「その腕の中のぬくもり」


冬の冷たくて研ぎ澄まされたような空気が好きだと思う。
東京の冬は新潟の厳しさを思えばそうたいしたことはない。
冬に生まれたせいか、それとも生まれ育った土地柄のせいか俺は寒さに強いと最近そう思う
ようになった。
そう思わせたのは夏にはちょっと早い6月生まれのあいつ。
「今日はなんて言ってくるんだろう。香藤は」
予定表がわりのカレンダーを見ながら岩城は少し微笑んだ。

カチャッ
寝室のドアが開いてこっそり香藤が入ってきた。
「おかえり。香藤。お疲れ様」
「あれ?岩城さん。まだ起きてたんだ?」
うれしそうな香藤の声。
「ああ。さっき上がってきたところだからな」
「そっか。ただいま。岩城さん」
そう言って自分のベットへ近づいた香藤だったが・・・
「冷たっ!岩城さ〜ん。俺のベット冷たいよ。そっち行ってもいい?」
そう言ったが早いか返事を聞くまでもなく、もう半分くらい潜りこんでくる。
本当は俺よりも体温が高い香藤。
ふわっとあいつのにおいにつつまれると、どこからともなく力が抜けていく。
明日の予定でどちらかが早かったり、帰りが遅くてもう俺が寝てしまっている時には
香藤は無理に俺のベットに入ってこない。
確信犯だなっとは思うけれど自分が待っていないのかと言われると…そういうわけではない。
ただ自分から香藤のベットへはなかなか行けないのだけれど。
「今日は寒いね。やっぱりそっちに行っちゃおっかな」
「岩城さん。まだ起きてる?そっち行っていい?」
「足、冷たくなってない?岩城さん。ほらっ。俺、あったかいでしょ」
そして黙って香藤がモゾモゾと入ってくる時は何か嫌な事があった時だ。
身を丸めてくっついてくる仕草でなんとなくわかってしまう。
何も言わないなら、聞かないけれど、そんな時は俺がその心ごと抱きしめてやれたらと思う。


まさか大人になって誰かに抱かれて眠る日が来るとは思わなかった。
たぶん昔の俺ならプライドが邪魔して絶対こんな事はしなかっただろう。
男なのだからと頑なな心が拒否していたはずだ。
でもあいつが教えてくれたから。
俺達はどんな時も対等なのだと。そうありたいと。あいつが望んでくれたから。
だから香藤に抱かれて眠る夜は優しい。
つんと頬をなでる朝の冷たい空気から守るように香藤が抱き寄せてくれる。
冬の朝の小さな幸せ。


そして一番幸せな冬の朝は・・・

「岩城さん。おはよ。お誕生日おめでと!」

本当はとてもうれしいけど少しだけ気恥ずかしくて俺はこう答える。
「それは昨日も聞いたぞ」
「もう。昨日のは誕生日になった最初のおめでとうで、今のは朝一番のおめでとうだよ」
「クスクス。わかった。香藤。ありがとう」
「それじゃ朝のエッチもしとく?」
「バカッ」
その腕の中のぬくもりが奇跡のような時を俺にあたえてくれる。
だから冬が好きになったのかもしれないと俺は最近そう思う。


H18.1.16
千尋

きゃあ〜こんな冬の朝・・・迎えたいです!(^o^)
甘い〜ほんわか〜いいですv
ぜひそのまま朝の運動へと突入してくださいませ(笑)
千尋さん、素敵なお話ありがとうございますv