岩城さんと6人の小人
とある世界のとあるところにとある王国がありました。 その国の王様はかなりの堅物ですが国民思いで皆幸せに暮らしておりました。 王様には年の離れた京介と言う名の弟がいました。 京介様は大変見目麗しかったので近隣の国からは是非我が国の姫と結婚をとの声が数多ありました。 しかし京介様はそれらの話にまったく耳を貸そうとはしませんでした。 京介様は王族としての堅苦しい暮らしに辟易していたのです。 王の弟と言う立場でもそれなのにいずれは王とならなければいけない他国の姫との結婚など考えたくも無いのでした。 そんなある日、ある国からまた京介様に結婚の話が齎されました。 その国を治める女王の婿にとの話でした。 当然京介様は断りました。 するとその女王は激怒し結婚しないなら戦争だと言い出しました。 それでもどうしても結婚したくなかった京介様は自分を死んだことにしてくれるよう兄である王様に頼みました。 王様も可愛い弟をそんな横暴な女王と結婚させたくなかったのでその願いを聞き入れました。 数日後、京介様が狩りの途中で崖から落ちて亡くなったと発表されました。 国民は皆嘆き悲しみ、お葬式には近隣の国からもたくさんの参列者が訪れました。 かの女王も亡くなったのでは仕方がないと矛先を収めました。 勿論京介様は本当に死んだ訳ではありませんでした。 しかし公式に死亡が発表され、葬式まで行ったのですからもうお城にはいられませんでした。 こうして京介様はあてもないさすらいの旅に出たのでした。 そしてお城を出て数日、ある森に差し掛かった時でした。 突然飛び出してきたうさぎに馬が驚き、振り落とされた京介様は気を失ってしまいました。 京介様はおでこにひんやりとした感触を感じて意識を取り戻しました。 ふと見ると小さな顔が間近で心配そうに覘き込んでいました。 しかも視線を巡らせると同じ顔がいくつも・・・・・。 京介様は驚いてガバッと身体を起こしました。 途端に肩や背中に痛みが走り「うっ・・」と呻きました。 「どこが痛むの?」「大丈夫?」「そこの木に凭れかかった方がいいよ。」 小さな同じ顔は口々に言いました。 一人の身長は30センチくらいでしょうか。 それが6人、京介様を取り囲むようにしていたのです。 6人の顔は全く同じと言っていいほどで見分けはつきそうにありません。 フワリとした薄い茶色の髪、元から垂れぎみだろう目が心配そうに眉を寄せているためより垂れて見えます。 京介様は6人の顔を見比べていましたがやがてあることに気づき辺りを見回しました。 「馬は、近くに馬はいなかったか?」 「馬?いなかったよ。」 「そうか・・・」 京介様はがっくりと肩を落としました。 馬がいなくなってはこれからは歩いて旅を続けるしかありません。 しかもこの打撲の痛みは暫く取れそうにありません。 項垂れている京介様の袖を小人がくいくいと引っ張りました。 「あのさ、旅は急ぎなの?そうじゃなかったら怪我が直るまで俺たちのとこにいなよ。」 京介様は驚いて小人たちの顔を見ました。 初めて会った、しかも小人から見れば大きくて恐い存在とも思える自分を泊めようと言うのですから。 「別に急ぎじゃないが・・・・・でもお前たちの家じゃ俺は入れないんじゃないか?」 「大丈夫。俺たちの住んでるとこの近くに空いてる狩猟小屋があるからそこにいればいいよ。」 京介様は小人たちに案内されてその小屋に向かいました。 狩猟小屋は簡素ながらしっかりした作りで生活するには不自由はなさそうでした。 足も少し痛めていた京介様は暫くここで暮らすことにしたのでした。 京介様がベッドに座って休んでいると外から帰ったはずの小人たちの声がしました。 「おーい、開けてー。」 ドアを開けてみると小人たちが手に手に大きな荷物を抱えて立っていました。 「なんだ?その荷物。」 「俺たちもここで暮らすから。」 「足が直るまで動き辛いでしょ。」 「食べ物とか探しに行けないだろうし、食事は俺たちが作ってあげる。」 「なら一緒に住んだ方がいいでしょ。」 「足痛いとこ悪いんだけどベッドとか運ぶの手伝ってくれると助かるんだけど。」 「人間の足ならすぐそこだからお願い。」 小人たちは一方的に言いたいことを言うと荷物を置いて外に出て京介様の方を見ました。 京介様は強引な小人たちに苦笑いしながらも外に出ました。 