星降る街で逢いましょう −春抱き2001 in 名古屋−
「い・わ・き・さん!お疲れ様ー」 香藤が岩城の控え室に、そう声を掛けながら現れた。 その香藤の横を無言ですり抜けて、控え室から出て行こうとする岩城に、 「あ、あれ?ちょ、ちょっと待ってよ」 香藤は慌てて岩城の腕を取って、また控え室へと押し戻してドアを閉めた。 岩城は香藤に掴まれた腕をそのままに、 「どうして、今日、同じ番組に出る事を俺に内緒にしてたんだ?!」 と、問い詰めよるような口調でそう聞くのだった。 「だって、それは、岩城さんに内緒にしておいたほうが受けるからって言う番組上の都合で...」 「そうだよな。そんなこと言われても、お前が断るわけないよな」 「そうだよ!年末まですっごく忙しいから、岩城さんと一緒にいられる時間は貴重だと思ったから、ツルビさんから話しを振られた時、おもいっきしノったよ!じゃなくって...これは、仕事じゃん。 岩城さんだって、それを怒ってるわけじゃないんでしょ?」 「ああ!俺が気に入らないのは、今日帰るはずだった俺の予定を勝手に変更したりするお前のやり方だっ!」 「明日の朝帰っても仕事に支障はないって清水さんが言っても、 公私混同だって岩城さんは怒るだろうってのも分かってたけど、 それでも、俺、名古屋の街もこの時期イルミネーションが綺麗だって聞いたら、 岩城さんがイベントに疎いのは知ってるけど、どーしても二人でクリスマスしたくなったんだもんっ! ひとあし早いけど、この街の夜景を岩城さんへのクリスマスプレゼントにしたくなったんだよ...」 香藤からの言葉を聞くだけで、自分のわだかまりは解ける。それは解かっている。 香藤はやさしい...。それも解かっている。 だが、その優しさに素直に甘えられない自分が不自由だと、香藤の声を聞きながら岩城は思った。 そのまま俯くようにして無言になってしまった岩城の手を香藤は取りながら、 「知らせる順番が逆になってゴメンね...」 そう言って、岩城の指先に唇を押し付た。 「ん...いや、俺もお前の事はわかっているのに、つい、怒ってしまう。なんでだろうな」 「やっぱり、俺が我がままだからだよ」 「そうじゃない。お前は本当には、俺の嫌がる無茶なことはして来ないのに」 岩城は香藤の目を見つめて、そう返した。 その放たれた窓のように無防備な岩城の目を見返しながら、 今、香藤はそこから岩城の心を覗いているような気分を味わっているのだった。 二人の間が近づいても、香藤は岩城によく怒られてしまうのだが、 怒りながらも受け入れてくれる岩城が、可愛いくて、こんなふうに心を開いてくれる岩城が、いとおしい...。 香藤はまた、そんなふうに自分を許してくれる岩城に甘えたいとも思っていて、つい突っ走ってしまうのだ。 (あ〜あ、いっくら頑張ってもこれじゃ、いつまでたっても、岩城さんから子供扱いだよなぁ。 でも、こんな岩城さんを見るのも、俺、大好きなんだよぉ) そんな思いを確認するように、香藤は目の前の岩城を唇で捕らえようと、近づいていくのだった。 名古屋新栄にあるBCBスタジオを出た二人が目にしたものは、 街路樹や街路灯などに施されたイルミネーションが連なる光の通りだった。 「綺麗だねー。これ、ずっと名古屋駅まで続いているのかな。 名古屋は地下に人が溢れてるって聞いてきたけど、ホントに地上に人いないね。 ホテルまでタクシーで行こうかと思ったんだけど、歩こうか」 「えっ、大丈夫か?」 「んー、わかんないけど、せっかくだもん。いこっ、ね?」 香藤は促すように岩城に手を差し伸べた。 その手を取ろうか迷って宙に浮いている岩城の手を香藤はそっと握ると、グっと引いた。 「あ、こらっ」 「やっぱ、勝手に行く。