*** Melt me with your heart ***



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・もぅ、・・・・降参?」


体の下の岩城さんの呼吸は、途切れ途切れ。
ピロケースを抱え込むようにして、しゃくりあげている。
それでも、乱れて苦しそうなその息の中に、満足気な甘さを感じる俺って、オメデタイ?
自惚れ、かなぁ・・・?


「・・・も・・・、ヤ・・・?」


まだ俺を受け入れたまま、の愛しい人。
岩城さんの体から離れたくない俺は、岩城さんの細腰を両手で掴んだまま、その背中にキスを繰り返す。

チュ・・・。


「・・・俺のこと、も、欲しく・・・ない?」
「・・・・・・・・っ」


汗ばんだ肌の艶めくその肩を、荒い呼吸が上下させてて、その汗の粒さえなんだか妙に色っぽくて。
・・・困ったもんだよ・・・ 岩城さんて。


「・・・・・・岩城さん?」
「・・・・・・・・ぅ・・・」


俺・・・時々、ホントに不思議な気分・・・。
だって、だって、さ・・・?

出会いはロマンチックには程遠くて。
第一印象も最悪。
その次だって、なんだよ、こいつ、で・・・。
それからチラチラ視界をかすめ、こんないい加減な奴に負けたくないって、しっかり吠えてた筈なのに。
巡り訪れた奇妙な会合じゃ・・・、うっかりヤられて、俺の負け。
気になって、気になって、気になって・・・、俺、おかしい。
岩城さんのことばっか、考えてるって、気付いた時には追っかけてた。
邪険にされつつ、近付いて、知れば知る程、もう夢中だったよね・・・?


岩城さん、岩城さん、岩城さん・・・。


ねえ、信じられる?
運命だよね、因縁なのかな?
今、俺が岩城さんに感じてるこの気持ち、出会いからあんまりかけ離れ過ぎてて、怖いくらいなんだよ?
俺もそりゃあ、くそ生意気なガキだっただろうけど、・・・トゲトゲだったもん
ね、あの頃。

カチンコチンの氷みたいにおカタくて、ツーンキーンのフリージングハート。

・・・くす。


「・・・・・なんか・・・限界ないみたいなんだけど・・・?俺の?」


振り向いて貰えるまでは、そりゃあキツくて、へこむ日もあったけど、今はその日々が嘘みたいに、岩城さんの愛情、俺に向かって、めいっぱい。
解けた氷は、そりゃもお、甘いのなんの。
コンデンスミルクたっぷり垂らし捲ったみたいに、甘やかされ捲って、やりたい放題。
俺ヤバイ?って気になる時も実はあるんだ。
だって、俺も自分がこんなにしつこくて、しつこくて、一途だなんて、知らなかったもん。


「・・・・・・ぁ・・・・・・・」


岩城さんの体、飽きないの・・・。
岩城さんへの気持ち、冷めないの・・・。
俺の目に映る岩城さん、全然ちっとも色褪せないの・・・、それって、凄くない?

もう何年も一緒にいるのに。
もうどれだけ抱いたかなんて数え切れないのに。
俺の中で、岩城さんの魅力はどんなに数を重ねても、増すばかりで一向に衰えることがないのは、どうしてなのかな・・・?

チュ・・・。


「・・・・っ。・・・この・・・〜〜〜が・・っ!」


ピロケースから、思い切り悔しそうな顔を上げ、肩越しに顔だけ振り返る岩城さん。
いつかの宣言通りの嬉し泣きも、散々にさせた俺は、その潤み切って、うるうるの目元にすかさずキスを落とす。
目尻を舐めると、また更に泣きそうなのに、

・・・抜いてあげない。


「・・・・こうして抱いていられるのが、嬉しぃ・・・。岩城さんが生まれてきて、生きててくれてること、それって、俺の方がよっぽどおめでと・・・だよね?」


今日は1月27日、岩城さんの誕生日。


「・・・・おめでと・・・。岩城さん・・・」


俺達は、今、白銀の蔵王のロッジを占拠して、二人きり。
昼間は、今年の俺からプレゼントのスキーウェア一式に身を包んだカッコイイ岩城さん。
その華麗なストック捌きを眺めつつ、便乗で ボードを新調した俺もそれに張り合う。
雪遊びで思い切り、汗をかいた後、賑わうホテル群からずっと離れた場所にぽつんと建つロッジに入った。
その、喧騒から逃れるように孤立した古式ゆかしい山小屋は、裏にこっそり露天風呂付き、だったりはするんだけど、メインルームは暖炉とベッドと小さなテーブルしかなくて。
テーブルには、強めのウォッカと、ワイルドな俺の手料理。
今回俺のコンセプトは・・・北の狩人のシェルターに緊急避難の駆け落ちカップルv


『・・・お前が色々とやってくれたいってんなら、何もこんなとこまで来なくても、家でもいいんじゃないか?』


って、ちょっとしみったれた、色気のないコト言っちゃう可愛い岩城さん。
もちろん、それは自分の誕生日如きって、遠慮してるからなの、解るけど、演出ってのは大事じゃん?