足の怪我を抜きにしても一人で暮らすことなどできないだろうと思ったからです。 引越しも無事終わり一息ついたところで小人の一人がやっと思いついたように言いました。 「そうだ、名前まだ聞いてなかった。なんて言うの?」 「ああ、そう言えばそうだったな。俺はきょ・・・・・岩城だ。」 「岩城さん?それだけ?」 「ああ。」 王子の京介はもう死んだのです。 だからその名は捨てて別な人間として生きていこうと思ったのでした。 ちなみに『岩城』と言うのは住んでいたお城が『岩の如き強固な城』と言われていたところからとったのです。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 作者よりお知らせとお願い と言うことでややこしいのでここから京介様を岩城さんと書くことにします。 《岩城》と書くべきなのでしょうが様付けからいきなり敬称がなくなるのは忍びないので(^_^;) この《さん》は王様の《様》○○姫の《姫》と同じだと思ってやってくださいませm(_ _)m 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「お前たちは?」 訊ねられて小人たちはにっこり笑い声を揃えて言いました。 「俺たちはね、香藤洋二。」 「かとうようじ?誰が?」 一人一人名乗られても見分けをつきそうにありませんが確かめない訳にもいきません。 「だから、俺たち全員で香藤洋二なんだ。」 「???」 岩城さんにはさっぱり訳が分かりません。 いくら小人とは言え一人一人に名前が無いなどと言うことがあるのでしょうか。 香藤たちはそれで全く問題が無いと言う様にニコニコ笑っています。 「だがそれでは呼ぶ時に困る。」 困惑顔の岩城さんに香藤たちは小首を傾げました。 「俺たち大抵全員一緒にいるから大丈夫だと思うんだけど。」 「でも一人ずつ呼んで貰えるならそれは嬉しいかも。」 「そうだな。」 「じゃ、俺が『か』」「俺が『と』」「俺が『う』」「俺が・・」 「ちょ、ちょっと待て、それも呼びにくい。それに、その・・・すまないがお前たちを見分けられそうにないから何か目印の様な物を付けてくれないか?」 「そう?」 「確かに俺たち全く同じだから見分けるなんて無理だよね。」 「う〜ん、どうしよっか。」 「そうだ!」 一人がいいことを思いついたと言うようにパンと手を打ちました。 6人は頭を寄せ合って何か話し合ったかと思うと荷物を掻き混ぜ始めました。 そして6色の布切れを取り出してそれぞれバンダナのように首に巻いたのです。 「俺は赤香藤って呼んで。」 「俺は黒。」 「俺は黄。」 「俺は緑。」 「俺は白。」 「俺は青。」 「赤香藤、黒香藤、黄香藤、緑香藤、白香藤、青香藤。」 岩城さんが一人ずつ顔を見ながら呼ぶと香藤たちはとても嬉しそうに笑いました。 それを見た岩城もなんだか嬉しくなって笑いました。 香藤たちは初めて見た岩城さんの心からの笑顔に胸がドキッと高鳴りました。 こうして岩城さんと香藤たちの共同生活が始まったのです。 森での自由な暮らしは岩城さんにとって、とても新鮮で楽しいものでした。 でもその楽しさは香藤たちと一緒だからこそだと岩城さんは気づき始めていました。 何もできない岩城さんに香藤たちは呆れることなく色々と教えてくれました。 そして何より香藤たちの笑顔を見ていると心が温かくなるのでした。 しかし怪我も殆ど治ったのでこれ以上世話になるわけにはいかないと思っていました。 一方の香藤たちも岩城さんとずっと一緒にいたいと思うようになっていました。 最初のうちは岩城さんがあまりにも何も知らず何もできないのでびっくりしました。 でも教えると一生懸命覚えようとし、その姿をとても可愛いと思いました。 そして何より泉で水浴びをする岩城さんの綺麗さに胸を打ち抜かれてしまっていたのです。 「もうそろそろ怪我治るよな。」 「そうだな。」 「そしたら行っちゃうのかな。」 「そんなのヤだ。」 「ずっと一緒にいたいよ。」 「じゃあ行かないでって言ってみよう。」 香藤たちは顔を見合わせて大きく頷きました。 その日の夕食の時のことでした。 赤香藤が口を開きました。 「ねえ岩城さん、怪我の具合はどう?まだ痛む?」 岩城さんはそろそろ出発しろと言われると思い胸がきゅっと痛みました。 「いや、もう痛みは殆どない。」 「そう・・よかった。」 