなふうに見えますか?」
香藤は先日も自分の方が抱かれる側と思われているらしいことに少し引っかかりを感じていたのだった。
岩城に抱かれることはイヤなはずはないし、世間がどっちだと思おうと、どうでもいいことだが続けてそう言われると訊いてみたくはなる。
「ん?イヤ、前は逆だと思ってたんだよ。岩城くん、色気あるからね。でもこないだロストハート見たらイメージ変わっちゃってさ。」
高橋は映画を思い浮かべたのか軽く身震いした。
「あの周防の視線、凄いよね。獲物を射竦める黒豹みたいでゾクゾクしたよ。もうされるがままになってもいいって感じ。だから香藤くんもそうなのかなって。」
「確かにあの周防の眼はハンターの眼ですよね。でも、あれはあくまでも芝居ですから。プライベートの岩城さんはあんな眼はしませんよ。」
「ふ〜ん。じゃ、やっぱり岩城くんが抱かれる方なんだ。冬の蝉の時も芝居とは言え色っぽかったよねえ。」
「ッ、プライベートの、特にそういう事に関してはいくら高橋さんでもノーコメントです。」
「ワハハハハ、可愛いね香藤くん。そんな事分かってるよ。」
高橋は豪快に笑って立ち上がるとパンパンと手を打ち鳴らした。
「さて、準備もできたようだしそろそろ始めよう。」
その一言でスタジオの空気が一気に引き締まる。
香藤も完全に仕事モードになり、カメラの前に向かった。




その日、香藤が帰宅したのは日付が変わってからだった。
寝室に入ると岩城はもう寝ていた。
「そっか、岩城さん明日早いんだっけ。」
岩城に触れたい衝動を抑え自分のベッドに入ろうととした香藤は突然腕を引かれた。
あっと思う間もなく岩城に組み敷かれる。
「お帰り、香藤。」
「・・・ただいま。」
蕩けるような甘い笑顔を向けられ香藤は思わず見惚れる。
岩城は香藤の額、瞼、頬にキスを落としていき、最後に唇にキスをして囁いた。
「香藤、愛してる。」
「俺も」と返そうとした香藤の唇は深い口付けで塞がれた。
貪るような口付けから開放され香藤は荒い息をつく。
「岩城さん・・・・明日・・・早いんじゃ・・なかった?」
「ああ、でも睡眠よりお前が欲しい。」
岩城のオスの光を宿した目に捕らえられ香藤は与えられる快感に溺れていった。







「岩城さん、今夜は何で?」
香藤は岩城の腕に抱かれ、快感の余韻に浸っていた。
「ん?ああ・・・・・」
「何かあったの?」
言い淀む岩城に香藤は少し心配気な顔を向けた。
「別に何かあったって訳じゃない。ただ・・・最近前とは違った視線を感じるようになって。」
「どんな?」
「・・・・・俺に抱かれたい・・・みたいな。」
「誰、そいつ?!」
香藤はガバッと身体を起こし岩城を見下ろした。
「まあ、あちこちの現場でな。」
「ええ〜〜っ!岩城さん気をつけてよ。」
「そんなに心配しなくても俺をヤろうって訳じゃないから大丈夫だよ。」
岩城は苦笑するが香藤はブンブンと首を振る。
「襲い受けに走るやつがいるかもしんないじゃん。ダメだよ、油断しちゃ。」
真剣な目で訴える香藤の頬に岩城はそっと手を伸ばした。
「万が一、強引にそういう風に持っていかれても俺はお前以外にはその気にならないから。だから今夜だって・・・」
「え?」
「確かに彼らの視線は俺の中のオスの部分を刺激したけど、それはイコール香藤を抱きたいと言う欲求なんだ。」
「・・・岩城さん。」
岩城は顔を赤らめる香藤を引き寄せ身体を入れ替える。


二人はもう一度快楽の海に溺れていった。






'07.11.17 グレペン





素直に鼻血が出そうなんですが!?(笑)
香藤くん可愛い!そして岩城さんがすごく格好いいです!
雄のフェロモンを感じますわ〜vvv(ドキドキ)
確かに世間的には上記のように思われているかも知れませんよねv

グレペンさん、素敵なお話をありがとうございます


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