雪国なんだよ?
凍りつくような雪原の、至上の恋人同士、なんだよ?
明日をも知れない二人なんだ。
追い詰められちゃった二人なんだってば!
・・・すんごい、ロマンチックじゃん・・・?


『・・・追い詰められた二人・・・って。俺達の場合、それ、結構シャレにならなくないか?』
『・・・あ・・・うぐ・・・ぐ;;』
『一歩間違えりゃ、そのまんま、だぞ?』
『い・・・、いーのいーのっ!障害がある恋のが燃えるじゃない!?人生、酔ったもん勝ち!アリだよ、アリ!』


俺は岩城さんと、色んな世界で、どこまでも一緒にいたい。
南国の海も、
西の砂漠も、
東の空も、
こんな冷たい色の・・・氷の大地でも。

そして、何度も何度でも、どんな世界ででも、もう一度恋にオチるんだ。

夫婦もいいけど・・・やっぱり・・・恋人でいようよ?ずっと・・・。

どんな世界でも、俺達は必ず、お互いを見つけ出す。
必ず、出会って、必ず、お互いを選ぶ。

ずっと一緒にいて、二人で築いてきたものがいっぱいあって。
岩城さんはそれをとても大切にしてくれる。
俺もそれはすごく嬉しいんだけど・・・。
積み上げたものは壊したくないだろうけど、例えば、つまんないことでケンカしたりして、壊れそうな時があっても、その時は また、そこで自分の気持ち、再確認出来るもんじゃない?

極限の状態の時こそ、自分自身に問い掛ける。
自分にとって絶対譲れないものって、何?

俺には、岩城さん。
岩城さんには、俺。

他の何もかも失くしても、最終的に必要なのはお互いだけ。
ラストチョイスは、俺達の、この揺るがないハートだけ・・・なんだって。

それが恋だよ・・・至上の・・・ね?って、やっぱり・・・知らなかった?

そう言った途端、


『ナニを大袈裟な・・・。・・・人を・・・・情緒に不感症みたいに・・・っ』


って、ムッとしつつも・・・背けた頬に朱みが差して・・・、やっぱりそれ、可愛かったから。


『・・・不感症?この体の、どこが?』


くすくす・・・。

・・・・ずっとベッドは軋み続けてる。


「・・・・・・・も・・・・、いい。・・・・降参・・・だっ。お前の勝ち、で、い・・・っ」
「・・・そんなつもりで言ってんじゃないのになァ・・・」


蔵王の雪は深い。
自然の驚異的な美しさの迫ってくるバックグラウンドは、雪の魔法みたいな、樹氷の群れ。
窓の外のアオエゾマツは、シベリアの風と対馬海流が最高のプロデュース。
怖いくらいキレイな・・・氷の彩色。

でも・・・、それすら凌いじゃう程、もっとキレイな腕の中の人・・・。
岩城さんに埋もれていたい・・・、このままずっと・・・。

好き・・・好き・・・好き・・・。

離れたくない・・・。

ずっと岩城さんとくっ付いていられたらいいのに・・・。

って、俺の誘いに、

『・・・俺が離れたいなんて思うわけないだろ・・・!?』

案の定、チョロイ岩城さんは、可愛く挑発に乗っちゃう。

『・・・じゃあ、どの位くっ付いていられるか、試そうか?』

って・・・。


「・・・抜・・・け、早く・・・!とにかく休ませ・・・」
「・・・・・これからだってのに・・・なァ・・・ちぇ」


仕方なく、俺は岩城さんの唇を塞いで、離れ難い下肢を岩城さんから引き擦り出す。


「・・・・・・んっ・・・ぁう」
「・・・あれ?どっちなの?欲しいの?いるの?いらないの?」
「・・・ぅ・・・るさ・・・っ、ぁ・・・」
「・・・我っ儘〜」


その吐息、残念そうに聞こえるよ?岩城さん?
そんな名残惜しそうな声出されたら、ギブアップの意味なくない?


「・・・可愛いんだから・・・」
「・・・バ・・・カ・・・香、藤・・・」


汗と、涙と、唾液と、それから・・・。

二人の欲望の発露で塗れた・・・テラテラの岩城さん・・・。


・・・・岩城さんが・・・樹氷みたい・・・。


心の中で思ったエッチな感想は、また殴られちゃうから、黙っていよ・・・・・・。






おわり

2006/01/18    にゃにゃ

うおおお、樹氷のような岩城さん・・・・萌えます!
そうですね、段々香藤君の熱に慣らされ溶かされ
そして柔らかな光になって・・・・素晴らしいですv
抱かれたままの岩城さん・・・ドキドキしますわ
にゃにゃさん、素敵なお話ありがとうございますv