ちいさなぬくもり



「わあ ここにもたくさんあったね!」
目の前に広がる光景にイワキさんを振り返れば
「ああ 足をのばして良かったな」
イワキさんも嬉しそうに笑った
「じゃあ 頑張って採ろうか!」
「ああ そうだな」

俺達は色とりどりの落ち葉の舞う中
尻尾をフリフリ 木の実を集め始めた



秋も本番
いつも行く森よりも少しだけ離れたこの林へ今日は来てみた
今年は木の実の大豊作で もう冬の支度には充分な程のものは採れたんだけど
今までと違って初めてのふたりで越す冬だから
もう少し貯めておきたいと 俺が提案した
イワキさんは色んな事を考えたみたいで冬を前に1人暮らしをすると言ったけど
それは俺が断固反対した
慣れない土地での冬
それでなくても寒く淋しい季節に1人でなんて過ごしたら駄目だ!
イワキさんは絶対寂しがるし・・・
何よりも俺が淋しくて辛い・・・
会えなくなる訳じゃないけれど もうふたりでいる暖かさを知ってしまうと
手放せなくなっていたんだ
俺は木の実を拾いながら 少し離れた所にいるイワキさんを見た


イワキさんと会ったのは夏の終わりだったなあ・・・俺は時間の早さを感じた



他の森に住んでいたイワキさんとひょんな事から出会ったあの頃から数ヶ月
俺とイワキさんは時々喧嘩もしたけれど一緒に暮らしてきた
黒くて綺麗な毛並みのイワキさんに俺は一目で惚れちゃったけど
でも心の中はもっともっと綺麗でガラスのようで・・・
それを知る度にどんどん どんどん惹かれていって 今ではいつでも何処でも一緒にいる
視界の中にイワキさんがいないと不安になるぐらい
本当は寝る時まで抱きしめていたいけれど
でも・・・・それはまだ出来なくて・・・・


イワキさんも出会った頃に比べれば随分と笑うようになった
最初は何か考え込んでいる表情ばかりで・・・
今でもそれは無くならないけれど でも 前よりかは少なくなったと思う
イワキさんの故郷の森はここからずっと離れたところ
あんな所からわざわざ来たのはどうして?
何を考えて悩んでいるの?
何度もそう聞こうとした
でも・・・・なんだか無理に聞いてはいけない気がして 結局そのままで
だから少しでもイワキさんが楽しくなれれば・・・と
俺はイワキさんに笑って欲しくて 今まで過ごしてきたんだ
これからもそれは変わらない
もっともっとイワキさんに笑って貰うんだ
それが俺の元気の素にもなるんだから!
そして目指すは今の関係よりも1歩も2歩も進んだ関係だ!
俺は改めて心の中で拳を握った



「カトウ?」
「え?・・・わっ!」
呼ばれて振り向くとイワキさんの顔がすぐ側にあって驚いてしまった
イワキさんも俺の声にびっくりしたみたいだ
「どうしたんだ? 何かあるのか?」
そう言って並んで空を見上げる
どうやら俺は色々思ううちに空を見上げて 決意新たになっていたらしい
「あ・・・いや ごめん ごめん何もないよ ちょっとぼんやりしてしまって」
「ぼんやり・・・という割には力強く見つめていたような気がするが」
す するどい!
「へ? そ そう??」
あぶない あぶない・・・つい力んでいたみたいだ
俺がこんな風に思っているなんて イワキさんは全然知らないはずで・・・
まあ・・・・それも少し淋しいけど・・・
でもそんなに望みがないものでもないはず・・・・と信じたい
そんなに途方もない望みじゃないとは思うんだ・・・・たぶん・・・

「そんなことより どう集まった?木の実」
ここは話題を変えないと と話を振る
「ああ ほらこれを見ろ」
そう言ってイワキさんは籠いっぱいの木の実を見せてくれた
「すごいや!これだけあれば俺とイワキさんがしっかり食べても春まで大丈夫そうだね」
家にあるのと合わせればかなりの量になる
「・・・・そうだな」
イワキさんは少しはにかんだように 照れたように微笑んだ


・・・・その顔は反則です イワキさん・・・
俺はまたもやイワキさんに見とれてしまった




椎の実やどんぐりがたくさん詰まった籠を1つずつ背負って来た道を帰る
秋の風が 毎日少しずつ 冬の風に近づいていく
舞う葉の量も増えてきた
踏みしめる地面からはカサカサと音がする
俺達は時折り 右を見たり 左を見たり
そして木々の間から見える空を見たりして深まっていく秋を楽しんだ
秋は元々大好きな季節だけど 今年は特に心が弾んでいる
それはきっと大好きなイワキさんと過ごせているからだろうな
イワキさんも同じように今まで一番楽しいとか思ってくれてるといいな
そんなことを思った
そしてこの冬の間に
もう少し もう少し近づけたらいいな・・・そう願った



「・・・!? え?」
そっとイワキさんの手を握った俺に驚いたみたい
「ダメ・・・・かな?」
じっと目を見つめる
「・・・・・」
「イワキさん?」
「いや・・・・いい」
そう言って少し俯いた後 黙ってイワキさんは歩き始めた
「うん・・・・ありがと」
やわらかくて温かいイワキさんの手を俺はギュッと握りしめた
そしたらイワキさんもそっと握りかえしてくれた
それだけで・・・何も言葉はいらなくて
とってもとっても幸せな気分




もうすぐイワキさんと過ごす初めての冬がやってくる
それはきっときっと楽しい時間
イワキさん 俺 とっても楽しみなんだよ!
ふたりでたくさん話をして そして笑って 触れあおうね



俺達の住んでいる森まであと少し
でもそれまではこの手を離さないでいよう
そしてきっとこれからも・・・




これは何処かの森で暮らす 可愛い二匹のリスのお話
小さな小さな生き物のお話

どうか優しい時が彼らの上に舞い降りますように・・・・




                                        2006・11  日生 舞




※チャレンジして玉砕してしまったので(笑) 今荷物まとめています(とほほ;;;)
出会い編とか 実は香藤が見た夢だったとか色んなパターンを書いてみては
書き直しました・・・・(>_<)