『雪遊び』雪<雪

ねえ、岩城さん。今日はね、俺にとってすごく大切な日なんだよ・・・だって、大好きな岩城さんが生まれた日なんだから。今日って日がなかったら俺は岩城さんに会う事すらできなかったんだもん。考えたらすごい事だって思わない?・・・岩城さんに会ってなかったら――俺、今頃何してんだろうね?想像もつかないよ・・・ただ、きっと何してても、誰といても全然満たされてなかったと思うよ。・・・・・だから、今日は俺にとって感謝の日なんだ。岩城さんのお父さん、お母さん、お兄さんに「岩城さんを生んでくれてありがとう」「岩城さんを大事に育ててくれてありがとう」「岩城さんと出会わせてくれてありがとう」「岩城さんと俺の事を許してくれてありがとう」って・・・
そして、何より岩城さん・・・俺を好きになってくれてありがとう。俺と一緒にいてくれてありがとう。俺に誕生日を一緒に祝わせてくれてありがとう・・・愛してるよ。

一緒に迎えた何度目かの誕生日、香藤はそう言った。
香藤と共に過ごすようになり、誕生日の度に香藤は俺にたくさんのプレゼントくれた。それは物であったり、言葉であったり、ぬくもりであったり・・・・
そのどれもが香藤の愛情に溢れていて、それらは全て俺の大切な宝物になっている。
感謝しなければならないのは俺の方だ、香藤・・・・いつだってお前は俺を満たしてくれる。ただ、そばにいるだけで・・・・・


「おかえり!岩城さんv」
岩城が仕事を終え帰宅し、玄関のドアを開けたと同時に香藤がリビングから飛び出してきた。「ああ、ただいま、香藤。」どこからか帰ってくるのを見ていたかのような香藤の出迎えに岩城は驚き、おかしくなってクスクスと笑ってしまった。
「?なに?なんかおかしかった?」「いや、相変わらず目ざといなと思ってな。」
「へへ、鼻が利くでしょ♪――雪、降ってたの?」岩城のコートを脱がせながら香藤は声をかける。そして、岩城の艶やかな黒髪にかすかに残る雪を指で優しく払った。
「ああ、結構降ってるぞ。庭の木も白くなってきてた。」
岩城が帰ってきたのはすでに1月26日も残りあと2時間あまりの時刻だった。
「夕方、俺が帰って来た時はちらちらしてる程度だったんだけどねー。寒かったでしょ?!お風呂、用意してあるから早く入ってきて。食事もまだだよね?俺、用意してるから!」
「ああ。ありがとう、香藤。」にっこりと微笑む岩城に、香藤も満足そうに笑った。

岩城が風呂から上がると香藤は和室で食卓の準備をしていた。
「こっちで食べるのか?」
「あ、岩城さん、ちゃんとあったまった?今日はねー、鍋にしたんだ。雪も積もってきたし、こっちの部屋なら庭の雪が見れるでしょ。せっかくだから雪見で日本酒もいいかと思ってさ♪岩城さん、明日休みだよね?」
いつの間にか和室にはコタツが準備され、コタツの上には温かな湯気を出しながら鍋が用意されていた。開け放たれた障子からは雪の庭が見て取れる。
「俺は休みだが・・・お前は明日早いんじゃなかったのか?いいのか?早く休まなくて・・・」「だ〜いじょうぶ!一日ぐらい徹夜でも平気だよ。それに・・・・・・・」
ふっと香藤は押し黙った。
「・・・ごめんね、岩城さん。せっかくの誕生日なのにずっと一緒にいれなくて・・・」
そう、明日の岩城の誕生日に香藤は朝から仕事だった。本来ならどうしてもオフの欲しかった香藤ではあった。しかし、映画の公開と共にようやく仕事が入り始めたとはいえ、まだ以前ほどではない。休んでいる間に事務所にも迷惑をかけている。それらを考えるとどうしても休みが欲しいと仕事を断ることは、今の香藤にはできなかった。
シュンと俯いてしまった香藤に「ばか・・・そんな事、気にするな。それに午後には帰ってくるんだろう?それで十分だ。」と岩城は優しく微笑んだ。
「でもっ、誕生日に岩城さん一人にするなんて・・・岩城さん、オフなのに・・」
明日、岩城はオフ。以前の岩城は自分の誕生日だからとオフを取るような事はなかった。だが、香藤と暮らすようになってから、岩城の誕生日を一緒に祝いたがる香藤のために岩城は毎年オフを取るようになったのだった。それが分かっているだけに香藤は余計に申し訳ない気持ちになり落ち込んでいたのだ。
「気にするな。別に誕生日だからってずっと一緒にいてくれなくていいんだぞ。一人でいたって別に寂しいって年でもないし・・・」
「違うよっ。俺が一緒にいたいんだ!岩城さんにとって特別な日だからずっと一緒に過ごしたかったのに・・・・・」
言っているうちに香藤はすっかりしょげてしまった。岩城はふぅと小さくため息をつきながらも愛しげに目を細めるとつむじが見えるほどに項垂れた香藤のくせ毛をくしゃっと撫でた。
「・・・誕生日が俺にとって特別なのはな、香藤。お前が祝ってくれるからだ。そうでなければ俺には大して意味のない一日だ。お前が、大切にしてくれるから俺にも大切な一日になるんだ。お前のその気持ちが嬉しいから・・・・でも、それは誕生日だけのことじゃないだろ。いつだってお前が俺を大切にしてくれてると感じるから・・だから例え一日中お前がいなくても俺は幸せでいられる・・・」
「岩城さん・・・」
「それにな、お前に仕事が入るのは俺にとっても何よりも嬉しい。俺のせいでそれを断るようなことになったら俺は誕生日を祝うどころじゃない。―――だから、俺への誕生日プレゼントだと思って安心して仕事に行って来い。待ってるから・・・」
「・・・うん、うん」
香藤はグスンと鼻をすすり上げて頷いた。
「あ、でも・・・」
突然、ふっと思いついた香藤は上目遣いでちらりと岩城を見る。
「ん?なんだ?」
「いやぁ〜、安心して仕事に行って来いって言ってもらえるのは嬉しいんだけど、ちょ〜っと寂しいなぁって・・・『俺と仕事とどっちが大切なんだ?誕生日くらいずっと俺のそばにいてくれ!』とか言ってもらえたら困っちゃうけど、嬉しいなあぁなんて・・・」
「っ!おまえは全く!俺が真剣に言ってるのにっ!そんなこと恥ずかしい事言う訳ないだろっ!思ってたって誰が言うか!!」
怒鳴って言い募る岩城に、香藤の顔が一瞬にして染まった。
「岩城さん・・・」
突然とろけてしまった香藤の顔を見て岩城はようやく自分の失言に気付いた。
「・・っ!」
「・・岩城さん、寂しいと思ってくれてるんだ・・・俺、すごく嬉しいよ」
「・・・うるさい」
照れて真っ赤になった岩城を香藤は優しく強く抱きしめた。