こういう時に、岩城さんに考えさせとくと長くなるから」 そう言いながら、繋いだ手をそのままに香藤は歩き出した。 「俺だって、別に嫌ってわけじゃないんだから...」 と、小声で岩城が返す。 くすっと、香藤は笑いながら 「わかってるよ。だから、俺が強引でも許してくれるんでしょ?」 と応えると、岩城が人目を気にせず歩きやすいように、すぐに繋いでいた手を離して並んで歩きだした。 しばらく行くと歓楽街らしきところが現れ、それなりに人の流れも増えてきた。 「さすがに、冷えるね。岩城さん、大丈夫?寒くない?」 そう聞く香藤は、カラフルな編み込み模様のフェアアイルセーターにジーンズを合わせ、暖かそうに着こなしていた。 「ああ。風は冷たいけど、冬の空気は澄んでて気持ちいいな」 白い息を吐いて歩く岩城も、寒さから守ってくれそうなしっかりと編まれた白のアランセーターに黒のジーンズという、 いつものスーツ姿と違う気取らない服装をしていたが、人目を引く雰囲気を漂わせているところは相変わらずだった。 二人は、通りと通りの間に公園のある左手にテレビ塔の見える広い交差点まで、やってきた。 どうやら、このあたりが名古屋一の繁華街と言われる栄と呼ばれるところのようだが、 東京や大阪のように、人が溢れんばかりに歩いているというようなこともない。 「知らない街を歩くのって面白いね。岩城さんと二人なら、どこでもいつでも俺は楽しめるけど、さ。 あー、だけど、今日の収録はないよー。あんなに苛めることなかったじゃん!」 「役者が演技の上のことで苛めにあったなんて泣きごと言うな。みっともない」 「だって...。 ただでさえ、台本ナシ・打合せナシ・NGナシのぶっつけ本番の即興ドラマを演じるってんで、ドキドキしてたのに」 「本番でアドリブが得意なのはお前のほうじゃないか」 「そんなこと言ったって、岩城さんったらツルビさんを自分の味方にして、二人掛かりで俺に話しをぶつけてくるんだもん」 「条件で言えば俺の方が、お前が参加することを知らなくて、不利だったんだからな」 そのまま言葉を続けようとした岩城の口元が、ふっと緩んだ。 「だけど、困った顔を必死に隠しながら演技するお前は、本当に可笑しかったな。 収録中、笑わないようにするの、大変だったぞ」 そう言いながら、岩城は思い出してしまった光景に含み笑いが止まらない。 「もー、可愛い顔して、このー」 香藤が岩城の首を絞める真似事を仕掛けてくる。 岩城は笑いを止められないでいたが、 「こんなところで、止めろ。悪目立ちする。せっかく気持ちよく歩いてるのに、終わりにしたいのか?」 そう言って香藤を制したが、 「あ、岩城さんの耳、すごく冷たくなってるよ。これ、被って」 香藤は無視するようにそう言うと、肩に掛けたカバンから取り出したアラン模様の白い帽子を、ぎゅっと岩城の頭に被らせた。 「うー、やっぱりかわいいっ。白頭巾ちゃんだぁ!これが見たかったんだよー!!」 帽子には房のついた耳あてがついていた。 岩城は(はあ?)っという顔をして、この香藤の行動を咎めようと拳を握り締めたが、 潤んだような目で自分に見惚れている香藤の顔を見て、 「恥ずかしいヤツ...」 そう呟きながらも、拳を振り上げたりしないところをみると、岩城は香藤に付き合うことにしたようだ。 「へへ...」 イルミネーションの光がロマンチックに恋人たちを照らし出す。 通りを行く人は、また、まばらな状態になっていた。 (もう少しだけ、このままで...) 二人の気持ちがオレンジ色の優しい光の中で寄り添っていた。 おわり 2005.12.12 千。 |
岩城さんの白頭巾にはあはあしてしまう私は一体・・・;
微笑ましい、そしてロマンティックなクリスマスですねv
このままふたりの後をついていってしまいそうです(笑)
千さん、素敵な作品ありがとうございましたv