神無月



 香藤が現在、本屋へと出向いたきっかけ…。
 それは、本当にふとしたきっかけからだった。

 自宅でオフを1人で過していた時、月替わりに偶然めくったカレンダー。
 今年のそれも残すところはあと三枚という処に、何となく時間の流れが早くなったかなあとか、歳を重ねると時間の流れがあっという間に感じるとか聞いたことがあるが、そんなものなのかなあとか考えてしまった時。
 これまた偶然に、視界に入っただけの、10月の別の呼び名。
 神無月…と、確かにこれも日本人であれば聞きなれた別称ではある。
 そういえば、神無月の由来は、10月には全国の神が出雲へと集まるからだという事だが、映画の公開祈願とか連続テレビドラマの時にも好調祈願のお参りとか、そういうものも確実に10月に出雲以外の神社である訳で。
 …とすると、もしかして神様がいない時に、祈願参りとかしている訳か?と、そんな疑問を抱いてしまった。
 勿論、ああいうのはドラマや映画の番宣も兼ねている訳だから、別に神様がいてもいなくても問題が無いと言われてしまえばそれまでなのだが、だとすると秋に多いお祭りも、神様がいない時になんでやるものなのかとか。
 …普段だったら、そんな事まで考えたりはしなかったのだろうが、とにかく珍しく率先してする事も無く、時間が空いていて…特に今日は1人でいる時間が長い所為か、いささか退屈だった事も否めない。
 だから、時間があるついでに、本屋まで来てしまった訳なのだ。

 普段余り来慣れていない所為か、少しばかり探すのには手間取ってしまったものの、季節柄旅行ガイドの近くにそれらしい本が何冊かあったので、手に取ってみてみた。
 いきなり余り難しい本を見たところで、そうそう簡単には頭に入るものでもないので、本当に観光がてらにちょっとした知識がプラスアルファされるような、そんな本を少しだけ流し読みしていた訳だが。
 …結局、余計に混乱しただけだという辺りが否めない。
 とにかく、本によって色々と諸説がありすぎて、どれがどうで何なんだか…という感じで軽く混乱してしまっただけなのだが。
 まあ、所詮は行き当たりで調べたようなものだから、そんなもんだろうとと溜息混じりに思ったりもしたのだが。

 それでも、現在手にていたその本を閉じようとしていた時に見つけたその文面。
 その文面に閉じかけていた手の動きを止める。

 『出雲の神々の会議では、全国各地の人間の事について話し合う。特にこの時から来年の会議までの間に、どこの誰と誰を結婚させるか、とかを打ち合わせする』

 …思わずその文面を読んだ時に口元に浮かんでしまった笑み。
 そして、さすがに本屋の書棚の前でやったらおかしいだろうから、心の中でそっと手を合わせて呟いた。

 別に自分は神とかそういうものを信仰しているとかいうことは無いし、何だか結局、神無月がどうとか神さんがどうとかはよく分からないけど、もしもこの話が本当だとしたら、俺と岩城さんを一緒にさせてくれるように言ってくれた神さんには感謝だな…。

 ……と。
 お陰で、今がとても充実して幸せだと言えるから。
 多分、それは他の誰であっても駄目で…。
 今の自分の人生の隣にいる相手が一番大事で最高で…だからこそ、心の底からそう思える。

 そんな、とあるオフの一日であった。



こげ、拝