「香藤くんがサンタになった日」




今年はちょっとさびしいクリスマス。。。
子供の時は毎年、洋子とツリーだ、ケーキだとはしゃぎまくった。
そのうち友達や彼女とクリスマスになって・・・学生時代はそんな感じだった。
AVやってる時だって仲間内とパーティーしたりして大騒ぎしてた。
岩城さんと付き合い始めてからはどうだったろう。
お互いの仕事が忙しくなってきてたからクリスマスどころじゃなかったか。
年末なんて仕事に追われて今日が何日かさえわからなくなってたもんな。
去年は・・・映画がクランクアップして、いろいろあったからちょっと複雑なクリスマスだった。
今年は・・・俺だけ仕事がオフになった。
映画が公開されてだいぶ仕事も増えてきたけれど、まだ殺人的スケジュールとまではいかない。
24日の夕方から25日にかけては休みだ。
これで岩城さんも休みなら願ったり叶ったりなのだけど・・・そんなに都合良くはいかないわけで。
金子が運転する車の後部座席から外のイルミネーションを何気に眺めていた香藤はあるものに目を留めた。
それはデパートの壁面いっぱいに描かれたサンタクロース。
「おっ。その手があったじゃん!」
何を思いついたのか、香藤が無邪気な笑みを浮かべた。


「あれ?」
門をくぐりながら岩城はめずらしく香藤の部屋に明かりがついているのに気が付いた。
「ただいま」
「おかえり。岩城さん。メリークリスマス!」
玄関を開けると2階の香藤の部屋が開いてバタバタと走って香藤が現れた。
「なんだ。香藤。その格好」
「どう?似合ってるでしょ。惚れ直しちゃった?」
「どうしたんだ?それ?」
「あっ岩城さん。つめたいなぁ。なんかの番組でもらったの。確かあると思って探したらやっぱりあった」
クリスマスまでまだ10日はあるだろうというこんな日に真っ赤な衣裳につつまれた香藤。
「そんな役でもやるのか?」
「うん。まぁ。役っていえば・・・役なんだけどね」


「ねぇ。岩城さんはさ。サンタはいつまで信じてた?」
「ん。なんだ?香藤」
リビングでお茶を飲みながら、まだ赤いままの香藤が話し出した。
「俺はさ。洋子の夢を奪っちゃったんだよね」
「夢?」
「洋子がさ。まだサンタを信じてた時にさ。俺がサンタは親父だろって言っちゃったんだ」
ちょっとだけ背伸びしたかった子供の香藤に悪気はなかったのだけれど
「洋子。泣いちゃってさぁ。悪い事したなって。それでね」

・・・今年は俺が洋介のサンタになろうと思って・・・


聖なる夜。もう日付もかわり静まりかえったクリスマス。
岩城がみつけたのはリビングのソファで眠るサンタクロース。
洋介のところから帰って、そのままウトウトしてしまったのだろう。
その前には岩城へのプレゼント。
「俺のサンタクロース。ただいま」
こっそりそう囁いて岩城はそっと2階へ上がり香藤のベットの枕元に小さな包みを置いた。
そして香藤をゆっくり起こす。
「香藤。香藤。そんなところで寝ていると風邪をひくぞ」
「あっ岩城さん。おかえり。メリークリスマス」
「メリークリスマス。香藤。洋介くん喜んでくれたか?」
「うん。そりゃもう。目をまんまるくしてさ。すごく喜んでくれた」
「そうか。それはよかったな。そんな香藤のところにもサンタが来てたりしてな」
「えっ何?岩城さん」
「ほらっ上にあがろう」
その後、寝室で香藤は今日の洋介と同じ笑顔になった。

<後日談>
「家にサンタのおじいちゃんが来たんだよ」
電話で興奮しながら洋介が香藤へクリスマスに起きた出来事の報告をしている。
「洋介。サンタのおじさんだろ?」
「うううん。おじいちゃんだったよ。サンタのおじいちゃん」
香藤は正体がバレなくてホッとしながらも眉間にしわがよせている。
「うううっ岩城さぁ〜ん。俺、そんなに老けてるのかなぁ。どうしよう」
「迫真の演技だった事でいいんじゃないのか?」
頭をかかえる香藤の横で岩城がおなかをかかえて笑い出した。


H17.12.18
千尋

サンタのおじいちゃん・・・笑 香藤くんさりげなくショックだよねv
でも・・・優しい彼の性格が出ていて嬉しくなりました
きっと洋介くんはいつまでも忘れないでしょうね・・・
千尋さん、素敵な作品ありがとうございましたv