俺の御主人様




俺の名前は香藤洋二。
″トナカイ″だ。
あ、今変な事考えただろ。
トナカイの着ぐるみなんか着て、コスプレしてるような悪趣味なやつ、みたいな。
それは誤解。
普段はちゃんと人の姿をしてるよ?
自分で言うのもなんだけど、イイ男だと思うね。
背なんて高いし、いざって時の為に身体だって鍛えてる。顔も、よくカッコイイ
と言ってもらえる。
一応、有名大学の経済学部卒業だし。…今は無職だけど。
じゃあなんで″トナカイ″って言うんだって?
それは俺の父親の家系が″トナカイ″だから。
普段は人の姿をしてるけど、御主人様である″サンタクロース″の命令があれば
トナカイの姿になれる。角があって四つ足で、大きな鹿に似たケモノの。
そしてサンタを乗せたソリを引くんだ。もちろん良い子にプレゼントを届ける為にね。
でも、サンタがいなければただの人。
トナカイになるどころか、早く走ることも空を飛ぶこと出来ない。
え?飛べなくて当たり前だって?
そりゃあ、普通の人には出来ないよ。
だけど俺は″トナカイ″だから。
″トナカイ″は″サンタ″の下僕。絶対服従なんだ。
サンタの命令があれば、それこそなんだって出来るよ。……命令さえあれば、ね。


そして今日はクリスマス・イブ。
年に一度の、俺の本領発揮する日。
張り切って頑張っちゃうからね!


「香藤、準備出来たか?」
そう言って岩城さんが近づいてくる。
「うん。バッチリだよ。…でもホント、その服似合うよね」「………バカ」
あ、真っ赤になって俯いちゃった。服と同じくらい赤くなってるよ。可愛い〜v
そう。この人は岩城京介さん。
俺の御主人様のサンタクロース。
俺と並ぶ背丈でスラリとしてて、手足が長くて腰なんか細くて。
髪は黒くてサラサラで、顔だってハンサムで。切れ長の瞳は綺麗に艶めいてて。
目に力があるっていうのかな。視線一つで男も女も殺せちゃうよ。実際俺なんか
メロメロだし。
つい数ヶ月前に出会って、色々あったけどようやく口説き落として、俺のこと認
めてもらったんだ。その時はムチャクチャ嬉しかったね。
本当にこんなカッコイイ人が俺の御主人様だなんて、神様どころか、世界中の人
に感謝してまわってもいいぐらい。

その岩城さんは、いわゆるサンタ服に着替えて目の前に立ってる。
襟や袖、裾に毛足の長い真っ白なファーをあしらった、真紅の手触りのいいベル
ベットの上下。同じ生地の手袋に、これまたファーの付いた三角帽子。
デザインも確かに良いけど、やっぱり着こなしてしまう岩城さんがサイコーだね。
既製の安っぽいサンタスーツなんて物じゃない。洋裁をマスターした妹、洋子の
お手製だ。
手作りだからって馬鹿にするなよ?
岩城さんの格好良さを引き出すデザインだし、生地だって極上の物を用意した。
下手なブランド物なんて足下にも及ばない出来上がりなんだから。
母さんも洋子もすっごく誉めてたから、俺の欲目じゃないと思う。
まあ、その時、
「チョー似合ってる。カッコイイッッ!!」
って抱きついてキスしようとしたら、
「離れろーーっ!」
って命令されちゃって。
ちょうど開いてた勝手口から裏庭まで飛ばされた。………リビングにいたのに。
しくしく。

それより仕事仕事!
頑張ってるとこみせて、岩城さんに好きになってもらうんだ。

「御命令をどうぞ。御主人様」
「トナカイになれ」
岩城さんの目の前で、一瞬にしてトナカイに変身する。
そんな俺を見て、岩城さんは呆然としてた。
「…本当にトナカイになるんだなぁ」
「だからそう言ったじゃん」
「うわっ!!その姿でしゃべれるのか?すごい変だぞ」
そんなこと言われたって…。さすがの俺でもへこみそう。
「そっ、それより。さあ、出発しよう」
すべての準備を整えて、ソリに乗り込んだ岩城さんが命令する。
「飛べ、香藤!」
俺は空中に向かって足を踏み出した。


慣れないながらも、俺達は、なんとか夜明け前にプレゼントを配り終えることが
出来た。
「香藤、お疲れ様」そう言って人間に戻った俺を労い、
「それで、これ。…お前に」
更に何やら細長い箱を差し出してくる。
「え?何これ、俺に?俺が貰ってもいいの?」
「ああ、そうだ。俺はサンタだからな。頑張ったヤツにはクリスマスプレゼント
あげないといけないだろう?」
なんて照れたように言われた言葉も、俺の耳には半分も聞こえてなかった。
喜びで震える手でプレゼントを受けとる。
「開けてもい?」
ようやく出た掠れ声で許可をもらうと、ゆっくりと開ける。
中には、太陽がモチーフのヘッドが付いた、赤のベルトのチョーカーが入ってた。
なんかもう、嬉しくて固まっちゃって。ありがとうって一言も出てこない。
岩城さんは、そんな俺の手からチョーカーを取ると、俺の首に着けてくれた。
目を細めてじっと見つめた後、全開の笑顔で、
「良く似合うな」
だって!!
「―――っ、岩城さんっ!嬉しいよっ。ありがとう!!一生大事にするからね!」
俺は岩城さんに飛びついた。
そして感謝のキスの雨を岩城さんの顔中に降らせる。
この感動が少しでも伝わるといいな、と思いながら。
でも、やっぱり。
「離せ―っ!そんな恥ずかしい真似するヤツは、北極まで行ってしまえ―――っ!!」
照れた岩城さんに北極まで飛ばされてしまった。
号泣。


その後、少し落ち着いたらしい岩城さんに呼び戻されるまで、10分もかからな
かった。



   END



2005.12.18.
玖美

すみません。某少女マンガをパロッてます。
(だって、トナカイと言ったら香藤くんよね〜vって思ったんですもの)
稚拙な作品ですがお付き合いいただき、ありがとうございました。

トナカイ香藤くん、まだまだ修行中(笑)?
でも岩城サンタといつまでも幸せそうですv
うちに来てくださいませ、是非!!煙突作って待っています!!(笑)
玖美さん、素敵な作品ありがとうございましたv