熱々の鍋をつついたあと、いつものように香藤が岩城を後ろ抱きにして二人でゆっくりと日本酒を傾けた。程よく酔いが回り岩城の肌がうっすらと染まり始めた頃、香藤が岩城の肩に顔を埋めゆっくりとささやいた。時計はちょうど0時をさしていた。
「岩城さん、27日になったよ。お誕生日おめでとう・・・」
「ありがとう。香藤・・・」
自分の肩にのる香藤の頭にこつんと頭を当てて嬉しそうに言う岩城に安心したように香藤は顔を上げた。
「あ〜良かった♪今年はずっと一緒にいられないからサ。せめて誕生日の始まり位はゆったり幸せな気分で迎えて欲しかったし、誰よりも早く直接お祝いを言いたかったんだ。へへ、安心した♪」
「ふふ、お前らしいな」
「誕生祝いは俺が仕事から帰ってきて改めてするから楽しみにしててねv」
「ああ、楽しみに待ってる。」
岩城の鮮やかな微笑みに香藤の顔にも満面の笑みがこぼれた。
ふと庭を見やると、すっかり雪で白くなっていた。
「なんか本格的に積もってきたね。ね、岩城さん、明日一緒に雪だるま作ろうよ。小さいのなら作れそうだよ。雪合戦したりさぁ〜、なんか楽しそう♪」
「そうだな。・・・フフッ」
いきなり腕の中で岩城がクスクスと笑い始めた。
「ん?」
横から顔を覗き込んだ香藤に尚もクスクスと笑いながら
「いや・・・子供と犬は雪遊びが好きと相場が決まってるが、やっぱりお前も好きなんだなと思って・・」
「・・・・・・・岩城さん、今、俺をどっちに例えた訳?子供?!それとも犬〜?!!!」
「あはははは」
腕の中の岩城を締め付け、揺さぶる香藤に岩城は大声で笑いながら身をよじる。
「ははは、悪かった。悪かったから、香藤。そうだな、明日は一緒に雪だるまを作って遊ぼう。ははは」
じゃれていた香藤がふっと急に動かなくなった。ぎゅっと岩城を抱き締めると、岩城の背中にぴったりと引っ付く。
「?香藤?」
どうしたのかと小首を傾げて香藤を振り返る岩城の腰を抱いていた香藤の左手がゆっくりと服の中に伸び、岩城の胸元に上がっていく。そして反対に右手はゆっくりと下に下がっていった。
「うん、雪遊びは大好きだけどさ・・・・」
「んっ・・・」
鼻にかかった甘い吐息が岩城から漏れる。香藤の動きに明確な意図を感じ、岩城の体がぴくりと震え俯いた。下を向いたために晒された岩城のうなじの雪肌からはアルコールのためだけではない熱によって甘い体臭が香りたつ。香藤はゆっくりとそこに熱い唇を落としていった。
「・・・もう、俺は大人だから・・・こっちの雪遊びの方がいいな・・」
岩城の雪肌が朱を帯び、それはより香藤を誘っているようだった。
「一緒に遊んで・・?岩城さん・・・・」


家の中の熱さに負けたのか、その勢いを弱めた雪に二人は気付くことはない。
熱い誕生日は始まったばかり・・・



 ちょびち



ふふふ、例えたのは勿論「犬」の方だよねv
とか思った私(笑)
きゃあん、微笑ましいシーンですわvvv
で、ここでも発揮される天然誘い台詞王の岩城さん!
ちょびちさん、素敵なお話ありがとうございますv