白香藤はちょっと寂しそうに言いました。 「あのさ、岩城さん。怪我が治ったならもう旅に出でちゃう?」 青香藤が辛そうな顔で訊きました。 「そうだな。いつまでも香藤たちに迷惑をかける訳にもいかないし。」 「そんなの、俺たち全然迷惑だなんて思ってないよ!」 黒香藤が立ち上がって叫びました。 「そうだよ。行かないでずっといてよ!」 緑香藤も立ち上がって言いました。 「どうしても旅に行かないとダメ?」 黄香藤が目を潤ませて訊ねました。 「いいのか?俺がずっとここにいても・・・」 岩城さんが少し声を震わせながら問うと香藤たちは皆立ち上がり声を揃えて答えました。 「いいに決まってる!ううん、俺たちがずっといて欲しいんだ!!」 「ありがとう。元から行くあてなんてないんだ。ずっとここにいさせてくれ。」 「ヤッター!!」 香藤たちは飛び跳ね回って喜びました。 こうして岩城さんと香藤たちの共同生活はずっと続くことになったのでした。 怪我が治った岩城さんは強力な働き手でした。 香藤たちが苦労していた力仕事も岩城さんなら楽にできました。 高い所にある果実も岩城さんなら簡単に収穫できます。 しかし細かいことはやはり香藤たちの方が得意でした。 そして料理も岩城さんはなかなか上手くならず、香藤たちの仕事のままでした。 更にもう一つ、香藤たちには岩城さんの知らない重要な仕事がありました。 それは岩城さんが水浴びをする時の見張りです。 あの綺麗な岩城さんの肌を誰にも森の動物たちにさえ見せたくなかったのです。 4人が見張り、2人がこっそり岩城さんを覗く、これを交代でしていました。 「おい、交代だ。」 「え〜っ、もう?」 「大きな声出すなよ、岩城さんに気づかれる。」 「お前らさっさと交代しろよ。俺たちの番になる前に岩城さんが上がっちゃうだろ。」 泉の周りでこんな言い合いがされていることを岩城さんは全く気づいていませんでした。 こんな風に楽しい日々が続き、季節は巡ってやがて秋が訪れました。 秋は実りの秋でたくさんの食べ物が収穫できます。 冬に備えて蓄えもしておかないといけないので皆大忙しです。 積もった落ち葉に足を取られながらも香藤たちは今日も元気に出かけて行きました。 「随分葉が落ちてしまったな。もう秋も終わりか。」 岩城さんが葉の少なくなった木々を見上げていると一人の老婆が現れました。 「こんにちは。こんな森の中であなたのようなお若い人に会えるなんて驚いたよ。」 「こんにちは。おばあさんこそこんな森の中へ何しにいらしたんです。」 「私はこれからこの先の町へりんごを売りに行くんですよ。あなたも一ついかがです?」 言葉どおり老婆の持っているかごには美味しそうなりんごが入っていました。 よく考えればこの先の町と言ってもかなり遠いので老婆の言葉怪しいことこの上ありません。 でも岩城さんは久しぶりに人間に会えた嬉しさで警戒心が薄れていました。 「美味しそうなりんごですね。」 「美味しそうじゃなくて本当に美味しいんだよ。特別に味見させてあげよう。」 老婆が差し出したりんごを岩城さんは何の疑いもなく齧りました。 美味しければ買って一生懸命働く香藤たちに食べさせてやりたいと思ったのです。 しかしりんごを齧った途端岩城さんはその場に崩れ落ちてしまいました。 老婆が差し出したのは毒りんごだったのです。 「行く秋を惜しむよりもこの世との別れを惜しむんだね。」 老婆は被っていた頭巾を取ると30歳くらいの女に変わりました。 この女はあの横暴な女王で正体は魔女だったのです。 魔女は岩城さんが生きていると知って怒り殺しに来たのです。 岩城さんは遠のく意識の中で香藤たちの顔を思い浮かべました。 「かとう・・・」かすかな呟きを最後に岩城さんの息は止まってしまいました。 夕方になり帰ってきた香藤たちは岩城さんが倒れているのを見て驚いて駆け寄りました。 「岩城さん!」 「岩城さん、どうしたの!?」 口々に呼んで身体を揺すりますが岩城さんは身動ぎ一つしません。 「ヤダ、岩城さん。目を開けてよ!」 「岩城さんってば!!」 まだ身体も温かく眠っているだけのようなのにいくら呼んでも岩城さんは目を覚ましません。 「どうしてこんなことに・・・・・」 皆で悲嘆にくれている中、青香藤が転がっている毒りんごに気づきました。 「もしかしてこれ?」 「これに毒が仕込んであったのか。」 