栗
「あ〜ん」 香藤が嬉しそうに岩城に向かい大きな口を開ける。 その口に岩城は今むいたばかりの栗を放り込んだ。 「ん〜〜美味しい〜♪岩城さーん、もう一個むいて〜」 「お前、ホントに栗が好きだな」 岩城は少し呆れたような口調で苦笑を浮かべながらも次の栗に手を伸ばす。 「も〜そうじゃないでしょ!?確かに栗は好きだけどさ。岩城さんにむいてもらって、こうして食べさせてもらうのがいいんじゃん♪」 岩城の実家から大きな丸々とした美味しそうな栗が届いた。 香藤はさっそく実家の母親に電話で作り方を習い、栗むきに悪戦苦闘しながらも栗ご飯を炊いた。 栗はほっこりと甘く、二人で秋の味覚を充分に味わったのだが・・・ しかし、二人で食べるには有り余る量の栗。 栗ご飯にしてもまだ半分以上が残っている。 ついでに母親から渋皮煮の作り方も伝授されたが、甘いものの苦手な岩城のことを考えればそれとて全部の栗を使い切るには至らない。 考えあぐねた香藤は残りの栗をいたってシンプルに茹で栗にすることにしたのだった。 「岩城さーん、栗茹でたけど食べるでしょ?」 「そうだな、せっかくだからいただこうか。」 ソファに座る岩城の横に座り、香藤は茹で栗を果物ナイフで半分に割るとスプーンですくって口に運んだ。 「うん!甘くて美味しいよ。岩城さんも早く食べてみて!」 はい、とナイフを渡すと岩城は器用に栗の皮をむき始めたのだった。 「あれ?岩城さん、割って食べないの?」 「ん?栗ってこうやって食べないか?」 岩城は綺麗に渋皮までむくと一個の塊りの状態の栗をぱくっと口に運んだ。 「うん、美味いな。」 そういうとまた次の栗を器用にむき始める。 「へぇ〜、岩城さん栗むくの上手だねー。俺、栗ご飯作る時、すごく苦労したのに。」 「生栗は硬いからな。茹で栗はコツさえつかめば簡単なんだ。」 妙なところで香藤に感心され岩城の頬が少し染まり、照れ隠しのように栗をむく手が早まってしまう。 「俺ンちではいつも半分に割ってすくって食べてたよ。」 「そうなのか?うちではいつも母親や久子さんがこうしてむいて食べさせてくれてたんだ。だから茹で栗はこうして食べるものだと思ってた。」 「そっか、岩城さんお坊ちゃまだもんねー。うちなんか洋子とバトルだもん。おふくろもがっついてる2人分むいてる余裕なかっただろうしな。」 「お坊ちゃまって・・・まあうちは兄貴と年も離れてるからな。あぁ、そういえば小さい頃は兄貴にもむいて食べさせてもらってたな。」 「えーっウソ!なんか意外〜。あのお兄さんがちまちま栗むいてるとこなんか想像できないよ!」 大げさに驚く香藤に岩城も苦笑するしかない。 「確かに今の兄貴からは想像しにくいかもしれないな。ましてお前には『怖い』ってイメージが強いから・・・でも小さい頃、俺が強請るとよくむいて食べさせてくれてたんだ。」 少し、昔を懐かしむように岩城は柔らかく微笑んだ。 「・・・そっか・・・、お兄さんもそれ思い出したのかもね。突然、栗を送ってきてくれるなんてどうしたのかとちょっと思ってたんだ。」 「・・そうかもな。ふふ、大方ひなにむいてやってて思い出したんだろう。」 「ふふふ、子煩悩だもんね、お兄さん。ひなちゃんに『パパ、栗むいて〜』なんて言われたら一日中でもむいてそうだよねー。」 愛娘の可愛いおねだりに目じりを下げて一生懸命栗むきをする姿を想像し、2人の笑い声がリビングに響いた。 「ね、ね!岩城さん、俺にもむいて食べさせてvvv」 「やっぱ美味し〜!もう一個〜〜♪」 子供のようにソファに乗り上がり岩城にむいてもらった栗を食べさせてもらう香藤の姿に岩城が楽しそうにクスリと笑ったのを香藤は見逃さなかった。 「ん?何?今、なんで笑ったの?」 「ふふ、いや・・・最近はすっかり大人びて頼れる感じだったから、そんな子供みたいなお前を見るのも久しぶりだなと思ってな。」 「あ・・。ゴメン、なんかガキっぽかったかな・・」 岩城の言葉に、香藤は心持ち緊張した表情になり居住まいを正した。 「!いや、そういう意味じゃなくて・・・」 「?」 真意を見極めようと真剣に顔を見つめてくる香藤に、岩城はほんのりと目元を染めると顔をそらした。 「・・・近頃は俺が支えられてる感じで、こんな風にお前から甘えられることもなかったから・・・その、ちょっと楽しいなと思って・・・・」 岩城の言葉にとたんにとろけるように表情を緩めると、香藤はそらされたままの顔をのぞきこんだ。 「もしかして俺に甘えられなくて寂しいとか思ってた・・?」 一瞬にして岩城の頬が染まる。 『まったくこの人は・・・ホントにたまんないよ・・』 「俺に甘えられるの好き・・?」 「・・・」 「嬉しい?俺を甘やかしたい・・?」 「――っ!」 照れ隠しか岩城はむきになって栗をむき、それを黙れとばかりに香藤の口に押し込んだ。 その指が口から出て行こうとする刹那、その手を取った香藤は舌で岩城の指を舐め上げた。 「なっ!」 ねえ岩城さん、栗よりもっと甘くて美味しいもの食べさせて・・? 岩城さんしか食べさせてくれることが出来ないものだよ・・・ ・・・甘やかしてくれるんでしょ? 「!・・お前、確信犯だろうっ」 染め上げたままの目元で睨む岩城に香藤はにっこりと笑った。 「当然でしょ?!岩城さんに関してだけは、俺はいつまでも我侭なこどもで分別なんかないからね。目いっぱい甘やかしてもらうから覚悟しててね♪」 ほこほこだった栗はその存在を忘れられ、ただ静かに冷えていった・・・ おわり |
2006/11 ちょびち
・・・・ラブです、甘いです、素敵です・・・・v
栗食べたくなりました(^o^)
私も食べさせて欲しいなあv
岩城さんの指を舐めた・・・いえいえ(笑)
ちょびちさん、とっても甘いお話ありがとうございますv