「誰がそんな酷いことを。」 「許せない!」 「でも、犯人を見つけても岩城さんは生き返らない・・・」 「これ食べたら俺たちも岩城さんのとこに行けるかな?」 白香藤の言葉に全員が顔を見合わせ頷き合いました。 毒りんごを切り分け皆で一斉に食べようとしたその時です。 「待ちなさい!」と声がしました。 声のした方を見ると一人の女が立っていました。 「あなたは魔女のナギサさん」 「その人はまだ死んでないわよ。」 その言葉に香藤たちはりんごを放り投げナギサに駆け寄りました。 「それホント!?」 「どうすれば岩城さんは目を覚ますの?」 「そのりんごには憎しみの魔法がかかってるわ。それを解くことができるのは愛の力だけ。心の底からの愛のこもった口付けでその人は目を覚ますはずよ。」 香藤たちは思いをこめて順にキスをしましたが岩城さんの目は開きません。 「やっぱり俺たちじゃダメなんだ。」 「小人じゃ岩城さんを本当に幸せにしてあげられないもん。」 香藤たちは自分たちが小人であることを嘆きました。 「今はまだ仮死状態だけど早く目を覚まさせないと本当に死んでしまうわよ。」 ナギサの言葉に従い香藤たちは人の通る街道近くまで岩城さんを運びました。 自分たちがいては邪魔になると思い少し離れて見守っていると2人の男がやってきました。 二人とも立派な身なりで裕福な暮らしをしているように見えました。 「あの人たちなら岩城さんを幸せにしてくれるよな。」 「うん、岩城さん働かなくてもよくなるよきっと。」 男たちは岩城さんに気づき馬を降りました。 「なんて綺麗な人なんだ。」 「確かに綺麗だけど男じゃん。」 「男だろうと女だろうと綺麗なモンは綺麗なんだよ。この人を城につれて帰るぞ。」 「あっそ。好きにすれば。」 どうやら二人はどこかの国の王子と従者のようです。 「でも本当になんて綺麗なんだ。眠ったままのあなたに口づけする無礼をお許しください。」 王子らしき男はそう言って岩城さんにキスをしようとしました。 そのキスで岩城さんが目覚めるかもしれないのですから香藤たちは見守るつもりでした。 でも王子の唇がもう少しで岩城さんのそれに触れそうになった時、香藤たちは知らずに飛び出していました。 「やっぱりダメー!!」 王子を突き飛ばすと岩城さんを抱き起こし、しっかりと唇を合わせました。 すると岩城さんはピクリと動いたかと思うと大きく咳き込んでりんごを吐き出しました。 「岩城さん!良かった目を覚ましたんだね!」 目覚めた岩城さんは驚いたように目を見開きその後何度も瞬かせました。 「香藤・・・お前どうしたんだ?そんなに大きくなって・・・・」 言われて初めて香藤は自分の変化に気がつきました。 香藤たちは一人になって普通の人間になっていたのです。 「あ・・・俺・・・・・・戻れたんだ!」 「戻れた?」 岩城さんの問いに香藤は頷きました。 「うん、俺元々は普通の人間である国の王子だったんだ。でその身分に任せて女の子いっぱい泣かせてたんだ。」 確かに王子の誘いを断る女性などいるはずがありません。 香藤はとてもハンサムだったのでなおのこと好き放題できたのです。 「そしたらある日魔女のナギサさんが現れて魔法で6人の小人にされちゃったんだ。元に戻るには一人の人だけを心の底から愛することだって言われてたんだ。」 「見つかったんだなその心の底から愛する人が。」 岩城さんは少し寂しそうに言いました。 「うん、今俺の腕の中にいる人だよ。」 「え?」 「岩城さん、愛してる。」 そう言うと香藤はもう一度口付けました。 「岩城さんは迷惑?男同士なんて嫌?」 その言葉に岩城さんは首を横に振りました。 「あの時、りんごを食べて意識が遠のいた時、もう一度会いたいと思ったのはお前だった。香藤、俺も愛してる。」 今度は岩城さんから口付けました。 それはすぐに深い深い口付けに変わりました。 「えっと・・あの・・・・・」 突き飛ばされたまま忘れられた王子が声をかけますが二人には全く聞こえていません。 「傷の浅いうちにさっさと諦めんだな。あの間に入るのは無理だぜ。」 王子はがっくりと項垂れました。 「ほら落ちてねーでさっさと立てよ。今夜はとことん付き合ってやっからさ、宮ちゃん。」 「小野塚、お前なぁそれが従者の言うことか?もうちょっと身分弁えろよ。」 「お前が一人前の王子になったら考えてやるよ。ほら行くぞ。」 小野塚は宮坂王子をほっぽってさっさと馬に乗り歩き出しました。 「あっおい、ちょっと待てよ。」 宮坂王子も慌てて立ち上がると馬に跨り小野塚を追いかけて行きました。 しっかり抱き合う岩城さんと香藤はそんなことには全く気づいていないのでした。 「ちょっとあなたたちいつまでそんなとこでイチャついてるの。」 暫く経ってかけられた声に二人はやっと気がつきました。 「あ、ナギサさん。」 「香藤くん元に戻れたのね。よかったわね。」 ナギサは本当によかったと言うようににっこり微笑みました。 「ナギサさん、俺訊きたいことがあったんだ。」 「あら、何かしら?」 「俺が小人の時キスしても岩城さんが目を覚まさなかったのはなんでなの?それになんで急に元に戻れたの?岩城さんを好きな気持ちはずっと一緒だったのに。」 「それはあなた自分で言ってたじゃない。」 「え?」 「小人の自分じゃ岩城さんを幸せにできないって。その諦めの気持ちがあったからあの時は目を覚まさせられなかったのよ。」 「あ・・・・・」 確かにその通りだったと香藤は思いました。 「それが他の人に連れて行かれそうになってやっと絶対に離れたくないって思えたから元に戻れたし目を覚まさせることができたのよ。」 「うん、俺あいつが岩城さんの唇の触れそうなのを見た時、絶対嫌だと思ったんだ。岩城さんの目を覚ますには仕方ないって思ってたはずなのに我慢できなかった。」 「もしお前が飛び出さなくてあのままキスされていても俺はきっと目を覚ますことができなかっただろう。」 もしそうなっていたら岩城さんは死に、香藤は小人のままだったのです。 二人はそれを思ってギュッと手を握り合いました。 「そうね、あの人は岩城さんの見た目だけに惹かれたんですもの。それは心の底からの愛とは言えないわ。」 そう言うとナギサはイタズラっぽく笑いました。 「ナギサさん、もしかしてこうなるって分かってて岩城さんをここに運ばせたの?」 「そうよ、魔法をかけてからずっとあなたを見守ってきたんですもの。あなたが本当に岩城さんを愛しているってとっくに分かってたわ。」 「ナギサさん、ありがとう。今日のことだけじゃなくてナギサさんに魔法をかけられなかったら俺最低の王様になってた。それに岩城さんにも出会えなかった。いくら感謝しても足りないくらいだよ。」 「どういたしまして。さて私はそろそろ失礼するわね。あなたたちイチャつくの止める気ないみたいだし。」 岩城さんは真っ赤になって握った手を離そうとしましたが香藤がそれを許しませんでした。 「あ、ねえナギサさん、あの魔女また岩城さんを狙ってくるかな?」 「大丈夫、今頃私の魔法の師匠伊坂先生が懲らしめてくれてるはずよ。城にいる時は強力な結界のせいで手が出せなかったけど外なら伊坂先生に敵うはずないわ。」 箒に乗って飛び去っていくナギサを見送った後、二人は手を繋いだまま小屋まで戻りました。 その道すがら二人はそれぞれの身の上を語り合いました。 どちらも問題は解決したのですからそれぞれのお城に帰ろうと思えば帰ることもできるのですが二人にその気はありませんでした。 お城に帰れば何不自由ない生活が約束されていますが二人で一緒にいられることに比べれば些細なことでした。 「俺は元々兄が王だからいいが香藤は本当に帰らなくていいのか?」 「うん。俺も小人になった時に国のことは妹に任せちゃったから。」 小屋に帰った二人はさすがに疲れて岩城さんのベッドに一緒に横になりました。 「やっぱり二人だと狭いね。」 「そうだな。」 「大きなベッド作ってもここには入らないだろうし。もう少し広い家探さなきゃね。」 「ああ・・そう・・・だ・・・・な・・・・・」 「あ、岩城さん寝ちゃった。くすっ、岩城さんの寝顔ってホント可愛いよね。」 岩城さんの額にキスをすると香藤も目を閉じました。 やがて岩城さんの寝息に重なるように香藤の寝息も聞こえてきました。 しっかりと抱き合って幸せそうに眠る二人は新居の夢を見ているのかもしれません。 おしまい '06.10.15 グレペン |
きゃああ、小人のチビ香藤くん!可愛すぎです!
1人持って帰っていいですか?(こらこら)
ナギサさんも登場しての可愛くて、そして優しいお話ですv
これからもおふたりで幸せに楽しく過ごしていくことでしょう・・・
グレペンさん、素敵なお話ありがとうございますv